【藤井聡太八冠誕生記念 特別公開】第34期竜王戦第4局「史上最年少四冠の誕生なる!」|将棋情報局

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【藤井聡太八冠誕生記念 特別公開】第34期竜王戦第4局「史上最年少四冠の誕生なる!」

藤井聡太八冠誕生を記念して、将棋世界本誌に掲載した特集から厳選したものを将棋情報局で公開します!

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 神がかり
 「豊島さんも調子が悪いわけじゃなんだ。よく研究していい内容の将棋を指している。力も出している。だけど、いかんせん、いまの藤井君が強すぎる」
 第4局の対局場は山口県宇部市の「ANAクラウンプラザホテル宇部」。対局開始後の控室では、日本将棋連盟専務理事の脇謙二九段が開口一番そう言った。確かにそうなのだ。いまの藤井の勝ちっぷりは、まさに神がかりと言っていい。

第4局は宇部市100周年記念事業として開催。豊島竜王の出身地の一宮市も100周年で「親近感を持った」と語った

 9月13日、第6期叡王戦第5局に勝った藤井は史上最年少の三冠になった。それからの両者の公式戦成績をご覧いただこう。

9月17日   順位戦 羽生善治九段○
9月23日   王将戦 広瀬章人八段●
9月27日   棋王戦 菅井竜也八段○
9月30日   王将戦 糸谷哲郎八段○
10月8、9日 竜王戦①藤井聡太三冠●
10月13日   王将戦 羽生善治九段●
10月16日   JT  渡辺明名人 ○
10月19日   順位戦 永瀬拓矢王座○
10月22、23日 竜王戦②藤井聡太三冠●
10月26日   王将戦 永瀬拓矢王座○
10月30、31日 竜王戦③藤井聡太三冠●

11月5日   王将戦 藤井聡太三冠●

9月17日   棋王戦斎藤慎太郎八段●
9月20日   順位戦 木村一基九段○
9月25日   JT  千田翔太七段○
9月27日   王将戦 糸谷哲郎八段○
9月30日   順位戦 横山泰明七段○
10月4日   王将戦 広瀬章人八段○
10月8、9日 竜王戦①豊島将之竜王○
10月19日   順位戦 郷田真隆九段○
10月22、23日 竜王戦②豊島将之竜王○
10月30、31日 竜王戦③豊島将之竜王○
11月3日   JT  永瀬拓矢王座○
11月5日   王将戦 豊島将之竜王○
11月9日   王将戦 羽生善治九段○

 ご覧のように、藤井には4連敗の豊島だが、それ以外は6勝2敗。永瀬王座に2勝し、渡辺名人にも勝っている。
 「その4局の豊島藤井戦だって、豊島さんが結構うまく指している。ところが、藤井君が崩れないんだ。竜王戦第3局にしても王将戦にしても、人間的にはとても指しにくい手を平然と指す。しかも、それがAIの評価で見ると最善なんだ。そういう手が終盤までずっと続く。対戦相手はたまらんと思いますよ」と脇九段は続ける。
 史上最年少の四冠にあと1勝と迫った藤井がここで押しきるか。それともカド番に追い込まれた豊島の巻き返しがあるのか。注目の第4局が始まった。

 第34期竜王戦七番勝負第4局
 令和3年11月12、13日
 於・山口県宇部市
    「ANAクラウンプラザホテル宇部」
▲竜王 豊島将之
△三冠 藤井聡太

▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩 
▲6八銀 △7七角成▲同 銀 △2二銀 
▲1六歩 △1四歩1▲3八銀1△6四歩6
▲3六歩2△6二銀1▲4六歩8△4二玉14
▲7八金1△3三銀 ▲6八玉 △7四歩 
▲3七桂4△6三銀1▲9六歩1△5四銀3
▲4七銀20△6二金2▲9五歩4(第1図)
 
