「3つのアプローチ」と「16のテクニック」で難局面を打破せよ|将棋情報局

将棋情報局

「3つのアプローチ」と「16のテクニック」で難局面を打破せよ

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
「どう指したら良いか、方針がわからない」

中盤や終盤でそんな局面になり、明確なビジョンのないままに1手を指したばかりに形勢を損ねてしまった、あるいは負けてしまった。こんな悔しい思いは誰しもが経験していることでしょう。

そんな局面で役に立つスキルのひとつが、「こうなったらいいな」とか「○手後にこうなっていたい!」という局面、いわば「理想図」を頭の中に思い描けるスキルです。

「理想図を思い描くといっても、それができないから困っているわけで・・・」

はい。筆者も痛いほどわかります。

しかし今は、理想像がおぼろげながらに、いや、それほど難解な局面でなければ割とクリアにイメージできるようになりました。

そうなった理由は後述いたしますが、ここでは「3つのアプローチ」から脳内に理想図を組み立てるヒントを紹介しましょう。

アプローチその1 局面から組み立てる

まずは、一番シンプルに、目の前にある局面をもとに理想図を思い描くアプローチをご覧いただきます。

第1図。先手が振り飛車から▲4五銀と「玉頭銀」に出た手に対し、居飛車の後手が△3五歩と歩を逃げた局面です。皆様は、ここからどんな理想図をイメージするでしょうか。
 
【第1図は△3五歩まで】



まず思いつくのは、後手の玉頭が空いているので、将来的に▲3四香と打てればいいな、ということ(理想図1)。もちろん、今は香を持っていません。ですが、盤面の隅っこ、9一にある香を取って、▲3四香と打てればいいな。
 
【理想図1】

次は遠大な構想ですが、3四に銀を出る、プラス、6八飛を浮き飛車に構え、さらに2六飛と回れれば(理想図2)、相手は受けが難しいだろうな、ということ。こうなって2筋を破れればいいな。
 
【理想図2】

このように、第1図から2つの理想図を導き出すことができるでしょうか。

そして、理想図を描くことができたら、それを実現させるためにどういう指し手を選ぶか。どういう手順で理想図にたどり着くか。これもまた、難しい・・・

この局面においての、「理想図」に向かう手順は後ほど記すことといたしまして、ここでは2つめのアプローチの紹介を急ぎます。

アプローチその2 言語から組み立てる

次なるアプローチは「言語」。具体的には、「この局面はこうで、こうで、こうだから・・・」と言葉に変換して指し手を絞り込み、理想図に持ち込む方法です。

第2図をご覧ください。
 
【第2図は△4九馬まで】


駒の損得は角桂交換で先手の駒損、ただし飛は一方的に成りこんでいて、逆に相手の飛の働きはいまひとつな上に、不安定でこちらの目標にできそうですので、あきらめずに勝ちを狙いたいところです。

この局面、先手の心配点はふたつ。ひとつめは、△2七歩(心配な手の図)と打たれると、一気に寄り形にされてしまう点。対して▲同玉は△2九銀が厳しい追撃。7五の角もよく利いています。
 
【心配な図は△2七歩まで】

ふたつめは、相手の銀冠が手付かずで、現状の持ち駒(桂3歩5)では、ぱっと見では手がつけられなさそうな点。

・・・と、「問題点」を、具体的に言葉にしてみると、指すべき手が見えてくるのではないでしょうか。

正解は▲2七桂(第3図)。
 
【第3図は▲2七桂まで】

受けては△2七歩を防ぎ、攻めては▲3五桂打△同歩▲同桂などを見て、一気に視界が開けました。

問題点や、自分の有利な点を具体的に言葉に変えてみると、難解な局面を打破することができるかもしれません。ぜひ試してみてください。

その他、「言葉」と言えば、将棋には数多くの「格言」があります。

「両取り逃げるべからず」

「玉は下段に落とせ」

などなど。局面局面で思い出し、実践するのも勝率アップにつながるでしょう。

アプローチその3 設定から組み立てる

最後に紹介するのは「設定」から組み立てる方法。少し難しいですが、局面がどういう状態なのか、自陣の駒組みは? 相手の攻め筋は? 終盤で勝つために絶対指さなくてはいけない手を間に合わせるには? など局面の設定、条件を見極めて、理想図に向かう方法です。

