将棋情報局

細かすぎて伝わらない!将棋年鑑藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 最終回

藤井二冠のインタビューを深堀り!(おまけつき)

皆さんこんにちは。「哲学の義務は誤解によって生じた幻想を除去することにある」でおなじみの編集部島田です。


ついに、この連載も最終回となりました(3回ですけど)。

ここまでの流れをおさらいしたい方は以下の記事をお読みください。

第1回
第2回

というわけで、この記事は、現在予約受付中の『令和2年版 将棋年鑑 2020』に掲載される藤井二冠のインタビューにおいて、文字だけでは伝わらない行間の微妙なニュアンスをテキストの限界を超えて伝えんとするものです。

限界をこーえてー、ラララほーしーのかーなたー、です。




全部で12個あるポイントのうち、今回は9~12個目の4つを紹介したいと思います。最終パートです。まさか12個全部紹介することになるとは思いませんでした(笑)。MENUは以下の通りです。
 
1、康光会長?
2、世にも奇妙なプチ自慢
3、潤滑油としての會場
4、どこまでもまっすぐに

さて、順に見ていきましょう。


1、康光会長?

最初は康光会長?です。これは藤井二冠の最近の将棋内容についての質問とその回答の中で現れたものです。

以下をご覧ください。

島田「最近は派手な手が減って、序中盤でリードを奪って終盤は広い玉を生かして危なげなく勝つ、というような対局が多くなってきたような気がします。ご本人としてはどうでしょう?」

藤井「自分としては以前もそんなに派手な手を指していたという印象はないんですけど(笑)。ただ最近は序盤で苦しくなるというのは少なくとも減ってきたとは思っています。いろんな形に対応できるようになったかなと」


藤井二冠と言えば升田幸三賞を受賞した△7七同飛成をはじめ、△6二玉、▲4四桂など、ファンの度肝を抜く手をすでに数多く指されています。それは我々から見ると派手な手に見えるんですが、藤井二冠からすると当然の一手だったりするのが面白いところです。

つまり、一般的な将棋ファンからすると将棋のセオリーに反する、常識外に映る手も藤井二冠の中ではロジカルに帰結する手なので、「え?派手ですか?」ということになるんですね。

で、これと似たようなことを佐藤康光九段も言っているのが面白い。佐藤九段と言えば天衣無縫。その自由奔放な指し方は棋士すらも真似できない、奇抜、と言われているところですが、本人にそれを聞いてみると「私の手は論理的です」とケロッと答えられる。

考えてみると、佐藤九段も藤井二冠も「たくさんの手を読む棋士」という共通点があります。このお二人のように、普通は読みを打ち切ってしまうところを、躊躇せず突っ込んで読むことで新しい世界線が開けてくることがあるんだと思います。

この「将棋盤の向こう側」とも呼べる世界を、ここでは「佐藤-藤井空間」と呼ぶことにします。


2、世にも奇妙なプチ自慢

はい。次は世にも奇妙なプチ自慢です。これは第2部の詰将棋パートで出てくるお話。會場が藤井二冠の詰将棋創作の初期段階について質問しているところです。

會場「先生が詰将棋創作を始めたきっかけはなんでしょうか」

藤井「はっきり思い出せないんですが、創り始めたのは8歳か9歳の頃だったと思います。最初は実戦の局面からの詰み手順が詰将棋になるんじゃないか、という素朴なところからだったと思います」

會場「実戦からの取材がスタートだとして、将棋世界で谷川賞を取った作品などは実戦からはかけ離れた詰将棋ならではの素材になっていますよね。ステップアップがものすごく早いと思うのですが」

藤井「自分はその年齢にしては読みの力が恐らくあったと思うので、こういう形にするとこういう手順になるんじゃないかということを、解きながらいろいろ考えていたのが良かったのかなと考えています」



この文もさらっと読んでしまうと普通の応酬として読めてしまうかもしれません。しかしちょっと待てよと、おかしいぞと。

注目すべきは「自分はその年齢にしては読みの力が恐らくあったと思うので」の部分、みなさんご想像の通り、いつもの藤井二冠らしく謙遜しながら答えてるわけですが、実際は「その年齢にしては読みの力が恐らくあった」どころか、間違いなく日本一なわけですよね(笑)。

プロ棋士も参加する詰将棋解答選手権を小学生の時に制してるわけですから。

間違いなく日本一で、ここは話の流れから言って「私には読みの力があったので」と言わざるを得ないのだけど、藤井二冠の人間的な素晴らしさがその一文に「恐らく」という言葉を挟ませた。

結果として、世にも奇妙なプチ自慢が現出した、というわけです。

よく考えてみると「恐らく」という修飾語が文のこの位置に入るのちょっとおかしいですよね。いかにもとってつけた、挿入した感があります。

ここに藤井二冠の心の葛藤、「ロジカル藤井」と「人間藤井」のせめぎあいを垣間見た気がしたのは私だけでしょうか?

おそらく私だけでしょう(笑)


3、潤滑油としての會場

続いては潤滑油としての會場です。油まみれの會場を想像するとすでにホラーですが(笑)。あくまで比喩です。

ここも詰将棋パートから。藤井二冠の好きな詰将棋について聞いたところです。

會場「好きな詰将棋を教えてください」

藤井「いいなと思った作品は今までにもたくさんあるんですけど、今思い出せるのが・・・・・・。そう、ですね。思い出せるのがあの、看寿賞作の『くもの糸』ですか」

會場「あ、斎藤吉雄さんの」

藤井「あ、はい」

會場「あれはいいですよね」

藤井「感触のいい手が続いて、いいなと思います」

會場「ホントそうですよね。序から収束まで全く緩むことなく全部つながっているという。すいません、私が勝手に語っちゃってるんですけど(笑)そういうイメージでいいでしょうか」

藤井「(笑)はい。そのとおりです」



横で聞いていて、會場が『くもの糸』という作品を知っていたことに驚きを隠せなかった私。

(へぇー、あいばっち、知ってんだ。すげーなぁ)

そこで当然藤井二冠に作品の魅力を語っていただくのかと思いきや、なんと!會場自らとうとうとしゃべり出すじゃありませんか!

