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UX × Biz Book

第7回 エンゲージメント定量評価手法:オムニチャネルCXサーベイ

UXおよびUXデザインのビジネス価値を読み解く『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン』。デジタル・マーケティングから顧客との関係構築、ブランディング、実装まで、それぞれ現場で活躍する執筆陣が、多面的・複合的な視点、切り口で分かりやすく解説しています。この連載では各章の読みどころを掲載していきます。第7回目はコールセンターにおけるUXとカスタマー・エンゲージメントについて解説するChapter7(執筆:萩谷 衞厚)から、「7-5 エンゲージメント定量評価手法:オムニチャネルCXサーベイ」を紹介します。

顧客行動の変化に合わせた調査の必要性

私が所属する会社では、株式会社 U’eyes Designと共に、コールセンターやスマートフォンやWebサイト、コールセンターを対象とした顧客体験と、実際の顧客へのアンケート調査により、企業と顧客とのエンゲージメントを可視化し測定するための調査手法を開発しています。

 

現在、コールセンターの応対品質やWebサイトコンテンツの品質などを民間企業が第三者機関の立場で評価し、業種別のランキングを公開する調査はいくつか存在しています。

しかし、コールセンターの応対品質の調査は、冒頭でも述べた通り、一般の顧客は、Webサイトやスマートフォンを閲覧した上でコールセンターへの問い合わせをしているのが現状です。こうした顧客行動の変化により、これまでの調査のような、単一のコールセンターチャネルのみを対象として、コミュニケーターの敬語マナーやエチケットを中心とした評価だけでは、顧客の真の満足度や顧客のエンゲージメントの向上にはつながりにくいだけではなく、顧客行動の実態とはかけ離れていると言えるでしょう。

 

図7-1に、通販型自動車保険商品の検討から契約に至る顧客アクションのフローをまとめています。まさに、単一の顧客接点チャネルの評価から、オムニチャネルによる顧客体験評価への転換が求められます。

つまり、コールセンターへの架電前から、顧客は企業が提供する様々なチャネルに接しており、そうした顧客の行動に対してコールセンター以外のチャネルも含め、優れた顧客体験を提供できているのかといった観点からの調査が必要であると考えています。

 

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図7-1 通販型自動車保険商品の検討から加入までの顧客アクション

 

オムニチャネルCX調査は、以前より提供するミステリーコール調査を進化させることで、これまでの電話のマナーやエチケットの他、スマートフォンからの検索結果表示からの架電や、架電前にFAQサイト等にアクセスし不明点や知りたいことを事前に確認し、Webサイトの内容を理解した上で、コールセンターへの調査コールを実施します。そうした調査コールを通して、コミュニケーターの対応が望ましいものであるか、調査員が想定する不明点が解決できているか?などの評価指標に基づき、評価を行います。コールセンターのコミュニケーターの応対は、様々な顧客接点の通過点の一つでありながらも、コールセンターに到達する前の顧客が取ったアクションを想定し、他チャネルとも含めた顧客対応の総合力が顧客体験にとっては重要になると考えています。

 

一方で、Webアンケートにより、国内人口構成(性別・年代)を勘案し、調査対象企業の実際の顧客を無作為に抽出し、契約する企業の満足度や推奨意向、信託度などの項目によるアンケート、カスタマートラスト調査を実施しています。

 

つまり、CXサーベイは、これまでの各種調査の課題解消を前提に、複数チャネルの顧客体験に沿った、専門家による客観的調査「オムニチャネルCX調査」と、満足度や推奨意向、信託度などを問う実際の顧客を対象とした調査「カスタマートラスト調査」により構成され、最終的にはエンゲージメントを定量化し、スコアとして算出する調査手法となります(図7-2)。

 

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図7-2 CXサーベイ全体像

 

CXサーベイの例

こうした調査の手法に基づき、以下の内容で独自に通販型の自動車保険商品販売を対象に調査を実施しました(2015年7月)。

参考までに、調査手法や調査結果スコアを掲載します。

 

[調査対象自動車保険会社](独自に選出した8社)

・アクサ損保

・アメリカンホーム

・イーデザイン損保

・セゾン自動車

・ソニー損保

・そんぽ24

・チューリッヒ

・三井ダイレクト

 

[オムニチャネルCX調査実施概要]

・ 顧客設定:通販型自動車保険の加入を検討する新規顧客

・ 調査手法:専門の調査員が顧客設定に従い、スマートフォンでの検索からWebサイトの閲覧とコールセンターにおける電話応対品質をミステリーコール調査手法で実施(合計約30項目を4段階で評価)

 

[オムニチャネルCX調査顧客設定]

・ 自家用車の新規購入、自動車保険加入を検討中の男性、会社員。

・ 自動車保険の検討を行うため、スマートフォンからの簡単な情報収集後、保険会社のPC Webサイトにアクセスに情報を収集、その後、コールセンターへの問合せを通し不明点等を解消した上で、Webから通販型保険商品の申込みを行う意向。

・ 3年前に車を手放し、他社の自動保険を解約。今回3年ぶりに車を購入し加入保険も検討。

・ 保険契約は、インターネット割引が適用されるWebサイトからの申込みでクレジットカードでの分割払いを希望。

・ 中断証明書保管の質問がコミュニケーターからあった際には、「以前に契約していた保険会社の中断証明書は解約の際に発行しているかどうか記憶にない、発行していたとしても保管場所が不明ですぐに見つからない」と回答する。

 

[オムニチャネルCX調査を通して解決したい不明点]

・ 3年前に契約していた保険会社の等級は引き継ぐことが出来るか? 引き継げない場合は何等級での契約となるか?