25年前の思い出
 山口県で行われたビッグマッチといえば、すぐに思い出すのが平成8年2月14日、羽生善治七冠が誕生した第45期王将戦七番勝負第4局だ。対局場は山口県の西端にある豊浦町の「マリンピア・くろい」。世紀の瞬間を見届けようとする報道陣で広い敷地がいっぱいになり、ホテルからあふれた記者たちがバンガローの中で記事を書いていたのを思い出す。 羽生七冠の誕生は将棋ブームの一つの頂点を築いたが、それから25年後に同じような騒ぎが起きるとは想像もつかなかった。現ブームの主人公である藤井は本局直前の王将リーグで旧ブームの主人公である羽生九段と対戦し、また、すごい内容の将棋で勝っていた。見ていた棋士の多くが終盤まで、「これは羽生さんの会心譜誕生」と言っていたのに、そこから誰も気づかないような指し手を連発して藤井が勝ったのだ。これで藤井は王将戦でも挑戦に向けて前進。まさに、恐るべき勢いというほかない。
 将棋は角換わりになった。この二人の対戦になれば、どんな戦型でも最新研究のぶつけ合いになるのは見えている。本局も当然そうなった。
 「△5四銀で△9四歩なら、▲6六歩△7三桂▲3五歩△同歩▲4五桂が一例で、先手が先攻できる可能性がある。後手はそれを避け、先手に9筋の位を取らせました」と畠山鎮八段。

 第1図以下の指し手
△7三桂 ▲2九飛2△8一飛2▲3八金1
△4一玉3▲4八金5△4四歩4▲7九玉1
△3一玉 ▲8八玉 △6五桂5▲6六銀2
△4二玉2(第2図)
 
現代流の作戦
 古くは炭鉱とセメントの町として栄えた宇部市だが、最近は緑と花と彫刻のまちとして売り出している。市制100周年事業の一つとして、今回の竜王戦招致も企画された。宣伝効果は抜群。藤井四冠誕生の可能性がうまれたことにより、対局期間中の市内のホテルはすべて満室になったそうだ。いまや、日本中の将棋ファンの目がここに注がれている。
 ▲9五歩は決断の一手。先手はこの位を生かす戦いにしたいが、実際にどこまでアドバンテージがあるかは未知だ。現代角換わり特有の手損作戦から、後手は△6五桂と形を決めてから△4二玉と上がった。これまた、現代調の作戦である。
 「△4二玉は昔はなかった手。代わりに△2二玉だと、▲5六銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛▲4五歩となったときに、かえって当たりが強くなっている意味がある。後手は堅さより広さで指す作戦です」と畠山八段。

 第2図以下の指し手
▲5六銀16△8六歩 ▲同 歩 △同 飛 
▲8七歩 △8一飛 ▲4五歩 △3五歩2
▲4四歩5△3六歩1▲4三歩成△同 玉3
▲4五桂 △4四銀 ▲2四歩 △同 歩 
▲同 飛 △3五角 ▲2九飛1△2七歩19
(第3図・昼食休憩)

 研究勝負から
 現地の控室には脇九段の他に立会人の福崎文吾九段、新聞解説の畠山鎮八段、大盤解説の大橋貴洸六段、聞き手の村田智穂女流二段らが詰めている。
 福崎九段は、「大変な注目局になってしまったからね、うかつに冗談もいえへんねん」と言いながら、2日間、ジョークを連発していた。
 「▲4五歩に△3五歩と突き返した局面までは昨年2月に行われた棋聖戦の▲藤井聡太七段(当時)対△斎藤慎太郎八段戦と同じ進行。その対局は以下▲2四歩△同歩▲4四歩△同銀▲3五歩△7五歩と進んで激戦になりましたが(結果は藤井勝ち)、豊島さんの▲4四歩?▲4三歩成が研究手。この進行は公式戦で指されるのは初めてだが、若手の研究会ではたくさん指されている。もちろん、両者もそれを踏まえて調べている。▲4三歩成や△3五角にノータイムなんて、昔なら考えられない」と畠山八段。
 後手△2七歩の場面で、ようやく1日目の昼食休憩。ここで豊島の手が止まった。

両者の対戦は今期15戦目。将棋日本シリーズ決勝でも対戦が決まった


 第3図以下の指し手
▲2五角44△4二玉 ▲3六角 △7五歩59
▲2二歩71△3三桂13▲同桂成 △同 銀 
▲4五銀39(第4図)
 
力勝負に
 AIも使った日ごろの研究は現代将棋を指す上での礎だ。それがなければ確信を持って中盤に進むことはできない。だが、いくら研究を重ねても中盤以降の結論まで出るわけではない。感想戦の両者は、「わからなかった」を繰り返した。
 「△2七歩には▲同飛も有力。△4二玉には▲2二歩△3三桂▲同桂成△同金▲3四歩という進行も考えられた。▲2五角から▲3六角と歩を取ったのはバランス重視の手で、実戦ならではの指し方です」と畠山八段。
 ▲3六角から、研究勝負が力勝負に変わったわけだ。その▲3六角に△8六歩▲同歩△8五歩の継ぎ歩は▲同歩△4五銀右▲同銀△同銀▲同角△8五飛▲8七歩△7七桂成▲同銀△4五飛▲4七桂で意外に大したことがない。△7五歩は腰の入った攻め。先手も取るのは利かされなので、攻め合うしかない。これで激しくなった。
 第4図の▲4五銀は控室でも本線として検討されていた手だが、代えて▲3九飛と回る手は有力だった。以下①△2六角は▲3七金△4四角▲3四歩。②△3四歩は▲4五銀△7六歩▲5四銀△同歩▲同角△6三銀▲3二角成△同玉▲3五飛△同歩▲2一角(A図)が一例で、かなり先手の攻めが続く。

