2018.07.17
竹俣紅女流を破りマイナビ女子オープン本戦入り! 小野ゆかりさんインタビュー
7月7日に第12期マイナビ女子オープン一斉予選が行われ、本戦入りの12名が決定した。アマチュア選手は2名が本戦入り。将棋情報局ではそのうちの一人、小野ゆかりさんにインタビューを行い、一斉予選の感想、女性に将棋を広めたいという思い、普段の生活、本戦への意気込みなどを語ってもらった。
山口女流とは大の仲良し
谷口女流とは長年のライバル
Q 小野さん、一斉予選勝ち上がり、本戦出場決定おめでとうございます。(※トーナメント表はこちら)
ありがとうございます。
Q さっそくですが、一斉予選での戦いを振り返っていただきます。1回戦は山口絵美菜女流1級との対局でした。同世代ですが、アマ大会で対戦したことは?
学年は私が2つ上で、アマチュア時代に指したこともあります。本番では指したかな? 少し記憶が曖昧です。中学時代に出場した全国大会で出会って、それ以来の仲良しです。
Q 仲が良い相手とはやりづらかったのでは?
はい。すごくやりづらかったです。うちに泊まりに来てくれたこともあるくらいですから。でも、1回戦の相手と決まってからは連絡は取らないようにしていましたし、山口さんからも連絡はありませんでした。そこは、暗黙の了解で・・・
Q 戦いはいかがでしたか?
相振り飛車になることは予想していまして、研究していた形になりました。指す前、山口さんは私と同じような形の相振り飛車を指すので「どうしようかな」と思っていたのですが、似ていることで「多分こうやったらいやだろうな」という手が浮かびました。本番で知っている形になったのが大きかったです。
Q 1回戦を制し、決勝は竹俣紅女流初段とでした。ものすごい数のギャラリーでしたが、いかがでしたか?
なるべく観客席を見ないようにしていました(笑)。
一斉予選決勝を戦う小野さん
Q そういえば、昨年の一斉予選に続き、お勤めの会社の上司の方もいらっしゃっていたとか・・・
はい。社長を含め4人くらいで応援に来てくださっていました。対局中、ちょうど視界に入るような位置に立っているんですよ! やはり目が合うと気まずいので、あまり見ないようにしていました・・・遠くを見るふりをして確認はしていましたけれど(笑)。
Q やはり上司の方の応援というのはプレッシャーが掛かりますか?
いえ、私はすごいうれしいです。プレッシャーももちろん掛かりますが、普段将棋を真剣に指しているところなんて見せないですよね。それをわざわざ会場に足を運んで見に来てくれるというのはモチベーションが上がります。ただ、1回も勝てなかったらどうしようというのはあります。1回戦負けは避けたいなと。
Q いろいろなプレッシャー要素(?)がある中、将棋はいかがでしたか?
竹俣さんの角が閉じ込められる形になった中盤で優勢とは思ったのですが、油断して負けたことがこれまでにもたくさんあるので、気を緩めずに指しました。感想戦でわかったのですが、序盤は竹俣さんが正確に指していればもう少し苦しい戦いでした。序盤には課題が残りますね。
Q この将棋に勝って一斉予選を突破し、抽選で本戦1回戦の相手が谷口由紀女流二段に決まりました。会見でも「アマチュア時代から一緒にやってきた谷口さんとこういう形で当たれることは、私もすごく胸が熱いです」とコメントされていましたが、それは15人の中で一番対戦したかったと考えてよいのでしょうか。
はい。指したかったです。
Q 谷口二段がアマ時代にたくさん対局されているのですね。
対局数が多いというより、小学生の時から大会で当たっているライバルという感じです。
Q なるほど。これまでのおおよその対戦成績は?
勝ったり負けたりですが、ちょっと分が悪いと思います。
Q 手の内はわかっている?
そうですね。うーん、わかっているとはいえ最後に対局したのが高校生の時なので、実はわかっていないかもしれません。谷口さんがプロになる時、「公式戦で当たりたいね」とお互い言い合った間柄ですので、対戦が楽しみです。
将棋との出会いは学童クラブ
名刀四間飛車で学生将棋を戦う
Q 将棋はいつ、だれに教わりましたか?
小学校1年生の時、通っていた学童クラブで月1回、小田切先生(※小田切秀人指導棋士六段)が将棋を教えに来てくださっていまして、それが将棋を始めたきっかけです。父は「俺が教えた」と言っていますが(笑)、私の記憶では学童クラブが最初です。
Q 将棋を続けたいと思ったのはなぜでしょう。
将棋って始めたての頃は楽しさを見出すのが大変というか・・・最初は「難しいな」と思ってあまり続けようという気もなかったのですが、両親が「せっかく始めたなら続けてみたら」と言ってくれまして。ただ、習ったことを家で父に試そうとすると、父が大人げなく負かしに来るんですよ! いっぱい泣きました。それで、途中からは「父に勝とう、勝ちたい」という思いで続けました。
Q それからはどうやって腕を磨いたのでしょう。
小学3年生の時、小田切先生が東京駅近くで将棋教室を開催されていまして、週1回くらいのペースで通っていました。それから間もなく、先生が現在「棋友館」のある阿佐ヶ谷に教室を構えられて、それからはそこに通いました。小学生の頃はひたすら「棋友館」でした。
Q それ以降は?
