何年か前に北海道旭川市の近くにある上川郡東川町のイベントを取材したことがあります。自ら「写真の町」と謳っているだけあって、とにかく写真に関連した催し物が多い所で、中でも夏に開催される「東川町国際写真フェスティバル」は、「写真の町東川賞授賞式」をはじめとして、さまざまな展示やフォーラムが行われる一大イベントです。写真コンテストのようなものは各地で盛んに開催されていますが、大半が一過性のもので継続性はほとんどありません。しかし、東川町のイベントは違います。第1回の開催はなんと1985年。今年で27回目を迎えたこのイベントは、北海道における写真文化に大きく貢献してきました。ネーミングに「国際」と入っているのも伊達ではなく、海外の写真家を評価して賞を贈るなど国際交流も盛んです。
また、ほぼ同じ時期に「写真甲子園」という高校生を対象にした大会もこの町を中心に開催されます。周囲の自治体や文部科学省、カメラメーカーが協賛/協力して開催されるこの大会は、全国8ブロックから選ばれた学校同士が現地で撮影した写真で戦うというもので、立木義浩氏をはじめとしたそうそうたるメンバーが審査員を務め、出場している生徒たちに厳しい評価やアドバイスを下します。野球の甲子園大会と同様に最後まで勝ち残った高校が優勝を手にするという趣向で、文化的なテーマとは言え、悔し涙ありうれし涙ありのたいへん面白いイベントです。
この2つのイベントには、役場の職員だけでなく、住民の方が総出と言っていい規模で全面的に協力しています。会場の運営だけでなく、写真甲子園では自分たちが被写体になって協力することもあり、地域全体で本気で取り組んでいることがわかります。ここが他の自治体が主催する写真関連のイベントとは大きく異なるところでしょう。
さて、この東川町の新しい企画として「RICOH ポートフォリオオーディション」というイベントがあります。「写真アーティストの才能発掘と写真文化の高揚を目的とした写真公開オーディション」と言う主旨のもと、審査員の飯沢耕太郎氏と鷹野隆大氏が応募者に対して直接レビューするとともにその様子を一般の参加者が見学できるという内容のものです。多くの人たちが交流することによって写真文化に貢献していくという狙いがあり、優秀者には銀座「RICOH RING CUBE」の個展開催の権利が与えられます。2011年に開催された第1回には59名が参加し、その中から最優秀賞として選ばれたのが「雪と都市の関わり」を写真で表現した札幌在住の山本顕史氏の作品です。私はご本人にお会いしたことがないのですが、北海道在住の知人から「11月末に開催される個展の写真家さんは私の知り合いなんです。とても素晴らしい方ですよ」という連絡があり、多いに興味を引かれました。
どんな作品が展示されるんだろうねと知人に話していたところ、山本氏から展示予定の作品をいくつかお借りして送ってくれました。被写体となる地域に密着して、相当の時間をかけて作品を仕上げていく写真家さんが多いのですが、氏の作品はまさに北海道という自然豊かな大地で生きている方でなくては撮れない素晴らしいものです。そして、このような新たな才能が発掘されたのは、東川町をベースにした今回の企画があったからではないでしょうか。
写真の本当の魅力と迫力は、デジタル機器上で見るだけではなかな伝わらないものです。読者の皆さまにはぜひ山本氏の作品を直接展示会場で見ていただければと思います。個展は11月30日(水)からリコーフォトギャラリーRING CUBEで開催され、初日には審査員の飯沢耕太郎氏と鷹野隆大氏を迎え、山本氏とのトークショーセッションも予定されています。
日時:11月30日(水)18:00~19:30 *12月11日まで開催
場所:RING CUBE 9階ワークショップスペース
東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター(受付9階)
入場無料
—山本氏から開催についてのメッセージ—
「人口200万近い都市で、平均降雪量が6m近くになる札幌は世界でも稀です。雪は時に人々の悩みの種になりますが、圧倒的かつ美しい姿で生活に寄り添います。街と雪の関わりを通して、冬の都市にしか存在しない美意識を探ります。北から吹いてくる風の呼吸、街灯が照らす粉雪。「こんこん」や「しんしん」など、聴覚では聞こえない擬音。深夜の巨大な除雪車が何十台も連なり削り取っていく道路沿いの排雪の断面。カチカチの断面に見える雪層は数日で汚れ、溶け、なくなります。雪がつくる幻のような、もうひとつの都市の表情をあきらかにしようと思います。」