2018.01.28
『さばきの極意 前編』久保利明 × 中田功 4(全5回)~将棋世界2015年10月号より
将棋世界バックナンバーから厳選した記事を掲載する当コーナー。第6回から第10回は、2015年10月号より『さばきの極意 前編』をお送りします。
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電子版DVDの収録記事の中から、2015年10月号に掲載された『さばきの極意 前編』をお送りします。華麗なさばきが魅力の久保利明、中田功両プロが局面図をまじえて極意を語ります。
第3回より続く~
【さばきの格言その4】
玉の堅さを最大限に生かせ
――振り飛車の特長のひとつに、玉を囲いやすいということがあります。美濃囲いの完成には4手か5手ですむ。その堅さを生かしてさばくのも振り飛車の技術です。
第28図は、平成8年の全日本プロトーナメントの▲久保五段対△岡崎四段戦。
図から▲7八飛△8七銀成▲7三飛成△6九飛成▲7一竜△6一金▲7六竜△8九竜▲4七銀引△3五角▲2六桂(第29図)が実戦の進行です。7八から7三へストレートに飛車を成り込む。8九の桂は取らせることによってさばく。とどめの一手が▲2六桂です。次に▲3四桂と跳ねると、▲6五竜の両取りが生じる。実戦もそれが決め手になりました。
中田 岡崎君の将棋ばかり使って申し訳ないけど、いい手順だよね。これも振り飛車の玉が堅すぎる。
――大野九段の豪快なさばきもご覧いただきましょう。第30図は昭和37年の十段戦で、▲升田幸三九段と△大野八段の対戦です。
中田 升田先生、居玉なの!? 兄弟子に対してなんという態度(笑)。
――実戦は図から、△6五銀▲3三歩成△6六銀▲3四角△7七銀不成▲同金△5六飛▲同角△5五角▲6六歩△4六角▲3七歩△3三桂(第31図)と進行。後手は飛車を捨てて左桂をさばきました。
中田 △6五銀に▲同桂なら、△同歩▲5五角△同飛▲同銀△5一角で、次に△7三角を狙われます。しかし、升田先生がこんな風にやられちゃうとは……。これは大野先生、怒ってるね。
久保 最後の△3三桂がいい手なんですよ。後手は飛車桂交換の駒損だけど、この桂が使えたら攻めは切れない。
【さばきの格言その5】
相手より玉が堅い、その瞬間を突け
――居飛車穴熊や左美濃が出現する以前は、振り飛車の美濃囲いの玉の方が居飛車の玉よりも堅かった。そこでひとつの振り飛車理論が生まれました。しかし、技術が進歩して居飛車の玉が堅くなるにしたがって、振り飛車が苦労するようになった。そこで新たな振り飛車理論が生まれるわけです。そのひとつが、大山流&コーヤン流の四枚美濃に代表される「厚み戦術」。もうひとつは、久保の石田流に代表される「スピード戦術」です。
第32図は、平成21年の銀河戦の▲久保九段対△阿久津主税七段戦。
先手の石田流に対し、後手は1筋の位を取って突っ張っています。対して久保九段の指し手は▲7七桂△5四歩▲6五桂(第33図)でした。
久保 「鬼殺し戦法」みたいな桂跳ねですが、後手が端に2手かけているので、この瞬間が勝負なんです。以下、後手は△5五歩と突いて押さえ込みを図りましたが、▲5六歩△同歩▲2二角成△同銀▲5五角(第34図)と反発してぎりぎり攻めが続きました。
先手玉も薄いけれど、▲4八玉と1手かけているので後手の居玉よりは安定しています。こうした大さばきになると、駒の損得よりも駒の効率が重要になるのです。飛車損でも、玉の近くにと金を作れば有利という局面が、石田流の将棋にはたくさんあります。
中田 私はあまりやったことがないのですが、石田流は振り飛車の中でも特殊な領域ですよね。豪快なさばきが狙いにあると同時に、相手が押さえ込みにきたときは、細かいジャブを繰り出して揺さぶる必要がある。その辺りの駆け引きは久保さんの世界ですね。
―― 一瞬の堅さを生かす例は、第35図もそうです。平成21年の棋王戦の▲佐藤康光九段対久保九段戦。これは久保振り飛車のもうひとつの代表戦法のゴキゲン中飛車です。
図から△5五飛▲同角△同角▲7七銀△4四角打▲5四歩△7七角成▲同桂△7六銀(第36図)と進み、これで後手優勢です。後手が二枚角を使って先手玉に迫るスピード感がすごい。
中田 かっこいいよね~。
久保 図で△5五角は▲5三歩で難しい。飛車を押さえ込まれるくらいなら、角と換わっちゃったほうがいいんですよ。角のラインは受けにくいし、先手玉に迫っているのが大きい。振り飛車は玉の堅さを生かすのも大切だけど、それと同じくらい飛車を押さえ込まれないことが大切です。飛車をどの筋で使うか、どこでさばくか、どこで捨てるか。最初に方針を立てておくことが大切です。
~次回に続く
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