2018.01.26
『さばきの極意 前編』久保利明 × 中田功 3(全5回)~将棋世界2015年10月号より
将棋世界バックナンバーから厳選した記事を掲載する当コーナー。第6回から第10回は、2015年10月号より『さばきの極意 前編』をお送りします。
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電子版DVDの収録記事の中から、2015年10月号に掲載された『さばきの極意 前編』をお送りします。華麗なさばきが魅力の久保利明、中田功両プロが局面図をまじえて極意を語ります。
第2回より続く~
【さばきの格言その2】
飛車が向かい合ったらチャンス
中田 僕が初めて真似した大山先生の振り飛車は、第21図ですね。
昭和56年の王位戦で、大山先生が中原先生に挑戦した将棋です。当時、僕は奨励会に入ったばかりでしたが、この四枚美濃はかっこいいと思った。結果も大山先生の快勝。僕はのちにこの四枚美濃を随分指しましたし、いまでも指しています(笑)。
――大山流の四枚美濃がコーヤン流の原点なのですね。中田さんのコーヤン流居飛穴崩しについては次号でじっくり伺うとして、さばきの実例を続けます。第22図は平成18年のC1順位戦の▲中田七段対△岡崎洋六段戦。
以下▲5五飛△9四角▲8五角△8七歩成▲9四角△同歩▲8五飛(第23図)が実戦の進行。飛車をガンガンぶつけてさばく。香落ちのヒラメ戦法でも見られる手筋です。
中田 普通に▲8六同歩は、△8七角で負けます。僕は飛車先の歩を手抜くのが大好きで、博多っ子だから気性が激しいんですけど、この手順は意地になりすぎていますね。ただ、このように玉形に差がある場合は、左半分で互角なら優勢というのが振り飛車の主張。だからこういう強気の順が成立するのです。
――続いて大山流は第24図。昭和47年の▲大山名人対△中原誠十段の名人戦です。図の△7二飛は中原先生の珍しいポカで、ここで▲8五金!と出る手が成立しました。
中田 ▲8五金に△同銀と取れば、▲3三角成△同桂▲7二飛成(参考図)で後手投了です。
駒の損得はないけれど、玉の堅さが違う上に先手の竜が強すぎる。こうなってはひどいから、▲8五金に対して△7三銀と引いたのだけど、以下▲7四歩△6二銀▲5九角△8二飛▲8六歩△2二角▲7六飛△4二銀▲7七桂(第25図)と好形を築いた大山先生が圧勝したんですね。飛車が向かい合った局面は、さばきのチャンスなんです。
【さばきの格言その3】
振り飛車は左の桂のさばきが命
――振り飛車党の棋士には、ある共通点があって、それは香落ちの上手が得意だということです。藤井九段もそうだし、鈴木八段など、「奨励会の香落ち上手は2回しか負けていない」とおっしゃっています。お二人は奨励会時代、香落ち上手の成績はいかがでしたか。
久保 僕もあんまり負けた記憶はないですね。振り飛車の待機戦術で、よく△1二香と上がる手があるじゃないですか。香落ちは上手に左香がないからそれを指す必要がない。取られる駒がないからありがたかったです。
中田 僕は香落ちの上手だけで四段になったようなものです。二段時代、香落ちの上手で羽生1級にも2回勝っているんです。ただ、三段同士になってからは1回も勝っていませんけど(笑)。
――して見ると、振り飛車のさばきの原点というのは香落ちにあるのではないでしょうか。
第26図は、「幕末の棋聖」とうたわれた江戸時代後期の棋士、△天野宗歩の香落ち戦です。
図から上手の指し手は、△2五桂▲4六歩△3二飛▲4五歩△3六飛▲4七馬△7六飛▲6八玉△2六飛▲5五角△5四銀▲4四角△2八飛成(第27図)。桂をさばき、飛車をぶん回して飛車だけ成り込んでしまう。軽いさばきの見本です。
中田 美濃囲いが堅すぎますね。香落ちの上手は左桂をさばくしかないから、遊び駒ができにくい。香落ちも平手も、振り飛車は左桂のさばきが命なのです。ただし、香落ちの上手だけが振り飛車に向いているわけではありません。角落ちの本定跡は、下手三間飛車でしょう。また、二枚落ちの銀多伝も下手中飛車です。飛車を振って玉を反対側に囲うのは、初心者にも真似しやすい。その意味では、振り飛車は駒落ちの下手にも向いている。そういう考え方は、江戸時代からあったはずです。
――ちなみに、お二人は香落ちの下手はいかがでしたか。
中田 居飛車で急戦をやったけれど、▲1四歩△同歩▲同香の端攻めが大嫌いでした。なんで、こんなところを攻めなくちゃいけないんだろうって思っていた。だから下手を持つときは悩んでいました。でも、中央で戦ってもなかなかうまくいかない。だから苦労して、途中からは左美濃でごまかしていました。僕は居飛車でも美濃囲いが好きなんです。
久保 僕も香落ちの下手は苦手でした。最初は居飛車で、中田さんの言う▲1四歩△同歩▲同香の攻めをやったけど、すぐに上手にさばかれてしまう(笑)。そのあと持久戦や相振り飛車もやったけど、なかなか香落ちの欠陥をとがめられませんでした。上手を持つ方がずっと好きでしたね。
~次回に続く
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