『師匠の言葉』 藤井聡太 四段昇段の記~将棋世界2016年11月号より|将棋情報局

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『師匠の言葉』 藤井聡太 四段昇段の記~将棋世界2016年11月号より

将棋世界バックナンバーから厳選した記事を掲載する当コーナー。第13回は藤井聡太六段の四段昇段記をお送りします。

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『師匠の言葉』

 正直、負けないと思っていた。

 平成27年8月第一例会、ぼくは編入試験者の城間春樹さんと当たった。相手の先手で、変則的な矢倉戦。中盤の早い段階で双方持ち時間を使いきって、その後は延々と一分将棋が続いた。迫りくる秒読みの音、慌てた様子で着手する城間さん。一方ぼくは、57秒のあたりでそれなりに余裕をもって着手していた。傍目からはぼくが勝っているようにも見えただろう。だが、二転三転の末、最後に間違えたのはぼくだった。対局開始から4時間半、ぼくの玉は敵陣の一段目で詰まされていた。

 3月に二段に上がったとき、師匠からは「10月の三段リーグまでに上がるように」と激励していただいた。そして実際ぼくは、6月からほぼ負けなしの8勝1敗、昇段はもうすぐそこというところまできていた。そんな状況で迎えたのが前述の一戦だ。結局その日は連敗。三段に上がったのはリーグ開始にぎりぎり間に合わない10月18日だった。

 そして今期、初参加だが、実質2期目だと思って、最初から昇段を目指そうと思っていた。しかし、気合を入れて挑んだ初日は1勝1敗。内容も悪く、三段リーグの厳しさを思い知らされた。リーグは長丁場で、序盤に負けが込むと昇段争いに絡むことが難しくなってしまう。そのことを意識しすぎて、少し硬くなっていたのかもしれない。そこで、「勝敗は指し手についてくるもの。対局中は最善手を探すことに集中しよう」と決めた。それがよかったのか、それから星が伸び出した。その後、何度かつまずいたが、最終日は自力で迎えることができた。その数日前、師匠にお会いしたとき、「心配はしていないから」と言われた。師匠はぼくを信じてくれている、その信頼に応えたいと強く思った。1局目は敗れてしまったが、幸い自力の目が残って迎えた大一番。ぼくは師匠の言葉を思い出し、落ち着いて指すことができた。昇段が決まったときは、ほっとした。しかし半年間の遅れを取り戻すつもりで気を引き締めて進んでいきたい。

 最後に、どんなときも温かく見守ってくれた家族、子ども教室の文本先生、奨励会に入る前から面倒を見てくださった稲葉聡さん、師匠の杉本先生。本当にお世話になりました。そして支えてくださったすべての方々。これからも日々精進していきます。ありがとうございました。

~記事内プロフィール~

四段 藤井聡太

平成14年7月19日生まれの14歳。愛知県出身。平成24年9月、杉本昌隆七段門下で奨励会入会。棋士番号307。得意戦法は角換わり。

日本将棋連盟HP内
第59回奨励会三段リーグ戦 2016年4月~2016年9月

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著者

将棋世界編集部(著者)