2020.02.04
詰将棋解答選手権に潜む魔物
藤井聡太七段も解けない!?正解者ゼロだった強すぎるラスボスたち
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」の予約受付中です。おかげさまですでにかなりのご予約をいただいております。予約特典として、数量限定の小冊子「写真で振り返る詰将棋解答選手権 ~藤井聡太5連覇の軌跡~」が付属してまいりますので、ぜひお早目のご予約をご検討ください。
詰将棋解答選手権に出題される問題はどれも精選された高品質なものですが、「満点が一人だけ出てチャンピオンになるのが望ましい」という観点から、毎年その中には俗に「ラスボス」と呼ばれている作品が出題されます。真の勇者だけがそれを倒せるというわけです。今回はそんな歴代ラスボスの中から、正解者ゼロだった強すぎるラスボスの特徴をかいつまんでご紹介します。手順の詳細は「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」をお読みください。
第5回 若島正作
この回は正解者ゼロが2問出ました。そしてどちらも「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」の著者である若島正氏の作品。
1問目は使用駒12枚のこの作品。メインの構想は銀先銀歩玉方応用と言われている手順で、玉方が攻め方に歩を渡すと早く詰むけれど、より強い銀を渡すことで延命できるというもの……だったのですが、そのメイン部分にたどり着くまでの舞台づくりが難解を極めました。もともと、若島氏は構想の舞台や主役となる駒を合駒の中で作り上げていく手法をよくとられていました。本作でも、銀先銀歩が出てくるのは作意の中ごろ。その局面に到達するためには、8手目、14手目に合駒読みをしなければなりませんが、8手目の合駒の変化がかなり深く、かつ細い攻めをぎりぎりつなぐもの。また、14手目に合駒をする場合には16手目も合駒になるので、2回の合駒の組み合わせを読まされることになり、その中には8手目の合駒の種類との兼ね合いを調べなければならない変化さえあります。というわけで誰もメイン部分にまでたどり着けず、正解者ゼロとなったのでした。なお本作には後に余詰が見つかっており、本書にはその修正図も掲載されています。
第5回 若島正作
先ほどの作品の次に出題されていた作品で、過去に正解者ゼロが二題出たのはこの第5回のみです。
この作品は前半のテーマと後半のテーマとがあり、解答者はその切り替えに苦しんだのではないか、というのが作者の若島氏の見立て。
前半では、打ち歩詰の攻防が繰り広げられます。玉方の駒を弱くして打ち歩詰に誘導するために、あえて馬の利きを自分の角でふさいで、それまで馬でしか移動できなかった地点に角不成での移動を用意するというシナリオ。ここまで見抜けた解答者は、どうしてもそのシナリオの範囲内で詰ませようと考えてしまうものなのですが、正解はそこであっさり「じゃあ別の手段で攻めますね」と頭を切り替えることでしか見つけられないのでした。
後半部分はその角が転々と移動を繰り返し、土壇場での逆王手を狙うテーマに変わります。それぞれで一作作れそうなネタを同時に盛り込んだ意欲作を前に、解答者たちは白旗をあげたのでした。
第11回 相馬慎一作
その若島氏が解答者に転向した最初の大会で正解者ゼロを記録したのが本作。相馬慎一作の特徴はなんといってもその論理的構成の重厚さ。そしてまた、どの変化も作品の根幹と直接結びついているので、「だいたい詰みでしょ」と読み飛ばしをできる変化がほとんどないのです。
本作を解くには、次のことを全部見破る必要があります。
おそらく相馬氏としてはそこまで難しく作った部類ではないと思いますが、それでも制限時間付きでこの骨太の構成を読み切るのは至難の業。
本作から、「ラスボスといえば相馬慎一」の時代が続いていくことになります。斎藤慎太郎七段が好きな作家に挙げていることでも有名ですね。
第13回 相馬慎一作
そして解答選手権の歴史の中でもっとも難しかったであろう作品がこちら。前年優勝者の藤井聡太当時三段をはじめとして、正解者ゼロであるばかりか、部分点の獲得さえ一人しかいませんでした(千葉七段)。
その作品に、藤井三段がどんな第一印象を抱いたか引用してみましょう。