 局後その手を指摘された豊島は、「どこで悪くしたのかわからなかったが、▲3九飛は有力でしたか」と言った。
 第4図で1日目の封じ手になった。

 第4図以下の指し手
△4五同銀68(封じ手)    ▲同 角
△5四銀▲4三歩9△同 金23▲2三角成27
△3四銀25▲3九飛1△2三銀87▲3五飛 
(第5図)
 
強攻路線
 2日目。宇部市内は好天で、対局室の窓からは宇部湾が美しく見える。ホテルに近い渡辺翁記念会館では1日目から大盤解説会が行われ、数百人のファンが日本全国から集まった。解説に加わった脇九段によると「県外のお客さんが約半分。次の一手クイズに当選されたお一人は茨城県の方でした。ファンの注目度がわかります」と話していた。
 封じ手の△4五同銀はこの一手だが、▲同角△5四銀の場面で、豊島は▲4三歩と勝負の歩を放った。「▲2七角と歩を取ってゆっくり指しても先手まずまず」と見ていた畠山八段は「意外」と言ったが、一晩じっくり考えた豊島はゆっくりコースでは勝機がないと見て、強攻路線にかじを切ったのだ。
 控室では、畠山八段とともに大橋貴洸六段が検討している。大橋六段は四段時代の藤井と対戦が多く、藤井と5局以上指して勝ち越している(大橋六段の3勝2敗)数少ない棋士の一人だ。大橋六段は「いまの藤井さんの将棋は四段時代とは全く違う。序盤の精度が格段に上がり、読みを入れる場面もより段階が早くなった」と言った。

 第5図以下の指し手
△4四角5(昼食休憩)    ▲3八飛44
△7六歩52▲3五桂2△8五桂18▲8六銀 
△7七歩成14▲同桂6△同桂左成▲同銀左1
△同桂成 ▲同 金△6五桂1▲4三桂成9
△同 銀▲5五桂4△7七桂成36▲同 玉 
△7六歩 ▲6八玉△8七飛成1(第6図)
 
豊島にチャンス
 「△4四角がまずかった。ここから悪くした気がします」と藤井。
 第5図で△3四銀と逃げる。以下▲同飛△同金▲4六桂△8六歩▲3四桂△5一玉▲8六歩△8七歩が局後並べられた変化で、これなら少し後手の指しやすい流れだったようだ。 △4四角はこれで決着をつけようという手である。強攻に強攻で応じたわけだが、実戦の攻め合いは意外に際どい。はっきり決まっていないのが、藤井にとっては最大の誤算だった。
 △8五桂に対する▲8六銀が豊島のしぶとい受け。対して△3四銀と受けに回るのは、▲4三桂成△同銀右▲8五銀△同飛▲5五桂で、先手に攻めのターンが回る。「8五の飛車が先手陣に近すぎるので、これはまずいと思った」という藤井は△7七歩成から攻めを急いだ。

勝負に出た藤井の指し手に控室は懐疑的。豊島に形勢打開のチャンスがきたのか。AIも悩ます難解極まりない山場を迎える


 「藤井さんが勝ちにいっている」という控室の評判は、「これで本当にいいんだろうか」に変わってきた。△6五桂に▲4三桂成△同銀▲5五桂。文字通り、命がけの攻め合いだが、いくら調べてもそう簡単ではない。△7七桂成に36分使い、藤井の残り時間はついに10分になった。ここまで考えるということは、藤井にもわからないということだ。
 流れが速かったこともあり、豊島はまだ2時間以上残している。豊島に大きなチャンスが来た。

 第6図以下の指し手 
▲4三桂成99△同 玉▲5五桂 △同 角
(第7図)
 
