アスピリンが必要な夜


 

水着を広げたら

去年の砂がこぼれ落ちた

 

骨を砕いたような白い砂は

鋭角に光を滞留させ、

南洋から、こぼれた時間のように見える

何か、取り返しのつかないものに。

 

 

もう、声は聞こえない

 

そうだった。

夜中に何かを考えるのは、君の悪い癖だ

後ろ姿がひるがえる旗のように遠ざかっていく

 

昔、観た映画のように。

 

だが、なぜ昔観た映画なのか

なんで、遠いのに鮮やかな記憶のなかの一シーンが甦るのか

そんなふうに記憶が呼び出されるのなら

私は記憶で出来ているのだろうか

あるいは、私の記憶が私を形作っているようなものなのか

私が記憶で出来ているとしたら、

その記憶は私が死ぬとともに消えるのだろうか

砂の城が波にさらわれるように

 

そう、君は夜中にものを考えすぎるのだ

 

 

私も誰かにそう言った

たしか、そうだったと思う

こんな夜には、アスピリンが必要だ

 

もう、声は聞こえない

 

今、七通のメールを消去した

 

 

2014.6.23

 

カテゴリ: 誰でも明日のことは考える(城戸朱理)
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