大山プレーオフへ~第50期A級順位戦最終日レポート(週刊将棋1992年3月11日号より)|将棋情報局

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大山プレーオフへ~第50期A級順位戦最終日レポート(週刊将棋1992年3月11日号より)

3月2日に行われた第76期A級順位戦最終局は6者プレーオフ決定という衝撃の結末となりました。本ページでは、現行ルールでこれまで最多だった4者プレーオフ3回のうち、第50期(1991年度)のA級順位戦最終局をレポートした週刊将棋1992年3月11日号1面を紹介します。

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 中原誠名人への挑戦者は谷川浩司竜王、南芳一九段、高橋道雄九段、大山康晴十五世名人の4者プレーオフで争われる。第50期A級順位戦(毎日)最終局は(3月)2日、東西の将棋会館で5局一斉に行われ、6勝2敗の谷川が大山に、高橋が塚田泰明八段に敗れ、大山と、内藤國雄九段に勝った南がトップに並んだ。1回戦の高橋―大山戦は9日に行われる。降級は内藤と石田和雄八段。

 終局後、次々と背中からフラッシュをたかれる中で、谷川はギュッと唇をかみしめた。竜王、棋聖、王位、王将、四つのタイトルがかろうじて背骨を支えているかのようだった。

 担当記者が「四者プレーオフになりました」と慌て気味に伝えた時も谷川は表情を変えなかった。完敗だった。今後何十年現役を続けるか分からないが、この一局だけは忘れることができないだろう。

【第1図は▲6四飛まで】

 大山の向かい飛車に対して谷川は穴熊に囲った。第1図は大山が▲6四飛と走った局面だ。△4五銀と桂を取る手が見える。▲同歩は△7三角の準王手飛車が掛かる。穴熊相手に大技を与えてはいけない。しかも本譜は駒損となる。

 「大山先生、一発食っちゃったんじゃないかな」。控室のだれもがそう思ったのも無理はない。

 谷川は長考して夕食休憩に持ち込んだ。「慎重ですね」と控室。しかし、実際は良くならないので長考したのだった。△4五銀▲同歩△7三角に▲4六角△3四桂▲6三飛成△4六桂▲同銀と平凡に指されると、むしろ形勢不利なのだ。大山は谷川より一歩深く読んでいた。

 

 この後、谷川は少しずつ盛り返す。「穴熊は堅いから大山先生が勝ち切るのは大変ですよ」と控室が形勢逆転をにおわせたところ、再び大山が底力を発揮した。

【第2図は▲4三銀まで】

 第2図の▲4三銀が好手。以下△5三金▲3四銀成△5二金▲同桂成△同角▲3五成銀と成銀を引きつける形になってアヤが消えた。この後は全盛期を思わせる"受けつぶし"の勝利だった。終局は午後十一時四十分。残り時間は大山四十六分、谷川十五分。 肝臓の三分の一ほど切り取られた巨人は高橋、米長、谷川と骨っぽい所に三連勝した。だが、笑顔は全く見られなかった。喜怒哀楽を超越したものがそこにあった。


プレーオフは順位の差を生かし、上表のようなパラマス方式で争われる。したがって、大山、高橋は三勝、南は二勝、谷川は一勝で挑戦となる。四者プレーオフは第37期以来二回目のこと。

※おまけ 中面にはこんな表も。対局者の食事レポートはこの頃からあったようです。小林健二八段の昼食「タンメンのメンなし」が目をひきます。

 

※本記事内の段位、肩書はいずれも当時のものです。また、ウェブ掲載用に紙面の内容を一部変更しております。

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