【新刊】『Webサイト設計のためのデザイン&プランニング~ドキュメントコミュニケーションの教科書~』(2)著者まえがき


5月末刊行の『Webサイト設計のためのデザイン&プランニング~ドキュメントコミュニケーションの教科書~』

今回は著者であるDan M. Brown氏のまえがきを掲載します。

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本書は一言で言うと、ドキュメント作成についての本です。面白くなさそう……ですよね?
プロジェクトを遂行する中で作られるドキュメントの類は、いろいろな形でWeb デザインの弱点となります。紙に印刷されたドキュメントはたいてい、誰にも読んでもらえないまま棚の上かどこかに放置されるのが関の山。なんと素敵なことでしょう!
しかし、Web サイトのデザインに関わったことのある人なら、ドキュメントがプロジェクトの成否を分けることを、そしてコンセプトをまとめてプロセスを前へ進め、チームメンバー同士のコミュニケーションを支えるものであることを誰もが知っているはずです。Web デザインの過程で作られるドキュメント、別名“ 成果物” は、先の見えないプロセスが確実に前進していることを示すマイルストーンの役割も果たします。ドキュメントがあれば経緯も見えるようになりますから、プロジェクトの前半に下された決断を、途中からプロジェクトに参加することになったメンバーへ伝える役割も担ってくれます。
ドキュメントは、簡単に言うならアイデアを“ 見える化” したものです。Web デザイン業界にとってこれは少し実存主義が過ぎるかもしれませんが、アイデアを効率よく共有する方法がなければ、Web サイトを作るなんてことはそもそも不可能ではありませんか?
本書は、ドキュメント作成の改善にきっと役立ちます。
ドキュメント作りの計画の仕方、完成したドキュメントの効果的な活用方法などをお教えしましょう。そして同時に、どうすれば質の高いドキュメントを作れるのかを紐解き、悪しきドキュメントと悪しきアイデアの違いを見分ける術を伝授したいと考えています。

 

本書はあなたのお役に立つでしょうか?

Web デザインの過程でドキュメントを作る立場の人、それを使う立場の人、あるいはそれを承認する立場の人などを読者として想定しています。

ドキュメントを作る人:新たにWeb デザインの世界へ足を踏み入れた人も、長年これを仕事にしてきたという人も、成果物を作る立場にいる人が本書を活用すれば、自らの努力が間違いのないものであることを確認できるようになります。成果物作りを計画したり、出来あがったものを披露したりするときのテクニックの数々をご紹介します。ワイヤーフレーム作りから少し離れていたという人は、コツを思い出すのに使ってください。

ドキュメントを使う人:サイトマップを作るのはあなたの仕事ではないかもしれませんが、今後の数日、あるいは数週間、はたまた数ヶ月をかけて、現行サイトから新しい構造へのコンテンツの引越を成し遂げるべくサイトマップと睨めっこをする立場にあるかもしれません。あるいは、ワイヤーフレームどおりにWeb サイトが動くようコードを書かなければならないデベロッパーかもしれません。サイトの再構築を社内で売り込むのがあなたの担当なら、ペルソナを活用するにあたり、それが非の打ち所のない完璧な仕上がりになっていることを確かめておきたいと思うことでしょう。本書を読めば、あなたがどんな成果物を受け取ることになるのかが見えてきます。ユーザーエクスペリエンスデザイナーと話をするための心構えにも役立つでしょう。
ドキュメントを承認する人:予算を考える立場にいるとしたら、抜かりなくプロジェクトが進んでいることを確認したいはずです。お金を握っているクライアントや主要なステークホルダーは、ドキュメントの出来がとても気になります。プロジェクトを先へ進めるために、金額に見合う成果があがっているかどうかを判断するために、デザインチームの面々に正直でい続けてもらうために、ドキュメントは必要不可欠なものです。本書があれば、チームから上がってくる成果物に何を期待すべきなのかが分かるようになるでしょう。

 

