マナティ

UX × Biz Book

第2回 顧客エンゲージメントとUX

UXおよびUXデザインのビジネス価値を読み解く『UX × Biz Book ~顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン』。デジタル・マーケティングから顧客との関係構築、ブランディング、実装まで、それぞれ現場で活躍する執筆陣が、多面的・複合的な視点、切り口で分かりやすく解説しています。この連載では各章の読みどころを掲載していきます。第2回目は顧客エンゲージメントの重要性を解説するChapter2(執筆:原 裕)から、「2-3 顧客エンゲージメントとUX」を紹介します。

顧客体験と推奨・参加

顧客エンゲージメントを高めることと、UXとはどのような関係があるのでしょうか?

我々が考えるエンゲージメント・モデルでは、顧客の満足度が高まりロイヤリティ顧客になった後に「知人への推奨」「企業、ブランドの活動への参加」が継続的に起こり、「信託」につながっていく過程が重要な因子だと考えます。

では、顧客はなぜ企業やブランドのことを推奨したり、その活動に参加したり、同じような商品を持つブランドや企業ではなく、そのブランドや企業に信託をするのでしょうか?

 

我々の仮説では、多くの場合は、その商品やブランドが引き起こした「顧客体験」に共感が起きた場合に、口コミという推奨、共感が生じています。単なるスペックや値段では人は知人に推奨はしないということでしょう。

メンバーズでは多くの企業のソーシャルメディア運用を支援しており、関連ワードのソーシャルリスニング(ツールを活用し、ソーシャル上でそのブランドや企業がどのように口コミされているかを把握すること)も行っていますが、多くの場合はその製品、お店、WEBなどでの使い勝手やそのブランドが巻き起こした体験談がほとんどです。

これは勿論いいことばかりでなく、期待はずれの体験をした場合にはブランド名指しでクレームをソーシャル上に投稿されています。実際にソーシャルを使って、あえて口コミをする人は4%から10%くらい(Innovator層とEarly adopter層だとは思いますが、いずれにしても多くの声の代弁と捕らえることはできます。

マーケティングの巨匠の一人、セオドア・レビットの言葉を借りれば、「顧客はドリルではなく穴を求めている」のであって、その穴がきれいにあけられたり、簡単にあけることができたりした場合に語るべき顧客体験とその体験をもたらした商品が語られるものだと考えます。

 

優れた顧客体験とは

優れた顧客体験とはどんなことでしょうか? 次に挙げるのは私自身が体験したり、ネットに流れてきた情報にいいなと感じ、実際にシェアをしたものです。

 

・ 友人からプレゼントしてもらったヘッドフォンbeatsのパッケージは、それまでのパッケージと比べこれから始まる製品と顧客の出会いとその期待を演出している素晴らしいパッケージになっていた。

 

・ Apple Storeは商品を売ることよりも顧客の悩みをフレンドリーに解決することを重点にしており、スタッフの対応は素晴らしい体験になっている。また、商品を購入する際にアプリで精算でき、キャッシャー(実際にキャッシャーは顧客の目に留まるところにはないが)に並ぶ必要がなかった。これには本当に新しい購買体験だった(図2-1)。


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図2-1  Apple Storeではアプリで精算できる

 

・ ANAマイレージが一マイルから熊本の震災に寄付できる仕組みが震災後すぐにリリースされ、共感し、余っているマイレージを寄付した。

http://www.ana.co.jp/domestic/promotion/miyakojima-info/

 

・ フランスの健康器具メーカーWithings社(最近Nokiaが買収)の体重計。従来の体重計とはまったく異なったクールなデザインとWifiでデータ連携するアプリのスマートさ! このアプリは他の運動用品メーカーや健康アプリとも連動し、体重管理が楽しくなり、毎日体重を量っている(図2-2)。

 

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図2-2 フランスの健康器具メーカーWithings社の体重計

 

・ LCCのヴァニラエアの客室乗務員竹内さんの機内アナウンスが評判で、乗った人がどんどん動画を撮ってシェアしている(これはFacebookでシェアされたフィードを見て共感、私もシェアした)(図2-3)。

 

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図2-3 ヴァニラエア客室乗務員竹内さんの機内アナウンス

 

・ 財布をなくした際にクレジットカード会社数社に連絡をするために、スマートフォンで検索、Web to Phoneで連絡をしたが、スムースに連絡ができて「ご安心ください」と言われてほっとしたところと、電話にたどり着いて話すまでにすごく時間がかかったところとの大きな差。

 

・ Amazonで朝注文したら、夕方に商品が来ていた。

 

・ 家族で行ったお寿司屋さんで緊張している娘にやさしく話をしてくれた板前さん。無論、そのお寿司もとてもおいしかったが。

 

・ 行きつけのスターバックスにいたスタッフが別のスターバックスに異動し、偶然そのお店に行った際に声をかけてくれた。

 

・ スターバックスが毎年実施しているハミングバードプログラムという東北震災支援プログラムに自分も参加し、ささやかだけど寄付できた(図2-4)。

 

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図2-4 スターバックスのハミングバードプログラム

 

これらは商品やサービスそのもののすばらしさが前提にはあるのですが、その商品やサービスを使っている状況を更によくする顧客体験を提供してくれました。これにより、より一層その商品へのロイヤリティが高まったことはいうまでもありません。一方、クレジットカードの例で十分な顧客体験ができなかったカードは、その後退会してしまいました。

私自身が所属していたアメリカン・エキスプレス・カード保有者の満足度は、カードを紛失した会員ほど満足度が高いという数字がありました。これはアメリカン・エキスプレスのカードの再発行が世界中どこにいても、ともかく早く、また、電話時に困ったことを伝えればできる限りの対応はしてくれるという顧客対応がしっかりとしていたからです。カードを無くしたときの不安を解消してくれるという、すばらしい顧客体験を提供できていたからだと思います。

著者プロフィール

原 裕(著者)
株式会社メンバーズ 執行役員 株式会社エンゲージメント・ファースト CEO
1999年より株式会社メンバーズで執行役員を担当。大手企業のデジタル・マーケティング支援を行う。2011年に株式会社エンゲージメント・ファーストを設立、CEOに就任。カード事業、ネットビジネス支援を通じてダイレクト・マーケティングを進化させ、企業と顧客と地球のエンゲージメント強化をテーマにマーケティングを実践。