車も人も「見える化」して生産性を上げる|MacFan

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車も人も「見える化」して生産性を上げる

文●牧野武文

GPSなどを利用して車両の位置を把握し、管理者から車両に指示が出せるのが「フリートシステム」だ。ソフトバンクテレコムが開発した「ホワイトクラウド スマートフリート」はiPhoneとクラウドを利用することで、従来の単なる車両管理システムに留まらない、新たな可能性を提示している。

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各車両の位置は、リアルタイムで地図上に表示される。アイコンには写真を設定することができ、枠線の色で「配送中」「帰社中」「休憩中」などの状況を表示することもできる(状況はカスタマイズ可能)。ある地点を検索すると、そこから最寄りにいる車両、要員を検索でき、なおかつ走行ルートも表示できる。


 

リアルタイムで車両追跡



iPhoneやiPadなどのiOSデバイスがビジネスの現場へ浸透するにつれ、ビジネスソリューションの在り方は、ローカルからクラウドへと急速にシフトしてきた。しかし、「クラウド」というキーワードが先走りすぎて、ただ「クラウド対応」に対応しただけのものが散見されることも否定できない。
クラウドでしかできない新たな価値がなければ、「クラウドソリューション」と呼ぶには値しない。そうした意味において、ソフトバンクテレコムの「ホワイトクラウド スマートフリート」(以下、スマートフリート)は、(ジャンルとしては従来からあるフリートシステムだが)クラウドとiOSデバイスのよさを最大限に引き出した新世代ソリューションといえる。
スマートフリートの「フリート」とは「艦隊」のことを指す。そこから転じて、企業が利用する営業車、配送車などもフリートと呼ばれる。スマートフリートは、iPhoneのGPS機能を利用して、このような営業車や配送車などを管理するシステムだ。運転手に手渡したiPhoneの位置情報が自動的にクラウドへ送信され、管理者は各車両の現在位置をWEBブラウザ上の地図で特定できる。今どこを走っているか、正しい道を通っているか、サボっていないか…、車両の軌跡、業務ステータス、滞在時間、走行距離など、各車両の状態をリアルタイムで把握できるのだ。
また、管理者側から各車両に対して、さまざまな指示を出すことも可能だ。これは、タクシーの配車システムや宅配便の管理システムを想像するとわかりやすい。例えば、東京駅にいる客から迎車の電話が入ったら東京駅を地図上で検索、さらに「東京駅からもっとも近い距離にいる空車」を自動で検索し、「東京駅に迎車」という指示を運転手に送ることができる。
運転手の立場に立つと「管理されて大変…」と思うかもしれないが、それは一側面しか見えていない証拠だ。例えば、配送車の場合、配送ルートに従って管理者から的確な指示を受けられれば効率的に荷物のピックアップが行え、生産性を向上できる。「数時間前に立ち寄った付近へ、また戻らなければならないの?」といった非効率さから解放されるわけだ。
 

現場に合わせて柔軟に運用



携帯アプリなどを利用した類似のフリートシステムは以前から存在していた。だが、スマートフリートの最大の特徴は、iOSというプラットフォームの特性を活かし、業務内容に合わせてカスタマイズが可能な点にある。
そのよい例が、作業管理機能だ。運転手は専用アプリを起動することで、「次の作業は何時にどこか」といった管理者側からの情報を得たり、「作業を完了したか未着手か」「どのような問題が発生したか」などといった情報を入力することができる。
スマートフリートでは、こうした作業依頼&報告レポートのテンプレートを、管理者側がWEBブラウザ上で業務内容に合わせてメニューやボタンを配置していくことで手軽に作成できる。そこには、「写真」や「署名」といったメニューも用意されており、写真をタップするとカメラが起動し撮影ができ、その写真が報告書に添付される。署名をタップすると画面が白くなり、指でサインをしてもらうことができる。作業員が車で現場に急行し、現状を撮影・修理、修理後を撮影、顧客に確認のサインをもらうというようなメンテナンスサービスに特に有効なメニューだ。このように業務内容に合わせて自由に管理者側で専用アプリの内容を変更できるのが魅力だ。
さらに、スマートフリートは専用アプリのAPIを公開しており、ほかのiOSソリューションと連動させることもできる。もしカード決済システムと連動させれば、現場でクレジットカードや電子マネーでの決済も可能になるなど、フリートシステムと組み合わせた強力なソリューションが誕生する。
 

クラウドのメリットは?



