地図は昔

ある椰子の木が中心点

緑が枯れることはなく

獣の足跡を記して注意を喚起し

人の気配はとても稀薄で

確かな物理に支配されていた

地図は水色

遠くまでよく見えるように

可視光線は研究され

土地の高低は整備され

その間もひたひたと人は増え

あっというまに改訂は百万版

水路を埋めたてた路地は直線

直線の斜めうえを高速のカーブがよぎり

人の臭いが濃く占めて鳥や獣の役にはたたぬ

地図は夜

さっぱりした髪型の男の子が自転車に乗り

耳元で音楽を鳴らしながら椰子の木をさがして家出

高速道路を見あげてにやりと笑った（これからがお楽しみ）

地図は平日

巨大な交差点の角でファミリーマートの流れ星が光り

空き店舗の跡地を白い塀がたかだかと覆った

地図は休戦中

拡大すればカレー屋のシェフ姿の大きな溜め息が見える

裏表紙には「国籍は問いません」と書いてある

少しずつ上がり続けている水位は修正されない

地図は耐水

日没の赤を弾く環境に優しいインクが一面の蒼茫を緻密に描き

白い塀の向こう服道楽の女の子の亡霊が交差点を見渡すカウンターに座って

誰かの裸みたいに優しく

デラックスとかじゃない普通の肉まんを両手に抱いている

 

 

2014.4.22