陣屋で行われたタイトル戦は将棋と囲碁をあわせて300局以上にもなる。その中で歴史に残る出来事として有名なのが「陣屋事件」。昭和27年、木村義雄名人と升田幸三八段は陣屋で第1期王将戦第6局の対局を迎えようとしていた。当時の王将戦は規定により、3勝差がついた場合は半香落ち(平手と香落ちを交互で指す)の手合で指すことになっていた。第5局まで升田八段の4勝1敗、第6局は升田八段の香落ちである。
ところが対局当日になり、升田八段は陣屋の玄関に行ったものの誰も迎えに来ないため、憤慨して帰ってしまい「対局拒否」という騒動になった。しかし実際には迎えの者がいたという。「名人に香を引いて対局することが、名人の権威に傷をつける」と考えた升田八段が対局をしないために口実を作ったのではないか、という説もあるが、真相は今も多くを語られていない。この事件の一か月後、升田八段は陣屋を訪れ、「強がりが雪に轉(ころ)んで廻り見る」と揮毫した色紙を預けて帰ったという。
この事件以降、陣屋では玄関に陣太鼓を置き、来客があると太鼓を鳴らすようになった。
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