中学生になって学校も忙しくなると小学生の頃ほどは教室に通えなくなってしまったのですが、教室で開催していた生徒と大学将棋部の方が混じって指す「乱取り」にはなるべく参加するようにしていました。高校生の時も「乱取り」が主体です。
Q その成果か、高校時代は数々のタイトルを取られました。(※全国高校新人大会2回、全国高校女子選抜2回)
高校選手権だけは優勝できなかったんです。1年生の時は必勝の将棋を負けて大泣きしました。2年生の時は室谷さん(※現谷口由紀女流二段)に決勝で負けてしまって・・・
Q 大学時代はいかがでしょう。
将棋部で、プレイヤーとして頑張っていました。大学将棋は毎週のように大会があったので、ずいぶん鍛えられました。通っていた日本大学は関東大学団体戦A級でしたので。1~3年はレギュラーでしたが、4年になると元奨励会の人が何人か入ってきて、(7人制の)リーグ戦では出たり出なかったりでした。
Q 一斉予選もそうでしたが、将棋を拝見すると戦法は四間飛車、相手が振り飛車の時は相振り飛車と決めているようですが、そのスタイルは学生時代から変わりませんか?
はい。学生時代から四間飛車です。四間飛車しか指せない・・・
でも、これで戦えるうちは変えなくていいかなと思っています。
Q 他のものに興味を持つ可能性もあったと思いますが、続ける動機づけになったのは何でしょうか。
そうですね・・・将棋は「やりたい時にやる」というスタイルで続けてきましたので、それが良かったのかもしれません。それに、やめたいと思ったこともあるのですが、全国に将棋を通しての友だちが多くいますので、そんなに簡単にはやめないですよね。
公式戦6割超の好成績も
プロ入りはしないスタンス
Q 公式戦で指すのと、アマ大会で指すのは違いがありますか?
アマ大会は1日の対局数が多く、体力が必要です。1回勝っても、「次あの強い人だ、うわー!」って思ったり、大変です。公式戦も体力は使うのですが、基本1日1局なので、「この1局だけ精一杯やればいい」と考えて、集中して指しています。
Q 気持ちの上での違いはどうですか?
アマ大会では、最近若くて強い子が出てきてプレッシャーを感じています。今回の一斉予選に出ていた礒谷真帆さんや、野原未蘭さんも強いですよね。ただ、やはりアマ大会では「負けてはいけない」というプライドを持って指しています。公式戦はほとんどがプロ相手なので「こちらはアマチュアだからプロの方々よりは気楽に戦える」と思って指しています。
※ここで、小野さんにこれまでの対プロ全戦績を見てもらう。
Q 公式戦は2007年の第1期マイナビ女子オープンから数え、これまで46局を指しています。思うところは?
こうやってみると「いっぱい指しているなあ」という感じです。マイナビ女子オープンが最初なんですね。あ、そうそう、これは推薦枠で出たので、チャレンジマッチができた時は「あーあ・・・」と思いましたね(笑)
(※注・第4期にチャレンジマッチが新設されたことにより、第1期から第3期まであった予選へのアマ推薦枠が廃止された)
Q 印象に残っている対局は?
(表をながめて)あれこれと思い出しますね・・・あ、そうでした。ここで室谷さんと指しているんですよ。泥仕合でした。西山さん(朋佳現奨励会三段)と指した時はものすごく力の差を感じました。中井さん(広恵女流六段)に勝った時はとても嬉しかった!
Q 28勝18敗、勝率0.609と素晴らしい成績です。
あまり意識はしていないのですが、ネット上で成績がまとめられているのをちらっと見たことはあります。
Q 実力があっても普段からの練習がなければこの成績はなかなか残せないと思いますが、将棋はどこで指されているのですか?
社会人になってからは指す時間はなかなか取れていません。ただ、棋戦に出場させていただく機会が増えたので、1日1回は何かしら将棋に触れるようにはしています。それもちょっと難しいですけれど・・・
Q これまでに3回ベスト8入りを果たし、女流棋士になる資格を得ていますが、いずれも権利を行使していません。
メンタルが強いほうではないので・・・小田切先生は「大会前日に眠れない人はプロには向いてないよ」とおっしゃるのですが、私は緊張でお腹が痛くなったりしてしまうほうなので。趣味で指すほうが楽しめるかなと思っています。
あと、テレビ対局の第38期女流王将戦、対里見咲紀女流戦でベスト8入りを決めた時、聞き手が室谷さん(※谷口女流)だったんです。終局後彼女に「権利得たじゃん」と声を掛けられ、その後、「女流棋士」に対する考えを語ってくれました。それを聞いて、また私なりに考えて「私はこのままアマチュアでいたいかな」と思うようになりました。ただ実は、就職活動で大変だった時に少しだけプロ入りが頭にちらつきました。「いやっ、違うっ」って打ち消しましたけれど(笑)。
もうひとつ、女性アマって、ある程度のレベルから「プロになるか、やめるか」の2択になってしまうようなところがあるんですよ。私としては、みんなに続けて欲しいと思うのですが・・・
ですので、私が社会人で将棋を続けていたら、ついてきてくれる人がいるのではないか、という思いもあります。
Q なるほど、様々な理由からプロ転向はしないと。このスタンスはこれからも変わらない?