運命の長考
 先手の指し手は決まっている。▲4三桂成△同玉に▲5五桂と打ち、△同角▲同銀(B図)。そこで詰まされたら負けだが、これがなかなか詰まないのだ。だから藤井も考えた。
 「相手の時間がないのだから、時間攻めを得意にする棋士ならノータイムでB図にする。AI予想も揺れ動いていたように、この変化は超難解ですが、開き直って勝負にいけば、豊島さんの勝機は十分にあったと思う」と畠山八段。

 B図はどっちの勝ちなのか。畠山八段が言うように、AI研究でもはっきりした結論が出ていない。
 変化は膨大だが、B図以下△5六桂▲同歩△7七歩成▲5八玉△6七と▲4七玉△5八と▲5七桂△4八と▲同玉△5九銀▲4七玉△4八金▲3六玉△3五歩▲同玉△2四金▲2六玉△3四桂▲同飛△同銀▲4四歩△3三玉▲5一角△4二歩▲同角成△同玉▲4三銀(C図)が感想戦で示された変化の一例で、こうなると先手が勝ちそうだ。ただし、手順中の△2四金では△3四銀もあって、難解極まりない。

 豊島はこれらの変化の中から勝ちを見つけ出そうと懸命に読んだ。1時間39分の大長考。結果的に、これが藤井にも読む時間を与えることになった。

懸命に勝ち筋を探す藤井。時間が削られていく中で、焦りが徐々に増していく。本局最大のピンチを迎えた


 第7図以下の指し手
▲3五桂1△5二玉 ▲5五銀 △5六桂 
▲同 歩1△7七歩成▲5七玉 △6七と 
▲4六玉 △3四桂1▲4七玉3△5八と2
▲3六玉5△2五金1 (投了図)
▲───10 まで、122手で藤井三冠の勝ち
(消費時間=▲7時間30分、△7時間55分)
 
最年少四冠、誕生
 ▲3五桂が敗着。先手はB図に踏み込んで勝負するしかなかった。「手順を尽くされたら負けかなあと思っていた」と藤井。「まだ難しかったんですか? 全然だめだと思ってしまった」と豊島。
 ▲3五桂は自玉の受けにも利かそうとした手だが、△5二玉と逃がしたため後手からたくさん王手をかけながら後手玉を安全にする手段も生じてしまったのだ。
 △5六桂と打つときの藤井の手つきはもう落ち着き払っていた。本譜△5八との王手に▲5七桂は△4八と▲同玉△3六桂で後手が勝つ。豊島は▲3六玉と逃げて詰まされた。投了図以下は、▲4五玉に△3五金▲同玉△2四銀打▲4四玉△3二桂▲4五玉△3三桂▲3六玉△2五銀▲3五玉△2四銀で詰みだ。 終局午後6時41分。この瞬間、藤井は19歳3ヵ月の四冠になった。もちろん、史上最年少記録である。

歴史的な竜王交代劇。熱戦ぞろいのシリーズだったがストレート決着は誰が予想できただろうか


 取材規制が行われていたため局後の対局室はまだ静かだったが、1時間ほどの感想戦を終えたあとに行われた記者会見では、超満員の取材陣を相手に四冠になったばかりの藤井の一問一答が始まった。
 いろんな質問が飛んだが、印象に残っているのは「内容的には課題が多い」といういつもの言葉だ。竜王を取って四冠になり、将棋界の序列1位になったことには「身の引き締まる思い。タイトルの重みを感じますし、それにふさわしい将棋を指したい」。五冠の可能性がある王将戦については「(王将リーグ)残り2局も集中して指したい」。「藤井さんにとって、将棋とは?」という質問には「どれだけ考えてもわからないもの。指すごとに新しい発見を与えてくれるもの」と語った。 記者会見を見守った脇九段は「あの向上心はすごい。まだまだ強くなりそうな気がする」とうなった。畠山八段は「あの強い豊島さんに4連勝は信じられない。勢いがすごすぎる」。
 無冠になった豊島についても触れておきたい。最後まで全力を尽くして敗れた豊島は、局後のインタビューに「竜王戦もそうですが、王位戦、叡王戦と実力不足を痛感した。実力をつけていかないといけない」ときっぱり語った。注目される勝者の陰には、つらい敗者がいる。それは勝負の常だが、豊島の再起を願うファンはたくさんいる。それだけは強調しておきたい。
 それにしても、歴史は繰り返すというが、25年前の羽生七冠の姿がいまの藤井にはどうしても重なって見えてしまう。この快進撃は、いったいどこまで続くのだろうか。

文字通り竜の如く頂点に昇りつめた藤井新竜王。だが向上心は尽きることがない

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