将棋情報局

詰将棋作家・藤井聡太 第3回 藤井聡太の桂は跳ねる

藤井聡太七段が創作した詰将棋を本格批評!

藤井七段の好手には桂を使った手が多いと言われています。ちょっと考えるだけでも高野四段戦の▲9七桂とか、広瀬八段(段位は当時)戦の▲4四桂とかが思いつきますよね。
特に躍動感があるのがこの将棋。デビュー間もないころの浦野真彦八段-藤井聡太四段戦(平成29年2月9日、第30期竜王戦ランキング戦6組)です。
 


この局面から…
△7三桂 ▲1五銀 △6五桂!



 
 跳ねて跳ねて、で手を作ってしまいました。
現代将棋のスピード感はすごいな、という観点で語られることの多い将棋で、それはまったくその通りなのですが、ここではちょっと違った見方をしてみます。
それは、「藤井七段って、桂を跳ねる手が好きなんじゃないか?」ということです。一回手の善悪は置いておいて、単純にその前の、好みの段階のお話。
なぜそのように思うかといえば、藤井七段が作った詰将棋に桂跳ねのモチーフがたびたび登場するからです。今回はその中でも、浦野戦と同じく「桂の二段跳ね」を表現した二作に絞って見ていきましょう。

【問題図1】
 
(詰将棋パラダイス2014.2)

第1回で取り上げた作品と同様、藤井七段が11歳のときに発表された作品です。入玉形に慣れていない方は駒の利きなど混乱するかもしれませんが、ゆっくり眺めていきましょう。まず、序はあまりひねらずに、馬を活用しにいきます。

問題図1以下の手順
▲5八金引 △3八玉 ▲5六馬

【1図】
 

これでたとえば△4七歩合だと、次の手順があります。

△4七歩合 ▲4八金 △同玉 ▲6六馬

【変化図1】
 

△3八玉 ▲3九馬

【変化図2】

 
このように進んで歩合は詰み。最後、▲3九龍といくと△同龍!があることには注意してください。さて、では1図でどうすればよかったのでしょうか。それを見抜くために、この変化図2をよく見て、玉方にとって都合のいい展開を考えてみましょう。勝負でタラレバは禁物ですが、詰将棋においては好き勝手にifの世界に浸っていて大丈夫ですし、実のところそれが詰将棋を解くコツでもあります。
さて、もしここで4七の歩がなければ、△4七玉と逃げられます。しかしそれには▲5七金と上がって詰み。ではそのとき3六の銀もなければ? ▲5七金にさらに△3六玉と逃げられますね。というわけで、玉方はここまでで3六の駒と4七の駒を消してしまえばいいことになります。そんな都合のいい手があるのでしょうか? 1図に戻ります。

【再掲第1図】
 

1図以下の手順
△4七銀成! ▲4八金 △同玉 ▲6六馬 △5七成銀!

【2図】

 
銀の連続移動合が出てきました。4七の合駒のときに、銀の移動合を選ぶことでまず3六の地点を開けます。そのまま4七に駒が残ると3六だけ開けても意味がないので、やけくそのように見えますが△5七成銀! とさらに移動捨て合で消してしまいます。銀一枚ただなので見えにくい手ですが、4七玉→3六玉のルートに逃走できれば、玉が広すぎて銀一枚くらいどうってことないというわけです。
さて、以降は別の手順で収束に入ります。このフィニッシュで輝くのが桂です!

2図以下の手順
▲5七同馬 △3八玉 ▲4七銀 △同桂不成!

【3図】
 

▲3九馬とする前に、もらった銀を捨てて、再び4七の封鎖を試みます。しかしこれに△同桂不成!と応じるのが最強の手で、もう▲3九馬はできなくなっています。△同桂成と取れるからです。以下はきれいな捨て駒2連発となって詰上がりです。

3図以下の手順
▲4八馬 △同玉 ▲3九銀 △同桂成 ▲5八龍まで17手詰。

【詰上がり図】

 
というわけで、3五の桂が4七桂不成→3九桂成と二段跳びする手順が実現して幕となりました。最終的に仕上がった作品全体においては、銀の移動合の部分にウェイトが移った印象がありますが、おそらく桂跳ねの収束がまず創作の動機としてあって、そこから逆算で膨らませた作品なのだと思います(というのは、銀移動合を先に思いついて、後からこの切れのある収束を接続させていたら、さすがにすご過ぎるからです)。本作は解答募集時、前半の移動合部分で解答者全体の3分の1もの誤解者を出しましたが、その点はもしかすると作者の本意ではなかったかもしれません。

本作から3年後、藤井七段は再び桂の二段跳ねをモチーフにした作品を発表しました。

【問題図2】
 
(詰将棋パラダイス 2017.5)