はい。変わらないと思います。
最強女性アマの素顔は
海にやさしい新人会社員
Q 現在は会社員ということですが、どんなことをされているのでしょう。
勤めている会社は「海」に関する事業をしています。例えば自治体に、ある場所の海の環境を良くするためにどうすればいいかをデータをもとに提案したり、海の近くで工事があったら与える影響を調査・報告するなどの事業です。私はまだ入りたてですので表に立ってバリバリとはいかないのですが、データをまとめたりする仕事をしています。
Q 何か資格をお持ちでしょうか。
はい。「技術士補」と「港湾海洋調査士補」を持っています。「補」がつかない「技術士」「港湾海洋調査士」という資格もありますので、将来的には「補」を取るために試験を受けたいと思っています。
Q 大学の時の学部は?
「生物資源科学部」にいました。
Q ということは、おそらく海の環境にも関係ありますね。大学で学んだことを活かせる仕事と考えていいのでしょうか。
大学では「イルカの生理学」をテーマに研究をしていまして、これはどちらかというと医学寄りの研究でした。ですので現在の仕事と直接的には結びついてはいないのですが、調査する場所にイルカがどれくらい現れるかなどを大学時代の先生にうかがったり、いろいろな相談もできますので、まるで関係がないというわけでもありません。
Q わかりました。次は仕事の話を離れた質問を数点させてください。休日は何をされていることが多いですか?
音楽やお笑いのライブに行くのが好きです。音楽はaikoのファンです。あとはお酒を飲みに行くことも多いですね。
Q 好きな食べ物は何ですか?
それは、料理の話ですか?
Q 料理でも、食材でも。
食材なら卵ですね。卵好きです。
Q お酒は?
日本酒が好きです。あ、でも普通にカクテルとかも飲みます。
Q 得意料理はありますか?
実家住まいなので、あまりしません・・・
家に一人しかいない時に冷蔵庫を開けて「名前のない何か」を作るくらいで・・・
Q レシピを見ず名前のない何かが作れるのは、料理の素質がある証拠です。
ありがとうございます。
将棋ブームについては?
女性に将棋を広めるには?
Q 今、将棋ブームが沸き起こっていますが、これについてどう思いますか?
興味を持ってくださる人が増えたのはうれしいですね。「若い人がいない」「地味」と思われがちですが、そういう世間的な将棋の印象も変わったのではと思っています。
Q 学生時代、将棋を女性に広める活動をしていたと聞いています。具体的にはどんなことをなさっていた?
高校女子選抜大会のお手伝いをしたり、オリジナルで女子高生大会の運営をしたりしていました。活動は下級生に引き継ぎたかったのですが、バトンタッチが難しかったですね。
Q 女性に将棋を始めてもらうため、女性の間で将棋を流行させるために大切なことは何だと思いますか?
強い人の中に初心者がひとり、男性の中に女性がひとりって、すごくつらいことだと思うんです。グループ内に、同じ女性であり、初心者なら初心者というように同じくらいの棋力の人がいることが大切かなと思います。
ファン(?)に向けて
1回戦に懸ける思い
Q これまでテレビ対局での活躍もありました。街で声を掛けられたことは?
(笑)掛けられないですね。
Q テレビ対局だけでなく、中継で小野さんの将棋を見たことがあるという方も多いと思います。今期一斉予選の決勝は中継対象でしたし、本戦も中継されます。アマチュアでありながら、既にファンの方もいらっしゃるかと。
ふふっ。あっ、笑っちゃった・・・
いたらうれしいですね。あっ、親戚はファンになってくれていますよ。親戚だけのグループラインがあって、そこでよくいとこと叔父さんで盛り上がったりしています。
Q いたら・・・ではなく、小野さんの活躍からすれば親戚の方だけでなく純粋ファンはいらっしゃると本気で思いますが・・・わかりました。ではファンに向けて、ではなく、本戦1回戦を観戦予定の方に向けてメッセージをお願いします。
はい! 会社員の私がどうやって戦うのかを見て欲しいと思います。谷口さんも私もお互い思い入れを持って戦う1局なのでぜひ注目してください。応援よろしくお願いいたします!
インタビューはお勤めの会社でさせていただきました。小野さんはスーツ姿
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