2018.05.04
『藤井聡太全局集 平成28・29年度版』重要対局詳解編を3日連続で一部公開 その2
『藤井聡太全局集 平成28・29年度版』の内容を3日連続で一部公開いたします。〈その2〉〈その3〉は「重要対局詳解編」より、デビュー8戦目の対大橋貴洸四段戦のハイライトシーンを2日にわたり紹介します。
第8局 大橋貴洸四段対藤井聡太四段戦
根性、その才能を示す
第30期新人王戦(しんぶん赤旗)
平成29年3月10日 終了17時36分
大阪市福島区「関西将棋会館」
持ち時間各3時間
▲四段 大橋 貴洸
勝△四段 藤井 聡太
第1図までの指し手
▲7六歩1 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △3二金
▲7八金 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △6二銀 ▲4六歩3 △6四歩
▲4七銀 △6三銀 ▲6八玉 △4二玉
▲9六歩 △9四歩2 ▲5八金1 △3三銀
▲3六歩 △7四歩 ▲5六銀 △7三桂
▲7九玉 △6二金 ▲2五歩1 △8一飛
▲6六歩1 △1四歩1 ▲1六歩1 △5四銀
▲3七桂 △6五歩1 (図)
大橋四段との対戦
デビュー当初の藤井が騒がれたのは、プロ棋士としての史上最年少記録を作ったことによる。14歳の中学生棋士が中学生棋士の大先輩である加藤一二三九段とデビュー戦を戦う。そのドラマのような経緯は対加藤戦で詳しく書いたとおりである。
デビュー時の藤井は、あくまで「最年少」が売りだった。ところが、その藤井がデビューから連勝街道を突っ走ったことで世間の関心が変わってきた。
最年少記録もすごいけど、もしかしたら、この中学生はとんでもなく強いんじゃないの? という関心である。
デビューからの連勝を七つ積み重ねたところで迎えたのが、この新人王戦の大橋戦。大橋は和歌山県出身で所司和晴七段門下。2016年10月の四段昇段で、藤井と一緒にプロデビューした棋士である。当初は藤井の陰に隠れてあまり目立たなかったが、じわじわと成績を上げて、2017年度の最終成績では藤井に次いで勝率2位(42勝12敗・778)という立派な数字を残した。
この藤井との初対局は途中、大橋が必勝ともいえる局面を迎える。もし、そのまま大橋が勝っていれば、藤井の29連勝はなかったし、あの大騒ぎも随分違った形になったに違いない。その意味で、本局はどちらにとっても非常に大きな勝負だったといえる。
居飛車党同士の対戦はどちらも得意とする角換わりになった。
☆
「大橋が必勝ともいえる局面を迎える」を迎えた藤井四段。果たしてどう戦ったのでしょうか。
以下、本局のハイライトをご覧ください。
☆
第1図からの指し手
▲7九飛3 △9五歩7 ▲同 歩16 △2八成銀8
(第2図)
鬼辛抱
▲7九飛は優勢を意識した手堅い指し方である。
「ただ、代えて▲4七飛△3五桂▲1七飛△2八成銀▲4五歩(A図)と局面を決めに行く方が良かったか」と村山七段。A図で△2七桂成なら▲同飛△同成銀▲同馬として、まだ▲4四歩△同銀▲6二歩成の厳しい狙いが残っている。
もちろん、▲7九飛と逃げた後でも、次に▲2七馬と引く手が実現すれば、それまでだ。そこで藤井はどうしたか。△9五歩▲同歩と端に味を付けた上で、じっと△2八成銀。まさに、鬼辛抱である。
第2図からの指し手
▲7五銀7 △2二玉3 ▲3六馬2 △8二飛2
▲6六銀上5△5一角4 ▲6七金右16△9五香1
▲9六歩1 △同 香3 ▲同 香 △9五歩
(第3図)
見せた勝負根性
△2八成銀とはなんという手か。「▲2七馬を消しただけの手だが、並大抵の精神力では指せない。自分なら、ダメでも△7六歩から攻め合ってしまう」と村山七段は言う。
大橋は勝ったと思ったに違いない。この時点で、まだ1時間7分しか時間を使っていない。時間も形勢も大差だ。ただ、▲7五銀△2二玉の交換は先手が損をした。「▲7五銀では、▲4五歩△3三角▲4九飛△4五歩▲5三馬(B図)と進めて、先手はっきり優勢でした」と村山七段。
実戦は先手の端にも少し嫌みが付いてきた。
☆
▲2七馬(成銀が逃げれば▲6二歩成が厳しい)という決め手を指させないためだけに成銀をそっぽに寄った藤井四段。
この後はどう進んだでしょうか。明日公開いたします。
※本記事はWEB掲載用に書籍から内容を一部変更して掲載しています。
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