2017.07.27
第5回 マストドンが示す分散型SNSの可能性
ソーシャルメディアに造詣の深い5人の著者が「マストドン現象」を読み解く書籍『マストドン 次世代ソーシャルメディアのすべて』。第5章「マストドンが示す分散型SNSの可能性」では、マストドンブームを掘り下げ、分散型SNSが今後もたらすであろう未来やその懸念点について、堀正岳氏が予想していきます。そのうちの「ツイッターの迷走がもたらしたチャンス」を紹介しましょう。
もう一度、なぜこのタイミングで分散型SNS「マストドン」が注目されたのかについて考えてみましょう。
背景としては、2013年11月に株式上場をして以来低成長に悩まされているツイッター社の迷走があります。同じ期間で200%ほどの成長を達成したフェイスブックと比較してツイッターの株価は低迷を続けており、創業者や共同創業者が入れ替わる経営の混乱はそれに拍車をかけていました。
こうした背景はツイッター自体の機能の迷走も引き起こしました。数々の仕様変更によってサードパーティのツイッタークライアントを事実上締め出してしまったり、自社サービスと競合する6秒動画サイトVineを推し進めてからサービスを終了させたりした出来事は、その代表的な例です。
ツイッターが、ツイッターでなくなっていくような改変も目立つようになりました。時系列表示というツイッター始まって以来の根っこだった部分が、アルゴリズムによって重要なツイートがトップに表示されるようになったり、リプライのような基本機能への変更が行われたりといったものです。
これと並行して、ツイッターに対してはプラットフォーム上の悪用やヘイトスピーチをコントロールできていないという批判も高まっていました。
2014年に女性ジャーナリストに対するネット上のハラスメント問題として「ゲーマーゲート事件」が大きな注目を集めましたし、2016年には数多くのセレブが匿名のアカウントからの攻撃を理由に挙げてツイッターをやめたケースが続きました。
2015年に当時ツイッター社CEOだったディック・コステロ氏は「ツイッター上の荒らし問題の蔓延」を認めた上で改善を約束したものの、2017年の時点で実現したのはほんの一部の実験的な対策にとどまっています。
グローバルな利用規約に縛られるために、一見害の少なさそうでも特定の表現活動をするアカウントが一方的に凍結されてしまう一方で、ヘイトスピーチやデマ情報を日常的に発信しているアカウントがどれだけ報告されても放置されている現状がツイッターでは状態化しています。
それを不満に思うユーザーにとっては、フェイスブックやLINEなどといった、より閉じた友人とのつながりの中に退却するか、あるいはツイッター以外の選択肢を探すという気運が高まっていたのです。