聞く係りになるのが好き
聞く係りは噓をつかなくてすむ
聞く係りは言葉がへたでもできる
一生 聞く係りがいいのにと思う
でもずっと彼女に喋らせておくわけにはいかない
彼女だって聞く係りになるのがとても好きだから
あなただって何か喋ることを考えてみなくちゃいけない
外はすごい嵐で太い木の枝が何本も折れる音がしている
弱い明かりのなかにあなたのやつれた顔がある
六歳くらいにも見えるし四〇を過ぎたようにも見える
あなただって何か喋ることを考えてみなくちゃいけない
私は島の女の子の話をした
台風で島から出られなくなった女の子の話だ
台風がなかなか島を去っていかないので女の子は気がついた
何か強い力が自分を島に引き留めようとしているのだ
「で、それってなんのちからなの?」
「よくわからないけどたぶん母なるナントカのちから」
一生 聞く係りがいいのにと思う
むかしおじいさんがしてくれた幌馬車のはなし
むかしおばあさんがしてくれた桜貝のはなし
いつか係りが交代するなんて思ってもみなかった
彼女の声を聞くために
私は口をひらく
2014.4.1