『初手は▲2五銀と▲2七銀打しかない親切な⁉つくり。おまけに▲2七銀打は、1五玉、1一龍、1四飛合で全く詰まない。ますます親切な‼』(原文ママ、全日本詰将棋連盟「詰将棋解答選手権2016」より)
初手が入りやすい、というのが藤井三段の第一感。ところが本作、こちらの妙手に気づくごとにそれを上回る玉方の手に気づかされる仕掛け。本作をもし解けたとして、以下のプロセスで全部の変化を読まされることになります。
ということで、あまりにも当たり前に見えた初手が実は不正解。そして全く詰まないように見えた▲2七銀打がじつは正解で、▲2五銀と比べて膨大な変化を読まされるにもかかわらず、その効果が1五の歩が消えることだけであるという点でめちゃくちゃやりにくい一手なのです。そして1五歩が消えることのメリットを知るためには、上記の思考プロセスを全部踏まなければなりません。藤井三段が解答を見た時のコメントも引用しておきましょう。
『解答が配られた。なんと初手が違う‼ 親切な問題だと思っていた僕は、完全にしてやられてしまっていたのだ』
まさに盤上に論理の迷宮を築いたと言っていい作品で、この年の看寿賞も受賞しています。
正解者ゼロの作品をたくさん並べてみましたが、いかがだったでしょうか。いずれも、本稿でご紹介したのは概要だけ。作品の手順を詳細な解説つきで実際に鑑賞してみたい方は、「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」をぜひご購入ください! ご予約はお早めに!
※付録の写真選定中... お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
詰将棋解答選手権に出題される問題はどれも精選された高品質なものですが、「満点が一人だけ出てチャンピオンになるのが望ましい」という観点から、毎年その中には俗に「ラスボス」と呼ばれている作品が出題されます。真の勇者だけがそれを倒せるというわけです。今回はそんな歴代ラスボスの中から、正解者ゼロだった強すぎるラスボスの特徴をかいつまんでご紹介します。手順の詳細は「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」をお読みください。
第5回 若島正作
この回は正解者ゼロが2問出ました。そしてどちらも「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」の著者である若島正氏の作品。
1問目は使用駒12枚のこの作品。メインの構想は銀先銀歩玉方応用と言われている手順で、玉方が攻め方に歩を渡すと早く詰むけれど、より強い銀を渡すことで延命できるというもの……だったのですが、そのメイン部分にたどり着くまでの舞台づくりが難解を極めました。もともと、若島氏は構想の舞台や主役となる駒を合駒の中で作り上げていく手法をよくとられていました。本作でも、銀先銀歩が出てくるのは作意の中ごろ。その局面に到達するためには、8手目、14手目に合駒読みをしなければなりませんが、8手目の合駒の変化がかなり深く、かつ細い攻めをぎりぎりつなぐもの。また、14手目に合駒をする場合には16手目も合駒になるので、2回の合駒の組み合わせを読まされることになり、その中には8手目の合駒の種類との兼ね合いを調べなければならない変化さえあります。というわけで誰もメイン部分にまでたどり着けず、正解者ゼロとなったのでした。なお本作には後に余詰が見つかっており、本書にはその修正図も掲載されています。
第5回 若島正作
先ほどの作品の次に出題されていた作品で、過去に正解者ゼロが二題出たのはこの第5回のみです。
この作品は前半のテーマと後半のテーマとがあり、解答者はその切り替えに苦しんだのではないか、というのが作者の若島氏の見立て。
前半では、打ち歩詰の攻防が繰り広げられます。玉方の駒を弱くして打ち歩詰に誘導するために、あえて馬の利きを自分の角でふさいで、それまで馬でしか移動できなかった地点に角不成での移動を用意するというシナリオ。ここまで見抜けた解答者は、どうしてもそのシナリオの範囲内で詰ませようと考えてしまうものなのですが、正解はそこであっさり「じゃあ別の手段で攻めますね」と頭を切り替えることでしか見つけられないのでした。
後半部分はその角が転々と移動を繰り返し、土壇場での逆王手を狙うテーマに変わります。それぞれで一作作れそうなネタを同時に盛り込んだ意欲作を前に、解答者たちは白旗をあげたのでした。