「でも、成果物は使わないなぁ……」

本当ですか? メールを書くこともなければ、ホワイトボードにちょっとスケッチをすることもない? スケッチを誰かに見てもらってフィードバックをもらうことは? 想定されるすべてのステップを完璧に網羅できているかどうかを確かめるために、描画アプリを使ってフローチャートを描いてみたことが一度もないですか?
最終製品に直結しないものを作ることを敢えて避ける手法というのが存在するのは確かです。その手法を好んで使う人たちは、少なくともそうすべきだと考えています。
しかしどんなデザイン手法も、線を引いたり、絵を描いたり、説明をしたり、モデル化たりといった作業を伴います。どんなデザインプロセスも、解決すべき課題に取り組むための手段として、最終製品がどんなものになるかを絵や図を駆使して表現することの価値を認識しています。良きデザイナーなら誰しも、課題を心に描き、どんな要件や制約のもとで、どこまでやれそうかを把握するための時間をとるはずです。
かしこまった、数ページにもおよぶ成果物を作ることはないとしても、込み入ったアイデアを図示し、取り組むべき課題を明確にし、それにどのようなアプローチで取りかかろうとしているのかを語る必要はあるはずです。本書で紹介するダイアグラムや成果物は、まさにそれを助けてくれるものです。ほんの15分、ホワイトボードの前に立って済ませることも、もっと時間をかけてじっくり取り組むことも可能です。本書では、どんなときに、どのくらいの時間と労力を割くべきについても検討していこうと思います。

 

本書の中身

すべての成果物を網羅するわけではありません。本書では、Web デザインの過程でよく作られるダイアグラム5個と、この業界で仕事をする以上、多少なりとも時間を費やして作らざるを得ない成果物をいくつか取り上げます。すべてユーザーエクスペリエンスに関係する成果物です。UML などについてのアドバイスをご希望の方は、別の書籍をお求めください。ユーザーエクスペリエンスに関係するドキュメントは他にもたくさんありますが、あまり使われていなかったり、商標登録されていたり、他で十二分に語られたりしているものは省きました。どの手法を使うかには関係しません。新しい手法が現れては消えていきますが、ドキュメントは比較的一貫性を保っています。どんな手法でWeb デザインをする場合にも参考になる内容を目指しました。ただし、ドキュメントを作るタイミングやドキュメント相互の関係をまったく考えずにドキュメントを作ることは難しいため、手法についてはいくつかの前提を想定しています。その前提をもとに本書を構成していきますが、別の手法をとるからといって本書の内容が使い物にならないというようなことはありません。
ハウツー本ではありますが、ソフトウェアの本ではありません。本書を読めば、質の高い成果物を作れるようになります。クライアントやチームメンバーに成果物を披露するときのコツもお伝えします。成果物を作ったり、共有したりするときに注意すべき点にも言及します。しかし、成果物の作成に使うアプリケーションの使い方には触れません。どのツールを使うかは好みの分かれるところですが、どのツールを選んでも、ドキュメントに盛り込むメッセージやドキュメントの目的は変わらないはずです。
これは料理本です。ドキュメントという名のお料理のレシピをご案内します。どうすればそのお料理が美味しくなって、何がそれを不味くするのかを確認してください。余白にはどうぞ自由にメモを取ってください。こちらのドキュメントで紹介されたテクニックが、あちらのドキュメントにも使えそうだと思われることもあるでしょう。各章が自己完結するようにしてありますが、関連づけられそうなところは是非、関連づけて参考にしてください。

 

絵と文字、文字と絵
ドキュメントコミュニケーションは、文字と絵を駆使して会話を作り上げていくことに他なりません。そうして、ビジョンを練り、ユーザーエクスペリエンスを伝え、プロジェクトという文脈の中での意義を維持していきます。Webデザイナーは、日々新たな課題に直面しています(あるいは、驚くくらいに違う文脈で似たような課題に取り組むこともあります)。そして、文字と絵を駆使して課題と対峙し、捻り出した解決策を伝えます。新たなインタラクションスタイルを描写したり、ホームページに配置されるコンテンツの種類を説明したり、ユーザー調査の結果を要約して伝えたり、込み入ったナビゲーション構造を吟味したり、為すべきことは様々ですが、いずれにしてもペンを取り、絵を描き、文字を書くしかありません。本書を読めば、どうやってそれを為すべきかが必ずや見えてくることでしょう。

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