『さばきの極意 前編』久保利明 × 中田功 5(全5回)~将棋世界2015年10月号より|将棋情報局

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『さばきの極意 前編』久保利明 × 中田功 5(全5回)~将棋世界2015年10月号より

将棋世界バックナンバーから厳選した記事を掲載する当コーナー。第6回から第10回は、2015年10月号より『さばきの極意 前編』をお送りします。

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第4回より続く~

【さばきの格言その6】
得意戦法を1つ持て

――続いて、中田さんの三間飛車の世界です。最初に見ていただきたいのが第37図。

【第37図は△6四銀まで】

昭和49年の王座戦の▲大山十五世名人と△中原名人の対戦です。三間飛車に対する有名な急戦定跡ですが、この場合は振り飛車が先手なので▲1六歩の1手が入っています。図では▲5四歩と▲5六銀の二択ですが、大山十五世名人はさばき合いの▲5六銀を選択しました。以下、△5五銀▲同銀△同角▲6七金△8六歩▲同歩△4六角▲6五歩△7九角成▲2二銀(第38図)が実戦の進行です。

【第38図は▲2二銀まで】

中田  この将棋は名局で、戦いがそのままひとつの定跡になりました。第38図は互角の分かれですが、終盤で大山先生に何度も名手が出て振り飛車が勝つんですよ。そのひとつが第39図です。

【第39図は△6七歩まで】

△6七歩に対して▲5八金寄!△同桂成▲同金△同飛成▲4五桂! これで先手が1手勝っているんですね。桂の利きに▲5八金寄はなかなか指せない手です。

久保  これはすごい手ですね。

中田  定跡のスタートが第40図です。

【第40図は△6四歩まで】

後手三間飛車に対して、ここから▲5五歩△同歩▲4五歩とする仕掛けが40年以上前から指されています。僕も小学生のとき、大山先生の将棋を見て勉強しましたが、いまだに分からないことがある。それが定跡の進んだ第41図です。

【第41図は△4三金まで】

この局面には思い出があります。僕は東京の中学校に通い始めて最初の中学生名人戦で優勝しました。昭和55年、まだ奨励会入会前のことです。そのとき、雑誌の企画で当時奨励会1級だった森下卓さん(現九段)に平手で教わることになり、それがこの将棋です。
図の△4三金に▲6四角△4五歩▲4四歩△5四金▲3一角成△4四角▲7七銀(第42図)と進行しました。▲4四歩は珍しい手で、森下さんの研究だと思うけれど、この将棋になんと僕が勝ってちょっとした話題になりました。

【第42図は▲7七銀まで】

――大山―中原戦の研究が生きたんですね。

中田  この話には続きがあって、奨励会に入ってから、僕は森下さんに研究会で教わるようになりました。戦型はいつも僕の三間飛車に森下さんの急戦。勝ったのは最初だけで、それからはもう嫌というほど負かされました。森下さんの押さえ込みに20連敗くらいしたんじゃないかなあ。

久保  森下さんの押さえ込みはすごいですね。振り飛車のさばきとは対極にある将棋なんだけれど、僕も完璧に受けきられたことが何度もあります。

中田  研究会では森下さんに随分痛い目に遭ったけれど、プロになってからの公式戦では他の人に結構勝っています。それは森下さんのお陰だと思う。第41図の先手には、いろんな攻め方があります。

①▲2四歩△同歩▲6四角と進める大山―中原戦のコース。
②単に▲6四角と出る手。
③▲4四歩△同金と形を決めてから▲6四角と出る手。
④▲8八角△4五歩▲5五銀△4四銀とする手。

この中で④の変化だけは後手を持って自信があるけれど、あとの3つは難しい。
①▲2四歩△同歩▲6四角に△5三歩と打つのが、石川陽生七段に研究会で教わった手です。以下▲5五角△6二飛▲6八金上△3五歩(第43図)と進んだのが平成18年の僕と武市三郎六段の対局で、こうなれば後手もやれます。

【第43図は△3五歩まで】

しかし、②単に▲6四角と出て、△5三歩に▲7七桂△6二飛▲8六角△4五歩▲2四歩△同歩▲4五桂(第44図)と進んだのが、平成16年の僕と真田圭一六段の将棋で、この変化は手ごわい。

【第44図は▲4五桂まで】

――40年間研究されている定跡というのはすごいですね。

中田  いや、ほかに誰もやらないから定跡が進歩していないだけです。40年間、塩漬けになっている(笑)。

――お二人に今回の講座のまとめをお願いします。

久保  振り飛車のさばきは大駒、特に飛車を使うこと。逆に、角を使って相手の飛車を狙うのも急所になります。

中田  僕の三間飛車でなくてもいいから、何か1つ得意戦法を持つことも大切だね。

久保  さばくときには、玉が少しでも安定していることが大切になる。

中田  大山先生に何度も言われたことだけれど、「振り飛車は左の桂をさばけ」そして「遊び駒を作るな」。これはどんな振り飛車にも当てはまります。

久保  あとはたくさん戦いを経験して有効なさばきを見抜く力を磨くことですね。自分で指さなくても、プロのいい将棋をたくさん見ることが重要です。今回紹介した将棋(次ページに参考棋譜あり)はぜひ並べてみてください。

――次回の後編も、振り飛車のさばきのエッセンスを多くの題材で見ていただきます。大山流のさばき、大野流のさばき、久保流のさばき、中田流のさばき。

中田  僕のはおまけですけど(笑)。

――その上で、お二人には現代の振り飛車論もお聞きしたいと思います。例えば、大山十五世名人がいま生きていたら、居飛車穴熊に対して何をやるのか。コーヤン流の居飛車穴熊退治を久保さんはどう見るか。久保流の居飛車穴熊対策は何か。そして、これからの振り飛車はどんな形になっていくのか―。

中田  それこそ、僕が久保さんにお聞きしたいことです。


後編は将棋世界2015年11月号に収録されています。

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