では、スマートフリートのクラウドならではの機能とはなんだろうか。
それは、分析機能だ。車両の走行軌跡は自動的に記録されるが、走行軌跡が地図上に単に表示されるだけでなく、例えば車両に荷物が満載されているか、何キロ走行したのか、作業地への往路なのか帰路なのかなどを色分けして地図上に表示される。そして、多数の車両の運行状況を地図上に同時にマッピングしたり、データとして書き出してみると思わぬ発見がある。「車両Aと車両Bは時間帯が重複しているが、ほぼ同一のルートなので1台で作業可能ではないか?」など、車両の利用の無駄や効率的な配置を検討できるのだ。
従来のフリートシステムでも似たようなことは可能だったが、そのためには各要員が「作業開始」「昼食のため休憩中」「作業終了」などをいちいち入力する必要があった。中には入力忘れ、入力ミスなどもあり、正確な分析をするのは現実的には難しい。しかし、スマートフリートならば作業の報告書作成以外は、運転手は原則的に「ただiPhoneを持っているだけ」でいいのだ。走行経路や拠点立ち寄りなどは自動的に判別され、クラウドに情報が送信される。
スマートフリートを導入した企業の興味深い実例がある。この企業は、酒類を買いつけて販売店に卸す仕事をしているのだが、買いつけ量や場所、時間帯が一定しないので自社で配送フリートは保有せず、毎回、配送業者に配送委託していた。そこで、スマートフリートを導入したところ、配送効率の分析が可能となった。これまで委託業者任せだったが、状況に合わせて適切な業者を選べるようになり、配送コストや配送時間とも大いに改善されたという。
「見えなかった業務の見える化というところに注目していただいています。クラウドのようなIT技術を使って、業務内容を改善したいという問題意識の高い企業からの問い合わせが増えています」(ソフトバンクテレコム株式会社クラウドサービス開発本部 田中清生室長代行)
スマートフリートは、1年半前に「車両管理システム」として開発が始まった。「お客様のご要望に応えているうちに、どんどんいろいろな機能が付け加わっていきました」というように、現在は車両だけでなく、営業職が外回りをする際にも使えるシステムになっている。スマートフリートは「業務管理システム」ではなく、「業務分析ツール」というジャンルに分類されるべきだ。今後も、この分析機能はどんどんバージョンアップされていく。このあたりも、クラウドシステムのメリットといえよう。

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運転手は専用アプリ上で、さまざまな情報を入力できる(左)。ここで設定した業務ステータスなどが管理者側の地図上に表示される(右)。

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管理者側から運転手にメッセージを送信することも可能だ。

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運転手は専用アプリから作業報告書を作成できる。こうした報告書のテンプレートは管理者側が自由にWEBブラウザ上で作成可能だ。


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管理者は、各要員に作業を割り振ることができる。管理者は作業の一覧表示を見ることができ、進捗状況も確認できる。各要員のiPhone側では、自分の作業が一覧表示される。

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スマートフリートのもっとも突出した機能がこれ。地図上に走行軌跡を、状況を色分けして表示できる。各種データはCSV形式で書き出すことができるので、表と地図からさまざまな車両利用効率を分析できる。不要な車両の発見や、より効率的な運用が可能になる。

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ソフトバンクテレコム株式会社クラウドサービス開発本部・ビジネス推進室担当部長の濱田幸典(はまだ・ゆきのり)氏(左)と、サービス推進統括部・ロケーションサービス室・室長代行の田中清生(たなか・すみお)氏(右)。「訪問メンテナンスサービスや宅配サービスはスマートフリート導入に適した市場であると考えています。カード決済やPOSシステムなど、さまざまなiOS用ソリューションと組み合わせることで、車両管理のコスト削減だけでなく、サービスの質をさらに高めることができるからです」

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スマートフリートには、さまざまな機能が備わっている。業務によっては不要な機能もあるので、基本機能+オプション機能という構成から、必要なものだけを選べる。基本機能(現在地把握/メッセージング/業務ステータス)は月額525円/台で、オプション機能は月額158円/台~という低価格設定だ(別途1台当たりの初期手数料2100円と、管理者1IDあたり月額2625円が必要)。

『Mac Fan』2013年5月号掲載