第4図は、居飛車穴熊対四間飛車で、先手の立ち遅れを好機と見た後手が△5五歩と仕掛けた局面。
 
【第4図は△5五歩まで】

穴熊は未完成の上、3六歩型で飛車のこびんが開き、先手は不安がいっぱいです。実際、▲5五同歩は△同角で飛にあたりますし、いまさらながらの▲8八銀では△5六歩と取り込まれ、▲同銀(▲同金も)は△5五歩で駒損が確定してしまいます。

第4図までに至る手順で▲1六歩に代えて▲8八銀と指していれば事情も違っていたでしょうが、現局面がこうならばそうは言っていられません。ですので、ここはあえて7九銀・6九金型という局面の「設定」を活かした組み立てを考えてみましょう。

第4図からの指し手
▲3七桂 △9五歩 ▲同 歩 △5六歩
▲同 銀 △9七歩 ▲同 香 △8五桂
▲9八飛 (第5図)
 
【第5図は▲9八飛まで】

第一歩は▲3七桂。これで△5六歩▲同銀△5五歩には▲4五銀と歩を取りながら出られるようになります。対して、後手は8八銀が入っていない穴熊の最弱点を狙い、端の突き捨てから一歩を手にし、香頭を叩いて△8五桂と跳ねる常とう手段で攻めてきますが、ここで局面の「設定」を生かした一手がありました。

▲9八飛。左側の金銀が初形のままだからこそ現実した飛車回り。以下、△7七桂成なら▲同桂とすれば、後手が歩切のため次の▲9四歩が厳しく、まだまだ難しいながらも先手が自陣の駒配置を利用して勝負形に持ち込んだと言えるでしょう。

「3つのアプローチ」、「16のテクニック」で難局面を打破

ここまでに紹介した手順、図面は、すべて10月24日に発売の『盤上のシナリオ ~理想の手順を組み立てる読みの技術~』から引用しました。

筆者は奨励会三段まで進み、退会後に上梓した『現代将棋を読み解く7つの理論』(2020年、マイナビ出版)で第33回将棋ペンクラブ・技術部門大賞受賞を受賞した他、自身のブログやnoteでも独自の視点による戦術解説を公開しているあらきっぺ氏。本書では、「3つのアプローチ」、「16のテクニック」を用いて、難解な現局面から優勢、勝利へと導く読みの技術を説いています。

あらきっぺ氏の説く「3つのアプローチ」、「16のテクニック」は、以下の通り。
 
(分類図1)

そして、「16のテクニック」は、下図のように互いに入り組むように関係性を持っているそうです。
 


「ちょっと何言ってるかわからない」



そう言うなかれ!

そう、言うなかれ。


正直に申し上げますと、筆者は本書を初読し終えた際、「これは高段者向けの書籍かな」と思いました。

しかし、3回、4回と読み返すうち、決して高段者のみを対象にした書籍ではないことがわかりました。

論より証拠、一番最初に紹介しました、「局面からのアプローチ」の、実際の紙面は以下の通りです。
 



なるほど。

3四に香を打ちたければ、まずは9一の香を狙って「すずめ刺し」のような形を作るべし、ということですね。最終図は、香または桂(※▲3四桂も厳しい!)の入手が確実で、振り飛車が「理想図」に近づいていることがわかります。

この局面は、3つのアプローチから「局面からのアプローチ」で「理想図」を描き、「16のテクニック」の選択は、「香を手に入れるには?」と考えて「16のテクニック」から「逆算」を選択し、「理想図」に近づけるのがよいということですね。

そして、さらに次ページでは、相手が簡単に9一の香を先手の駒台に乗せないよう頑強に抵抗してきた際の「シナリオ」が記されています。その場合は、理想図2(再掲図)を狙うことになるのですが・・・
【再掲 理想図2】

以下の手順にご興味のある方は、本書を手にとってお確かめください。

3つのアプローチ、16のテクニック、すべてにおいて、上の誌面のように詳細な解説がなされています。

前述の通りあらきっぺ氏は奨励会三段まで昇った超実力者で、その能力、いや脳力? は常人には計れるものではありませんが、脳内にストックされたあらきっぺ氏にしかわからないレベルの将棋スキル、ワールドを、なるべくわかりやすいようにすべて言語化し、さらにそこから、より多くの方が理解できるよう噛み砕いてくださっています。

「16のテクニック」とは?