・ 納車日がまだ確定おらず、納車日の当日か前日には補償をスタートさせたいが、インターネットでの申込みはいつのタイミングが良いか?

・ Webサイトからの保険申込みを行った場合、保険料の支払いはクレジットカード払いや分割払に対応しているか?

 

[カスタマートラスト調査実施概要]

・ インターネットモニタ会員を活用し、国内人口構成(性別・年代)を勘案し、調査対象企業の契約者約3,000人の回答を無作為に抽出。

・ 質問内容は、5項目、10の質問に対して、4段階で評価を実施。設問内容は図7-3の通り。

 

満足度 機能的満足 自分の生活を便利にしたり、実質的な利益をもたらしていると思う
情緒的満足 ○○○は、自分の生活を豊かにしたり、気持ちの喜びをもたらしていると思う
推奨度 積極的推奨 ○○○を、家族や友人・知人に薦めたり、好ましい経験として伝えたいと思う
消極的推奨 ○○○について、人からどうかと尋ねられたら、好ましい経験として伝えたいと思う
利用意向度 再利用意向 ○○○を利用したいと思う
継続利用意向 ○○○を利用し続けたいと思う
参加度 意図的参加 ○○○に自分の意見や情報を提供したり、活動に参加したいと思う
無意識参加 ○○○であれば、自分の情報が活用されても構わないと思う
信託度 信用 ○○○は、信用できると感じている
信託 ○○○は、自分にとって好ましい未来を実現してくれそうだと思う

図7-3 カスタマートラスト調査設問内容

 

[カスタマートラスト調査サンプル数]

・アクサ損保:378

・アメリカンホーム:129

・イーデザイン損保:170

・セゾン自動車:540

・ソニー損保:526

・そんぽ24:187

・チューリッヒ:418

・三井ダイレクト:625

 

[CXサーベイ結果]

調査結果は図7-4の通りとなりました。

 

カスタマー・エンゲージメント・スコア
総合ランキング
スコア(X+Y)/2 X:顧客体験スコア Y:顧客信託スコア
1位 ソニー損保 61.82 64.20 59.44
2位 アクサ損保 56.84 51.05 62.63
3位 三井ダイレクト 56.63 55.83 57.43
4位 セゾン自動車 50.23 51.64 48.82
5位 そんぽ24 46.35 60.02 32.67
6位 チューリッヒ保険 46.05 40.28 51.81
7位 アメリカンホーム 42.4 39.09 45.72
8位 イーデザイン損保 39.68 37.89 41.47

図7-4 調査結果

 

オムニチャネルCXスコアは、今回の調査では、スマートフォンサイトやWebサイトと電話対応の2つのチャネルを対象としていますが、ソーシャルメディアの活用やコミュニティ機能の取組みが、スコアに反映される結果となりました。

一方で電話対応は、アクサ損保、そんぽ24以外の各社は概ね事務的な電話対応であり、2社の対応の良さが際立つ印象の調査結果となりました。各社とも、コミュニケーションスキル以前の基本的なマナーやエチケットの観点からの底上げが求められる結果となりました。

 

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図7-5 カスタマートラストスコア

 

また、トラストスコアは、全体的に<再利用><継続利用><信用>のスコアが高く、それらの回答の相関性が非常に高いことから、「契約した会社を信用し、再利用・継続利用したいと考える」顧客の多い業界であると言えます(図7-5)。

また他の項目では、<機能的満足><消極的推奨><信託>の評価がある程度高く、それらの項目は<情緒的満足><積極的推奨>とも相関性が高いことから、「商品内容やサービスのイメージに満足しており、その契約が自分の未来を助けてくれる存在だと認識し、人に推奨したいと考える」顧客も一定数いることが判明しています。

 

調査結果と売上との相関分析

最後に、これら調査結果と売上との相関分析を実施していますが、本調査を通して、両者の相関性は高い結果となりました。

「オムニチャネルCXスコア」を縦軸に、「カスタマートラストスコア」を横軸として、8社のマッピングを以下の通り、実施しています(図7-6)。円の大きさは、2014年度の収入保険料を反映(単位:億円)し、バブルチャートとして表現しています。相対的に、両スコアが高いグループは概ね、収入保険料との相関が見られ、特に顧客信託スコアとの相関が高いと言えます。

そんぽ24は、8社の中で、唯一、保険外交員経由での保険商品販売を実施していますが、保険商品の検討や更改手続き等、契約者自身の意思というよりは、外交員任せの姿勢が、保険会社に対する参加意識や他人への推奨意向の低さに繋がる結果になったと考えられます。

今回のカスタマートラストスコアは、カスタマー・エンゲージメントに影響力を与えると定義した10の設問をスコア化し算出していますが、よりエンゲージメントの高い顧客を増やすため、信託度の高い、エリート顧客へのグループインタビューなどの深堀調査を実施し、エンゲージメント強化施策のチャンスを発見する必要性が高いと考えています。

 

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図7-6 CXスコア結果マッピング

著者プロフィール

萩谷 衞厚(著者)
株式会社 エンゲージメント・ファースト
日本ユニシス株式会社を経て、2000年、CRM・コールセンターのコンサルティング・ファーム 株式会社 テレフォニー(現 株式会社TREE)に入社。大企業を中心としたコールセンターの構築・運用、顧客戦略立案のプロジェクトに関わる。2015年5月株式会社 エンゲージメント・ファースト入社。CSV関連のコンサルティングや業務支援の他、オムニチャネルでの顧客接点最適化のコンサルティングや顧客体験調査(CXサーベイ)に従事、現在に至る。