将棋情報局

兄弟弟子がざっくばらんに語り合う『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』

先崎学九段、中村太地王座共著の新しいタイプの棋書ができました。

本日紹介する書籍は、これです。

先崎学九段と中村太地王座が、チョイスした名局13局について自由に語り合う、新しいタイプの棋書となっています。

まずは選ばれた13局をご覧いただくため、章立てをご覧ください。

 

第1局 27歳の大山を退ける、木村義雄の底力
    木村義雄名人VS大山康晴八段

第2局 「神武以来の天才」加藤一二三の挫折
    大山康晴名人VS加藤一二三八段

第3局 詰みを指摘した記録係、高校生三段の米長
    升田幸三九段VS大山康晴名人

第4局 無冠の50歳大山、中原にリターンマッチを挑む
    中原誠十段VS大山康晴永世王将

第5局 シリーズ最終局を制した、名人の手渡し
    中原誠名人VS大山康晴十段

第6局 深夜の「終盤の魔術師」森けい二
    森けい二七段VS内藤國雄九段

第7局 「泥沼流」米長の逆転術
    米長邦雄棋王VS中原誠王位

第8局 大山VS米長のダブルタイトル戦
    米長邦雄棋王VS大山康晴王将

第9局 奇跡的な大トン死
    真部一男七段VS佐藤大五郎八段

第10局 がん明けの63歳大山、執念の名人挑戦
    大山康晴十五世名人VS米長邦雄二冠

第11局 「怒涛流」大内の勝負手
    大内延介九段VS森けい二王位

第12局 新鋭、先崎と村山聖の決勝戦
    先崎学五段VS村山聖五段

第13局 谷川と羽生の永世名人レース
    羽生善治名人VS谷川浩司竜王

 

次に、構成についてです。

各章の構成はどれも同じになっています。

まず「テーマ図」と題した、勝負の分かれ目となった局面を掲載してあります。

ヒントもついていますので、どう指したかのかを考えてみてください。

 

そして、両者の掛け合いにより、本手順を序盤から追ってゆくページへと続きます。

また、該当の将棋に現れた局面だけでなく、類似局に現れた局面や、エピソードの説明に必要な局面なども盛り込まれています。

 

 

 

本ページでは、両者の師匠である米長邦雄永世棋聖の将棋、

第7局 「泥沼流」米長の逆転術
米長邦雄棋王VS中原誠王位

のテーマ図と、テーマ図周辺の解説を御覧いただきます。

※ウェブ掲載用に内容を一部変更しています。

 

第7局 「泥沼流」米長の逆転術
米長邦雄棋王VS中原誠王位

【テーマ図は△4八龍まで】

 

テーマ図ヒント:テーマ図の△4八龍に▲同角は△5八とから寄せられてしまう。米長流の勝負手は何か。

◇同一対戦カード歴代1位

 米長邦雄と中原誠。昭和から平成にかけて激闘を繰り返し、同一対戦カード1位の記録を樹立した。戦績は中原106勝、米長80勝、1持将棋。名人戦6回、十段戦4回、王位戦4回、棋王戦2回、王将戦3回、棋聖戦1回とタイトル戦で20回も顔を合わせた。タイトル戦の戦績は、中原が14勝6敗と勝ち越している。奨励会入会、四段昇段は米長の方が先。しかし、タイトル獲得は中原の方が早い。タイトル戦では1973年度の第23期王将戦で初対戦し、中原が防衛。以降、タイトル戦は7回連続で中原が制した。
 本テーマで取り上げる第20期王位戦は1979年度で、米長と中原は数多くのタイトル戦でぶつかった。春の第37期名人戦から始まり、第20期王位戦、第18期十段戦で米長が挑戦。年が明けて第5期棋王戦、第38期名人戦、第36期棋聖戦、第21期王位戦と立て続けに戦った。

 

(中略)

 

~ここから、テーマ図周辺を調べている両者による掛け合いをご覧ください。

【第1図は▲5七角まで】

 

中村 ▲5七角(第1図)に△5八歩(第2図)ですかぁ。着実ですが、と金を作って横から攻めるのは時間がかかります。相当良いと思っているかもしれません。

【第2図は▲5七角まで】

 

 △5八歩に▲7四歩△5九歩成▲7五角△4八龍(再掲テーマ図)と進んで、あの手が指されます。

【再掲テーマ図は△4八龍まで】

 

先崎 △4八龍で終わりだと思っていたんだね。▲同角なら△5八と(変化1図)が、角取りと△7九銀からの詰めろで決まります。

【変化1図は△5八とまで】

 

中村 1分で指した▲6七金寄(第3図)が渾身の勝負手。龍を取らずに逃げ道を広げました。

【第3図は▲6七金寄まで】

 

先崎 高級なハメ手なんだ。少し戻って△5八歩は中原将棋らしい。一見遅いけど、正確なスピード計算ができるから分かりやすく勝ちと読む。そこにつけ込んで、▲6七金寄で妙に寄りにくいというストーリーをこしらえた。先手が諦めた感じに見えるから、ハマりやすかったか。▲5九歩の防波堤を作られて、それを壊している間に勝負にされちゃった。△5八歩に▲7四歩から▲7五角が地味に良い手でしたね。

中村 一見、▲7四歩では▲6六角(変化2図)の方が香取りで厳しく見えますからね。

【変化2図は▲6六角まで】

 

 

 