第11回 相馬慎一作
その若島氏が解答者に転向した最初の大会で正解者ゼロを記録したのが本作。相馬慎一作の特徴はなんといってもその論理的構成の重厚さ。そしてまた、どの変化も作品の根幹と直接結びついているので、「だいたい詰みでしょ」と読み飛ばしをできる変化がほとんどないのです。
本作を解くには、次のことを全部見破る必要があります。
1、玉方は飛車を攻め方に渡すことで自玉を打ち歩詰に誘導したい。
2、ただし、すぐ渡すとだめで、一度角を渡して角と飛を交換させることにより時間差で渡さなければいけない。
3、この時間差渡しのときのみ、逆王手の手順が生じる。
4、そこで、渡された角を使ってあらかじめ盤上で角→香→角の交換サイクルを行っておくことで、この逆王手を防ぐことができる。ただし、サイクルを回しすぎると詰まない。
2、ただし、すぐ渡すとだめで、一度角を渡して角と飛を交換させることにより時間差で渡さなければいけない。
3、この時間差渡しのときのみ、逆王手の手順が生じる。
4、そこで、渡された角を使ってあらかじめ盤上で角→香→角の交換サイクルを行っておくことで、この逆王手を防ぐことができる。ただし、サイクルを回しすぎると詰まない。
おそらく相馬氏としてはそこまで難しく作った部類ではないと思いますが、それでも制限時間付きでこの骨太の構成を読み切るのは至難の業。
本作から、「ラスボスといえば相馬慎一」の時代が続いていくことになります。斎藤慎太郎七段が好きな作家に挙げていることでも有名ですね。
第13回 相馬慎一作
そして解答選手権の歴史の中でもっとも難しかったであろう作品がこちら。前年優勝者の藤井聡太当時三段をはじめとして、正解者ゼロであるばかりか、部分点の獲得さえ一人しかいませんでした(千葉七段)。
その作品に、藤井三段がどんな第一印象を抱いたか引用してみましょう。
『初手は▲2五銀と▲2七銀打しかない親切な⁉つくり。おまけに▲2七銀打は、1五玉、1一龍、1四飛合で全く詰まない。ますます親切な‼』(原文ママ、全日本詰将棋連盟「詰将棋解答選手権2016」より)
初手が入りやすい、というのが藤井三段の第一感。ところが本作、こちらの妙手に気づくごとにそれを上回る玉方の手に気づかされる仕掛け。本作をもし解けたとして、以下のプロセスで全部の変化を読まされることになります。
角不成で詰み? ←玉方の中合で詰まない
じゃあその前に飛車不成をしておくべきだったのか! ←玉方の中合で詰まない
じゃあ桂をこっちに成っていればよかった! ←玉方の中合で想定していた順に入れない
その妙手に対しては馬切って歩打てば詰み! ←二歩で打てない
いったいどこで間違ったのか…… ←こたえ:初手
じゃあその前に飛車不成をしておくべきだったのか! ←玉方の中合で詰まない
じゃあ桂をこっちに成っていればよかった! ←玉方の中合で想定していた順に入れない
その妙手に対しては馬切って歩打てば詰み! ←二歩で打てない
いったいどこで間違ったのか…… ←こたえ:初手
ということで、あまりにも当たり前に見えた初手が実は不正解。そして全く詰まないように見えた▲2七銀打がじつは正解で、▲2五銀と比べて膨大な変化を読まされるにもかかわらず、その効果が1五の歩が消えることだけであるという点でめちゃくちゃやりにくい一手なのです。そして1五歩が消えることのメリットを知るためには、上記の思考プロセスを全部踏まなければなりません。藤井三段が解答を見た時のコメントも引用しておきましょう。
『解答が配られた。なんと初手が違う‼ 親切な問題だと思っていた僕は、完全にしてやられてしまっていたのだ』
まさに盤上に論理の迷宮を築いたと言っていい作品で、この年の看寿賞も受賞しています。
正解者ゼロの作品をたくさん並べてみましたが、いかがだったでしょうか。いずれも、本稿でご紹介したのは概要だけ。作品の手順を詳細な解説つきで実際に鑑賞してみたい方は、「詳解 詰将棋解答選手権チャンピオン戦 2004~2019」をぜひご購入ください! ご予約はお早めに!
※付録の写真選定中... お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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