これも入玉形ですね。桂が二段跳ねするということは、いま4四にいる桂が跳ねるのでしょうか? いえ、本作で藤井七段はもう一ひねりした味付けを見せます。

問題図2以下の手順
▲5六香 △5八銀合

【4図】

 
いきなり謎の捨て合が飛び出しました。でもこれは案外簡単な意味づけです。まず確認しておくべきこととして、この形で5八への合駒は基本的に取れないのです。そのことは、取った図を考えてみればわかります。

4図以下の手順
▲5八同飛 △6七玉

【変化図3】

 
5八に飛車を呼んでから△6七玉とすると、玉が飛車を引き付けてから死角にもぐった格好です。合駒で金さえ渡さなければ、次に何の王手でもだいたい△5八玉と飛車を取ってしまえるのでぜんぜん詰みません。5八の合駒を取れない理屈はこれだけ。
ではなぜ銀なのか。それは作意を進めるとわかります。

4図以下の手順
▲1三角 △6七玉

【5図】

 
合駒が取れないとなると、成れる領域の1三から角を打って王手するしかなく、それに対して玉方は6七の銀を取ります。この局面で、もし5八の駒が歩や香だったとすると、▲4七飛△5六玉▲5七角成△5五玉▲5四龍まで詰んでしまいます。銀なら▲4七飛を△同銀成と取れますね。銀である理由はこれだけ。不思議な捨て合に見えたことと思いますが、意外と成立している原理は簡単ですよね。

5図以下の手順
▲6四龍

【6図】

 
▲4七飛ができない攻め方は、▲6四龍と龍を使います。ここの合駒が問題。ためしに△6六歩と受けてみましょう。

6図以下の手順
△6六歩 ▲5九桂 △同銀不成

【変化4図】

 
攻め方は▲5九桂と捨てて銀をどかしにいきます。このとき△同銀成と取ると変化4図から▲6八角成△5六玉▲4六飛がありますね。それに備えて6八に利くように不成で取るのですが、どのみち4七の守りがなくなってしまいますので、以下の手順が生じます。

変化4図以下の手順
▲4七飛 △5八玉 ▲5七角成

【変化5図】

 
詰んでしまいました。さて、変化5図をよく見ていると、6六の合駒が5七に利いていればこの馬を取れることが分かります。そこで、6図でこのようにしてみましょう。

【再掲6図】

 
6図以下の手順
△6六と ▲5九桂 △同銀不成 ▲4七飛 △5八玉 ▲5七角成

【変化6図】

 
6六の駒がと金になったので、この馬を取ることができます。しかし……。

変化6図以下の手順
△5七同と ▲6九角

【変化7図】

 
▲6九角がぴったりで詰んでいます。5七の馬を取られても、2手伸びるだけだったんですね。ではこれが最善でしょうか? いえ、ここで考えてみてください。もし、6図の王手に対する合駒が、5七に利いていて、しかも5七の馬を取ったあと6九にも利いていたら? もうおわかりですね。

【再掲6図】

 
6図以下の手順
△6五桂合!

【7図】

 
というわけで、主役の桂が遅れて登場です。以下同様に進んで桂の跳躍ショーとなります。

7図以下の手順
▲5九桂 △同銀不成 ▲4七飛 △5八玉 ▲5七角成 △同桂不成!

【8図】
 

▲5九桂に△6六玉は▲5五龍まで。この変化に備えて、初手の香は5六への移動が限定です。それより奥に行ってしまうと、このとき5五龍にひもがつきません。

8図以下の手順
▲6九角 △同桂成!

【9図】
 

これが玉方の最善となる延命手段でした。ここからは一手詰です。

9図以下の手順
▲6七龍まで15手詰。

【詰上がり図】
 

ということで、藤井七段の桂跳ねにこだわった2作を見ていただきました。
2014年の作は置き駒によるもの、本作は合駒によるものとやや毛色は異なりますが、数少ない詰将棋パラダイス発表作3作のうち2作が桂の二段跳ねを表現しているというのはやはり示唆的です。少なくとも、ある一時期の藤井七段にとって何かしら琴線に触れるモチーフだったことは間違いありません。詰将棋創作において、このように桂馬の特性を熟知していたこと、桂馬の躍動感への志向があったことが、現代将棋のスピード感と好相性だった……というのは、いささか考えすぎかもしれません。でもやはり、将棋も詰将棋も同じ盤上で何かを表現するものである以上、藤井七段のプレイヤーとしての面と創作者としての面は、深いところでつながっている、と思いたいのです。その深いつながりが、もし純粋に「この駒が好き」ということだったとしたら素敵だな、と思います。
皆さんはどう思われたでしょうか?


 
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著者

會場健大(編集)