2023.10.12
【藤井聡太八冠誕生記念 特別公開】新春スペシャルインタビュー 藤井聡太二冠「二冠奪取を振り返る」
藤井聡太八冠誕生を記念して、将棋世界本誌に掲載した特集から厳選したものを将棋情報局で公開します!
—棋聖戦、王位戦を中心に1年を振り返っていただきます。棋聖戦は決勝トーナメントでベスト4、王位戦は挑戦者決定リーグで4連勝としたところで、緊急事態宣言により対局が延期になりました。そのときの心境は?
「その当時の状況を考えると、対局を続けるのは難しいと思いましたし、仕方ないという気持ちもありました。自分にとっては時間ができたという面もあるので、その時間をプラスにしていけたらと思いました」
—緊急事態宣言中は、自宅でソフトを使って研究していたのでしょうか。
「そうですね。ネットでの練習対局もしました」
—ソフトでの研究はご自身の将棋をソフトに検討させるのでしょうか?
「自分の将棋をソフトで検討したり、実際にソフトと指してみたりしています」
—緊急事態宣言中の研究で、棋力アップの手応えはありましたか?
「自分の感覚ではわからないです。ただ、対局が再開された6月は将棋の内容がよく指せたので、ある程度の成果はあったのかなと思います」
—初タイトル獲得となった棋聖戦を振り返ります。挑戦者決定戦で永瀬拓矢二冠に勝って挑戦権を獲得しました。挑戦者になったときの心境は?
「挑戦者決定戦は苦しい時間が長くて、勝ちになったのも最後の最後でしたし、あまり実感がなかったというのが正直なところでした」
—最年少挑戦の記録を更新しました。意識はしていましたか?
「最年少というのは自分では意識していませんでした。いままでタイトル戦の経験がなかったので、挑戦権獲得は一つの目標になっていました」
—三冠王でもある渡辺明棋聖が相手でした。戦う前と戦った後の渡辺棋聖の印象はいかがでしょうか。
「渡辺棋聖は作戦巧者で、番勝負で力を発揮されるという印象もあったので、五番勝負を戦えるというのは楽しみでもありました。こちらがノープランでは厳しいとは思いました」
—事前の対策は綿密に行った?
「う~ん。挑戦者決定戦(6月4日)から五番勝負の開幕(6月8日)まで間がなかったので、すごく対策を練ったという訳ではなかったです。ただ、第1局で自分が先手で矢倉を選んだことは、渡辺棋聖は少し意外だったようなので、作戦的には悪くなかったのかなと思います」
—4局戦ってみて、渡辺棋聖の印象が変わった部分はありましたか。
「第3局(第1図)で△8五桂▲同銀△9三桂という順があったのですが、自分は全く気付いていなかったので、攻めの鋭さは改めて感じました」
図から☖8五桂☗同銀☖9三桂と8五銀に狙いを定め攻めを継続。以下☗8二歩☖8五桂☗同桂☖7九銀☗8七金☖7八馬☗9四歩☖8六歩と追いつめ、☗4三成銀☖4二歩☗3二成銀☖同玉☗3四香という藤井の厳しい追撃をかわした渡辺が勝ちきった。
—シリーズで印象に残っている対局、もしくは指し手はありますか。
「第1局が自分にとってはタイトル戦で初めての対局でした。終盤まで互角に近い展開で、自分としてはよい内容の将棋が指せたのかなと思います」
—タイトル奪取で最年少獲得も更新。先ほどもありましたが、あまり意識はしていませんでしたか。
「そうですね。最年少という意味ではあまり意識はしていませんでした」
—記録はあまり意識しませんか?
「意識していません」
—棋聖戦の総括をお願いします。
「初めてのタイトル戦で、内容的にも自分の長所を出せたところが多かったのかなと思います。渡辺棋聖と番勝負を戦えたのはすごくよい経験になりました」
来年の課題
—次に王位戦。棋聖戦と王位戦といきなりダブルタイトル戦となりました。
「タイトル戦の日程が重なっていたのは2週間ほどでした。王位戦の翌々日が棋聖戦の対局で、北海道から大阪に移動するということがありました」
—木村一基王位の印象は?
「木村王位は攻守ともに力強い手が多いという印象です」
—木村王位の受けで印象に残った手はありますか?
「第2局で△8六歩▲同歩△同飛(第2図)と動いたところがあるのですが、そのあと木村王位がいちばん強い対応をされて、こちらが形勢を損ねてしまった。その辺りが印象に残っています」
図から☗2六飛☖9五歩☗同歩☖5六飛☗8七歩☖9六歩☗5七歩☖5五飛☗9六香☖8五飛☗9七角☖4二銀☗4八金☖9五香☗同香☖同飛☗8八銀☖9六飛☗8六角☖9八飛成☗2九飛☖9二竜☗2八香。竜を追い払い、角頭に狙いを付けて木村がペースをつかんだ。
—王位戦で印象に残っている対局、手を挙げてください。
「やはり第2局は中盤でかなり強く指されたところが勉強になりました」
—最年少二冠、最年少八段ですが、同様に意識していませんでしたか?
「はい(笑)」
—王位戦の総括をお願いします。
「2日制のタイトル戦は経験がなく、封じ手も日本シリーズ以外ではしたことがなかったので経験できてよかった。ただ、2日制だと2日目のパフォーマンスというのが、来年に向けての課題になったと感じました」
—疲労を感じましたか?
「そうですね、やはり長いので」
—新型コロナの影響で、前夜祭がありませんでした。
「あいさつが苦手なので、自分にとっては不安要素が一つなくなって安心しました(笑)。前夜祭も来年の課題です。
第1局はオンラインで前夜祭を行っていただきました。柔軟に対応していただき、ありがたいと思いました」
—今年1年を振り返ると。
「棋聖戦と王位戦で大舞台を経験できて、そのうえで結果も残せたので、よい1年だったなと思います」
全部ではない
—発売中の将棋世界ムック『将棋囲い辞典100+』のアンケートの中で、「古今東西、誰と指してみたい?」という質問に、大橋宗英と天野宗歩を挙げていました。いずれも江戸時代の棋士ですが、挙げた理由は?
「深い理由はないですが……。江戸時代の棋士の中でも実力的に高いといわれる2人だと思うので挙げました」
—アンケートの解答では大山康晴十五世名人や升田幸三実力制第四代名人が多かったです。その中で、藤井先生が江戸時代の強豪を挙げたのが意外でした。
「大山先生や升田先生を挙げる棋士が多いと思ったので、もう少し遡ってみようと思いました」
—この2人を挙げたので、江戸時代の将棋を研究しているのかと思いました。
「棋譜を見たことはあまりない。どういう将棋だったのかと興味はあります」
—詰将棋の『無双』、『図巧』は小学生のときに全て解いたとありました。
「あまり覚えていないですが、全部ではないと思います。解けそうなものはやりました」
—来年の目標を。
「大きな舞台での対局を増やせるようにしたい。そのためにも、より実力を高めていきたいと思います」
(取材 2020年11月21日)