米長渾身の▲6七金寄、そして弟子である両者による検証、いかがでしたでしょうか。

本ページで紹介したのは1章のごく一部分ですが、これが13局まるまる一局分と、脱線もたくさんありますので、相当に読みごたえがあります。

脱線は、例えば本ページで紹介した第7章ではこんな感じです。米長が序盤で▲9八香と穴熊を匂わせた手に対して・・・

【図は▲9八香まで】

 

先崎 穴熊は相居飛車より対抗形で指されていた戦法だけど、昭和50年代前半はまだ下品な戦法と思われていた。僕が将棋を覚えたぐらいのころだと、穴熊にするだけで文句を言われましたよ。

中村 私もそうですよ。初めは穴熊禁止でした。まぁ、父が嫌いだったからですが(笑)。

先崎 大山先生も穴熊が嫌いだったんだ。「居飛車穴熊は王手が掛からないので、詰まされるプレッシャーがないからずるい」と、僕にこっそり言ったことがある。

これは、リアルの大山十五世名人を知っているからこそ生まれた言葉ですね。

他にも・・・

先崎 若いころ米長先生は激しい将棋で、1回前に出たらのすという野蛮な棋風だったんですよ。それがある時期から少し柔らかくなって、流れに身を任せていく将棋になったんですよね。なぜなら、一気にバーンとのすだけだと、大山、中原には勝てなかったんですよ。升田幸三には楽勝(6戦全勝)で、米長先生がガーンと攻めればつぶれてくれるけど、大山、中原の柔らかいタイプには吸収されちゃうから、それで、ちょっと柔らかい指し方を覚えていったんじゃないですかね。
 あと、中原先生は気合がすごかった。僕が対戦したときはベテランのときだけど、呼吸の音が聞こえてくる感じだったんですよ。あの呼吸の音は、記録係や観戦記者には聞こえないらしい。盤の前に座っている人間にしか「ぜぇぜぇはぁはぁ」は聞こえない。

中村 それは意外でした。「自然流」で、涼しい顔で指されているイメージだったので。

先崎 夕食休憩のときに、顔の上にハンカチを当てて、盤の前で寝っ転がっていました。これ、50歳前後の話ですよ。
 だから、中原米長戦は、中原先生の気合の方がすごかったんですよ。米長先生の方が勝負に甘いところがあって、中原先生は勝負に辛い。米長先生はそれを分かっているから、頑張って自分自身に気合をかけていたんだ。

中村 へぇ、うちの師匠の方がすごいイメージでしたけど、そういうわけでもないんですねぇ。

このような、兄弟子が古き時代のエピソードを弟弟子に伝えるようなやりとりが、ふんだんにちりばめられています。

最後に、両者のまえがきをご覧いただきます。

兄弟弟子コンビが昭和の名局13局について自由に語り合った意欲作、『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』、ご予約受付中です。

 

まえがき
 中村太地君とは、十数年の付合いであって、いつも「たいち」と呼んでいる。月に一、二回酒席をずっと共にしてきたのだが、私が話す内容の半分は真面目な彼にはとてもそぐわないくだらないこと。残りの半分の八割は私のグチ。そして残ったほんのわずかなところに本書の内容のような昔の棋士のことや将棋の評論を私が語るという案配だった。このすこしの将棋のはなしが聞きたいために、たいちは他の時間をじっと聞き役に徹して我慢しているのである。
 ある時、酔っぱらいの常、いつもいつも同じようなことをいっている自分に気がついて、それなら一冊の本にまとめてしまおうか、という安易な話題が酒席で出た。トントンはなしが進み、この本ができた次第である。
 木村義雄がいなかったら今の将棋界はないわけで、すべての棋士は木村義雄に足を向けて寝られんのじゃい、大山康晴という人は、ホントに馬鹿みたいに将棋が強かったんじゃい。そういったことを書きたかった。
 作業は毎回我が家でやり、その日は私がカレーライスを作った。ふたりでカレーをかっ込みながら一日中語り合ったこの本。どうか伝統ある将棋界の「厚み」を感じていただければ幸いである。

先崎学

 

まえがき
 本書のテーマは「名局鑑賞」。20世紀編は自分が生まれる前の棋譜が多い。だが、いざ盤に並べてみると、人間の指す将棋ならではの気迫、勝負の面白さが伝わってきた。
 普段の棋譜並べは最新形に偏ってしまい、ひとりでやることがほとんどだ。今回は先崎九段と検討を行い、二人で考えてようやく時代背景や指し手の意味がわかったものが多く、より深く先人や名勝負に思いをはせることができた。
 例えば、第9局の▲真部一男―△佐藤大五郎戦。劇的な結末で、初めて知ったときは本当に驚いた。翌朝の光景を見た先崎九段の話は迫力があり、河口俊彦八段の『対局日誌』に掲載されたエピソードからは、敗れた棋士の無念な気持ちが手に取るようにわかった。
 私自身、有名な局面を知っている将棋でも、初手から並べたのはほぼ初めて。一局を通して見ると新鮮で、あの妙手はこういう流れで生まれたのかと改めて感心した次第である。
 本書の構成は、テーマ図、対局背景、先崎九段と中村の検討、総棋譜で成り立っている。テーマ図で次の一手をじっくり考えたり、棋譜を並べてから我々の検討と比較しても面白いだろう。指し手だけでなく、個性的な棋士のエピソードからは、何十年も前の勝負が鮮やかによみがえるはずだ。読者の皆様にも、将棋の魅力を改めて感じてもらえたらうれしい。
 先崎九段と共著を出すのは今回が初めてだ。高校生のときから将棋を鍛えていただき、たくさんお世話になってきた兄弟子と、一緒に本を残せるのは感慨深い。先崎先生、そして関係各位の皆様に感謝を申し上げる。

中村太地


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