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マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて

第4回 マストドンはpixivの何を変えるのか?

ソーシャルメディアに造詣の深い5人の著者が「マストドン現象」を読み解く書籍『マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて』。第4章「マストドンはpixivの何を変えるのか?」では、マストドンブームの最初期からインスタンスの立ち上げ、アプリ開発、独自実装を進めているピクシブに、まつもとあつし氏がインタビューを行っています。そのうちの「絵を描く前からコミュニケーションが生まれる場に」を紹介しましょう。

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―2017年4月14日という非常に早いタイミングでPawooを立ち上げました。その背景には何があったのでしょうか?

 

清水:アスキーの遠藤さんの記事を見たことがきっかけです。「ツイッターと似たようなサービスが立ち上がって注目されている?」と単純に気になったんですね。一方で、「ツイッターっぽい」サービスというのは、これまでもいくつも生まれて消えていったのを見てきてもいますので、最初はちょっと斜に構えて見ていたのも事実です。

 ただ、このタイミングで出てくるというのは何かあるかも、と思って、個人でインスタンスに参加してみたところ、マストドン自体はその時点で誕生から1年くらい経ってはいましたが、それにしても機能の充実度と、その実装のクオリティの高さに驚かされたんです。僕自身プロダクトマネージャーという立場でさまざまな新機能の開発・運用を担当してきたので、尚更でしたね。

 

―マストドンの機能そのものは、見え方としてはツイッターのそれとよく似ていますが。機能が充実していると感じられたのは、どういった点なのでしょうか?

 

清水:ウェブサービス全般に言えることですが、リリースの初期段階というのはリソースが限られていますから、できるだけ機能は省く方向に傾きがちなんですね。

 けれどもマストドンには「ブロック」、「ミュート」、「2段階認証」まで、現在求められているだろう機能はしっかりと用意されていました。この開発者(オイゲン・ロッコ氏)は相当「やり切る」タイプだな、凄いな、と思いましたね。

 

―日経新聞が行った彼へのインタビューでは、ツイッターの方向性に苦言を呈するなど、かなりツイッターを意識して設計・開発したことがうかがえます。ツイッターと遜色ないものをローンチしたかったということかもしれません。

 

清水:そうですね。コミュニケーションを成立させるためには、これだけの機能が結局は必要になるのだ、ということを見極めて実装されていたのが、同じ開発者として率直に凄いなと思いました。

 

―そのように機能がそろっていて、導入も比較的容易とはいえ、会員2500万人を抱えるpixivが、いち早く独自機能も備えてPawooを立ち上げたことには驚かされました

※Pawoo:ビクシブが立ちあげたインスタンス(https://pawoo.net/about

 

清水:我々は「創作者の支援」をミッションステートメントとして掲げています。その実現のためなら何をやってもいい、ということで新しいサービス・機能を提供してきました。そんな中でも創作者やその周囲の人たちが「活動する場」というのはとても重要だと捉えています。

 これまでも、「ピクシブスケッチ(pixiv Sketch)」(ブラウザ上で簡単にお絵描きできて、pixivに共有できるサービス)や、「スタックフィード」(つぶやきに作品を添付して配信できる機能)、「グループ機能」なども、そんな中から生まれてきました。けれども、私たちが目指すベストな「活動の場」を提供し切れてこなかったというのが現実ではあったのです。

 

―pixiv内にも気に入った絵描きさんをフォローしたり、コメントを寄せたりといった機能は豊富に用意されているようにも思えます。それでは不十分で、それを補完するのが自前のものではない、しかも発展途上のマストドンを採用したPawooであったということでしょうか?

 

清水:コミュニケーションの「頻度」とその場所に滞在する「時間」が「活動の場」としては重要だと考えています。これまでpixiv内でのコミュニケーションというのは、「作品」を起点としたものだったのです。

 新しい作品の投稿がない限り、なかなかユーザーは訪れてはくれません。つまり、作品の投稿やその閲覧という「能動的な」行動が伴わないと、コミュニケーションが生まれず、pixivを楽しんでもらおうとしても、きっかけがなかったわけです。

 

―なるほど。しかも、コミュニケーションの起点となる「作品の制作」というのは、創作者にとっての労力は、たとえそれが楽しい作業であったとしても、重たいものではありますね。「ピクシブスケッチ」はその起点となる作業のハードルを下げて、コミュニケーションをより生まれやすくするのが狙いであったというわけですね。

 

清水:その通りです。しかし「ピクシブスケッチ」のように起点のハードルを下げたとしても、ある種の「構え」をユーザーに求めるもので、やはり依然としてそこには壁がありました。であれば、もっと基本的なことを起点とできればよい、ということなんですね。

 たとえばいま自分が思っていることや、イラストではなくまず言葉で伝えたいことを好きに、気軽につぶやいたり、ということです。その流れで、「じゃあ、こんな絵を描いてみよう」となって、投稿できる―そういったより日常に近い場所、活動していく中で自然と使うツール、居場所となって、そこから作品が生まれていく―会話と同じくらいの構え方で、絵を描き投稿するという流れが、Pawooから生まれれば、という思いがあったんです。

 

―なるほど、「絵を描く」よりももっと手前のコミュニケーションの場であり、それでいて、創作活動につながる場としてPawooは企図されたということですね。

 

清水:マストドンのインスタンスに参加し、ローカルタイムラインの「緩い」一体感を目の当たりにして、「こういう場所を提供できれば、創発的に作品が生まれる場になるはずだ」と直感したんです。

 

著者プロフィール

まつもとあつし(著者)
フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者(法政大学社会学部兼任講師)ITベンチャー・出版社・広告代理店、アニメ事業会社などを経て、現在フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー。