(48手目△6一歩まで)
ここは矢内女王は形勢が悪いと見ていたようです。感想戦ではこの手に替えて△5二金も出ていましたが、やはり苦しそうでした。本譜△6一歩もしかたがないとはいえ、非常に指しづらい手ですよね。この△6一歩の辛抱、忍耐。これを大勝負で打てるというところに、矢内女王の強さがあると思います。
(103手目▲5四歩まで)
岩根女流二段の▲5四歩は後手が角を成りたいところに打つので、ひとめ打ちづらいのですが、本譜は▲4六桂~▲5四歩と拠点を築いて、好手順になっています。岩根さんはもともと筋の良い将棋なので、秒読みになったことでかえって考えすぎることなく、直感で指せたのがいい方向に出ました。この後、▲2四歩~▲1三桂成も筋の良い寄せです。矢内女王は、手厚いように見えて意外と自玉が狭かったのが誤算だったようです。
(122手目△3二同銀まで)
ここで本譜は▲2二竜でしたが、▲2三金なら詰んでいました((1)△同銀には▲2二竜、(2)△同馬なら▲同成香△同銀▲2二角△4二玉▲3一角成△5二玉▲4一馬△6一玉▲4二馬まで)。▲2三金△同銀のあとの▲2二竜というのが両対局者見えていなかったようです。矢内さんが気づいていたら、岩根さんにも空気が伝わって気づいていたでしょうし、あの局面だけを二人とも見せられたら一瞬で詰ましたでしょう。その詰み筋がお二人とも盲点に入っていたのは、秒読みが長く続いていたタイトル戦独特の雰囲気がそうさせたのだと思います。そういうことが起こりうる、ということが、対局者にしかわからない将棋の怖さと深さです。それが良く表れた局面だったのではないかと思います。
(感想戦の感想、ネット解説の感想)
感想戦をじっくり見て感じましたが、控え室はどうしても気楽に、わかりやすい検討で、即断してしまう傾向があります。ですが、対局者だからこそ実戦的に気になる変化というのがよく聞けたことで、対局者は細かい変化も本当によく読んでいるということがよくわかりました。将棋の奥深さ、怖さを感じたと同時に、両対局者の個性をもその読み筋から垣間見ることができた充実した一日でした。
リアルタイムで行うネット解説も初めてだったのですが、本当にあっという間でした。棋譜には表れない両対局者の心理面を伝えたい、と思っていましたので、それを少しでもファンの皆様に感じていただけましたならうれしいです。
(聞き手 早水千紗女流二段)