これには私のインタビュアーとしての常識を完全に覆されました。なんせ、自分でしゃべっちゃって、藤井二冠には『はい。そのとおりです』しか言わせないんですから。そりゃ藤井二冠も苦笑いですよ。

でもこの話には続きがありまして、會場がこういう形で先に詰将棋マニアぶりを披露することで、このあと藤井二冠の舌も滑らかになったんです。

つまり、藤井二冠に「あ、この人には本気出していいんだ」と思わせた。ここがポイントです。

実際こういう有名人にマニアな部分の話を聞きだすのは難しい。立場もありますし、恥ずかしいと思われますからね。

そこで潤滑油としての會場の登場です。先に自分が極限までマニアぶりを披露することでマニアであることのハードルを下げる。化学反応における触媒と一緒ですよ。二酸化マンガン會場。

インタビューにおいて先に自分が語ってしまうテクニックを「會場手筋」と名付けたいと思います。

ただし、會場が意図して會場手筋を使ったどうかは疑問です。恐らく偶然の産物でしょう(笑)


4、どこまでもまっすぐに

はい。というわけで12個あったインタビューのポイントもついに最後になりました。ラストテーマは「どこまでもまっすぐに」です。

これは私が藤井二冠に目標を聞いた時の話。

島田「これから一年の目標を教えてください」

藤井「まだまだ自分に足りないところはあると思うので、そういったところを伸ばしていって実力を高めたいと思っています。実力をつけたうえで何か結果を出せればと考えています」


インタビュアーとしては目標を聞いたら「タイトル獲得です!」とか、景気のいいことを求めるところ。でもこれまで3回のインタビューで藤井二冠からそういう言葉を聞いたことがありません。

いつも判で押したように「強くなりたい」「実力を高めたい」と答えられる。

でも何を隠そう、この私、藤井二冠のこの回答が大好きなんですよね。

どこまでも、まっすぐ、ブレない。

私は俗世間の汚れにまみれた人間なので日常のちょっとしたことで一喜一憂しているわけですけど、そんな自分と崇高な藤井二冠の落差が逆に清々しい(笑)。

清々しくて泣けてきますね。

なので、毎年この回答を聞くと安心します。今年も頑張ろうってなります。

藤井二冠には、これからも変わらず、まっすぐ伸びていってほしいですね。その先に何があるのか、私も遠くから見させていただきたいと思います。


・・・と、いうわけでインタビューの補足は以上です。

皆さま、お楽しみいただけましたでしょうか? そうだといいなぁ。

第3回までお付き合いいただきまして本当にありがとうございました!!

そして、『令和2年版 将棋年鑑 2020』は現在好評予約受付中です。

ぜひ皆さんの目でこのインタビューの全文を読んでいただいて、それぞれの感想をお聞かせいただければ幸いです。

宜しくお願いいたします。


















(おまけ)







・・・と、ここまで書いて天井を見上げる。大きく息を吐いた。

「終わったぁー」

夜11時を過ぎている。会社には私と、私と背中合わせで座っている會場しかいない。
オフィスの電気は消えていて、我々の上だけスポットライトのように蛍光灯が光っていた。
「會場っちのこともいい感じに書いといたよ」
「ほんとですかぁ?」
「うそ」
「勘弁してくださいよ(笑)」
「じゃー、帰るわ。まだやってくの?」

會場のモニターには詰将棋の問題が映っている。次に出す本のチェックだろう。

「もう少しやっていきます。お疲れさまでした」
「お疲れ」

パソコンの電源を切り、出口に向かう。重い会社のドアを開けた。
ドアを開け、顔を上げる。そこで私は自分の目を疑った。
ドアを開けた先に、藤井聡太二冠がいたからだ。

「・・・え?」

言葉が出ない。なぜここにいる? 将棋連盟に用事があることはあっても、うちに用はないはずだ。
しかもこんな遅い時間に。どうして・・・・・・

「行きましょうか」

藤井二冠が穏やかな声で言う。いつもの声だ。
先を行く二冠の後を吸い込まれるように追いかけた。エレベーターに乗り、一階の出口に向かう。
藤井二冠は自動ドアの方に向かったが、この時間だと自動ドアは開かない。反対の裏口から出るしかない。

「先生、こっちです」
「あ、そうでしたか」

なぜこうなったか全くわからなかったが、さっきまで藤井二冠の記事を書いていたせいで、何故かいまの状況を違和感なく受け入れている自分がいた。裏口のドアを開ける。
夜の神保町の街が見えた。
これはきっと、藤井二冠の記事を書いたことで贈られたギフトだ。長い記事を書き終わったテンションも手伝って、だんだん楽しくなってきた。考えてみれば将棋ファンならこの状況を喜ばない手はない。
外に出る。

「さぁ先生、どちらに行きましょうか」
そう言うつもりでドアの方を振り向いた。

しかし、そこにはもう誰もいなかった。藤井二冠は消えてしまった。

「・・・疲れてたんかな」

思わずつぶやいた。それに返答する者はなく、独り言になった。
でも気分はよかった。間違いなくあれは何かの贈り物だ。素直にそう思った。

「ありがとうございました」

今度は独り言のつもりでつぶやいた。

夜の神保町に飛び出す。家に帰ろう。

明日も、将棋だ。


 
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。

著者