「3つのアプローチ」は紹介しましたが、これまで「16にテクニック」については直接的には触れてきませんでした。

最後に、テクニック「対の利用」を、図面を使って紹介いたします。

「対」とは、あらきっぺ氏によれば・・・

「将棋で読みを進めていくと、彼我の指し手が2手一組のセットとして固定される部分が出てくる。例えば、角交換をした際の[☗2二角成☖同銀]といった応酬がそうだ。こういった(ほぼ)必然と言える2手一組の手順のことを、本書では「対(つい)」と表現する。」

初手から▲7六歩△3四歩に▲2二角成とされたら、角を取り返すしかありません。

そういうセットの手が、中終盤においてもあり、それを有効に利用することで局面を有利に進めることがある、ということですね。

では、第1図をご覧ください。
 
【第1図は△4二金寄まで】

ここで、「局面からのアプローチ」で先手の理想図を描けば、「4四銀、6四銀がいなくなって、5三歩成とできればいいな」(理想図)、となります。
 
【理想図は▲5三歩成まで】


問題は、それを実現する「シナリオ」があるかどうか。

ここは、「対の利用」で解決しましょう。

第1図からの指し手
▲7五歩 △8四飛 (第2図)
 
【第2図は△8四飛まで】

まずは桂頭を狙う▲7五歩。対して△同歩なら▲7四歩が入りますので、後手が桂頭を守るには△8四飛と浮くしかありません。[▲7五歩△8四飛]は「対」です。先手はさらに「対」を使って理想図に向かいます。

第2図からの指し手
▲4五歩 △同 銀 ▲7四歩 △同 飛
▲7五銀 (第3図)
 
【第3図は▲7五銀まで】


銀取りに突き出した▲4五歩は取るよりなく、[▲4五歩△同銀]は「対」。そして桂取りの▲7四歩も取るよりなく、[▲7四歩△同飛]も「対」。3つの「対」を利用して後手に絶対手を強要し、第3図の▲7五銀が狙い澄ました一着となりました。

第3図以下、△7五同銀なら理想図の▲5三歩成が実現します。△7五同飛なら▲2二角成△同玉ともうひとつ「対」を使って▲5三歩成(第4図)とすれば、△同銀なら▲6六角の王手飛車で先手優勢、王手飛車を防ぐ△3三金にもやはり▲6六角と打ち、7五飛を逃げれば▲4三とがあって、やはり先手優勢となります。
【第4図は▲5三歩成まで】


ところで、ここで紹介したいくつかの「対」ですが、腕に自信のある方は「最初の▲7五歩に対して、本当に△8四飛と浮く一手なの?」などなど、ご納得いただけなかった方もいらっしゃるかと思います。

大丈夫です。本稿では省略いたしましたが、上記で取り上げた「対」、それががなぜ「対」か、本書ではしっかり解説がなされています。正解手順の解説は2見開きを使い、さらに、そのひとつ前の見開きでは、単純に後手の4四銀、6四銀をどかして▲5三歩成を狙った場合の失敗例も記されています(下図)。
 


◇難解なテーマを誰にでもわかりやすく


簡単ながら、あらきっぺ氏渾身の著書『盤上のシナリオ ~理想の手順を組み立てる読みの技術~』を紹介しました。

正直に申し上げますと、本書は、かなり難解です。

ただし、その「難解」というのは、「テーマ」が難解という意味であって、ここまでに紹介した紙面のように、それぞれの章、項における解説はいたってシンプルで、誰にでも理解できるものとなっています。

本書を繰り返し読み、「3つのアプローチ」「16のテクニック」を理解すれば、ひと目ではどう指せばよいかわからないような局面でも、しっかり方針を持って指し進め、「理想図」へと持ち込む「シナリオ」を描けるようになることでしょう。

実際、筆者も本書を読んだことで、普段から「理想図」を意識し、それを実現する「シナリオ」を思い描いて指すようになりました(注:精度はともかく、ですが・・・)。


最後に、本書の章立ては以下の通りです。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)   お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。