角交換系振り飛車はなぜ流行しているのか? |序盤完全ガイド 振り飛車の歴史(2)|将棋情報局

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角交換系振り飛車はなぜ流行しているのか? |序盤完全ガイド 振り飛車の歴史(2)

「今、プロの間でどんな戦法が指されているのか?」「なぜ流行しているのか?」「その手の意味は何なのか?」
ネット中継を見ていてもわからないそんな疑問に上野裕和五段が正面から向き合って、初級者でもわかるように徹底して噛み砕いて解説します。

まずは、「なぜ現在ゴキゲン中飛車や石田流が流行しているのか」という問いに答えるため、振り飛車と居飛車の歴史を振り返っていきましょう。

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4、藤井システム包囲網

 さて、居飛車党も黙ってはいません。
 試行錯誤の末、以下の結論に落ち着きます。

「一目散に穴熊に組もうとするとつぶされる。
 始めから急戦を狙っても簡単に攻め切れない。
 じゃあ、この二つを組み合わせればいいんだ」
(ここからは、先手番の藤井システムと後手番の藤井システムを分けて解説します)。
まずは後手番藤井システムから。
キーポイントとなったのは第12図です。
 
【第12図は△4三銀まで】

ここまで、居飛車側は穴熊志向。次に▲7七角から穴熊に組みたいのですが、前述したような順でつぶされる可能性があり、危険です。
そこで、第12図では▲3六歩と突き、攻める姿勢を見せます(第13図)。
 
【第13図は▲3六歩まで】

居飛車側は、最初の段階では穴熊に組むことを考えていました。
しかし、第13図では▲3五歩からの急戦を狙っています。そこで、振り飛車側も居玉に固執せず△6二玉と上がりますが、構わず▲3五歩と仕掛けます(第14図)。
【第14図は▲3五歩まで】

第14図以下、△3六同歩に▲4六銀と出て、3筋が主戦場となります。こうなると、振り飛車の玉が美濃囲いに収まっておらず、苦しい戦いを強いられます。せめて、もう一手△7一玉と指せていたら、大分違うのですが…。
現在、第14図がはっきり後手不利というわけではありません。しかし、ひと目振り飛車側がつらそうであり、実際に勝率も芳しくないので、段々と指されなくなりました。
次に先手番藤井システムです。
居飛車側は今回も「急戦と持久戦を両にらみにする」というスタンスで臨みます。
 
【第15図は△3二金まで】

第15図は、先手が藤井システムを明示。
先手は居玉のまま駒組みを進め、▲2五桂などの攻め筋を狙っています。
工夫を重ねたのは居飛車側。金銀をスキなく固め、いつでも戦いに突入できるよう備えています。
さて、第15図で先手は▲2五桂と仕掛けたいのですが、後手陣も堅く、時期尚早。そこで、いったん▲5六銀と飛車銀の働きを強めてから▲2五桂を狙いたいのですが、今度は△4五歩!(第16図)と居飛車から仕掛けがあります。
 
【第16図は△4五歩まで】

第16図も振り飛車がはっきりと苦しいわけではありませんが、角交換から△8六歩の飛車先突破を狙われ、振り飛車にとって不本意な展開です。

以上、大幅に変化を省略しましたが、先手番と後手番、共に居飛車側に対抗策ができたことで、藤井システムは勢いを失います。そして、ついに藤井自身が藤井システムを封印。一つの時代の終わりを告げます。

5、角交換系振り飛車の流行

今度は振り飛車党が困る番です。
藤井システムの根幹である、「穴熊に組む直前に攻める」という発想が否定された今、天敵の居飛車穴熊にどう戦うか。
手負いの振り飛車党が出した答えは「角交換」
ここで改めて、穴熊について考えます。確かに、穴熊は優秀な囲いですが、欠点のない囲いなどありません。そう、「金銀が玉周辺に密集するため、角交換すると角を打ち込まれる可能性が高い」という欠点がありました。
一つ例を挙げましょう。
 
【第17図は▲7七銀引まで】

第17図は、先手の居飛車側が穴熊に組んだ局面。右銀を7七まで引き付け、囲いの堅さの差で第17図は居飛車の作戦勝ちです。
それでは、試しに第17図からお互いの角を持ち駒にしてみましょう。それが仮想図です。
 
【仮想図】

仮想図では、△3九角や△5七角と打ち、馬を作る順が居飛車側は気になります。
対して、振り飛車側はそのような手を気にせずに戦うことができます。以上、穴熊は角交換する展開のときに欠点が表れる、ということがなんとなくお分かりいただけたかと思います。
そこで、振り飛車党は角交換を一つのキーワードとして、穴熊対策を模索します。そうして浮上したのが第18図の「ゴキゲン中飛車」です。
 
【第18図は△5二飛まで】

ゴキゲン中飛車には、従来の振り飛車の感覚からは考えられない点があります。それは、「角道を止めていない」ことです!
長い間、振り飛車の基本思想は、「まずは角道を止めてじっくりと指す」というものでした。
その理由は第19図にあります。

【第19図は▲2五歩まで】

第19図は従来の四間飛車。今▲2五歩と突いたところで、先手は次に▲2四歩からの一歩交換を狙います。よって、第20図では△3三角と上がり、▲2四歩を受けるのが自然。この形を作るために、角道を止める必要があったのです。なお、第19図で△3三銀では角の働きを銀が邪魔するので悪い形です。
また、先手番では「石田流」(第20図)が流行します。
 
【第20図は▲7八飛まで】

石田流も、角道をすぐに止めず、角交換を念頭に置いた戦法であり、穴熊対策の一面があります。もちろんそれだけではなく、序盤から積極的に戦う姿勢が人気の理由でもあります。そして、先手番ではもう一つ、「先手中飛車」(第21図)が流行します。
 
【第21図は▲6八銀まで】

さらに、突然藤井が連採して流行を始めた「角交換四間飛車」(第22図)。
 
【第22図は△8八角成まで】


以上、居飛車対振り飛車の歴史を解説しました。
振り飛車党と居飛車党による、何十年にもわたるせめぎ合い、いかがでしたか?

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※本記事は、上野裕和五段著「将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編」から一部を転載したものです。

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著者

上野裕和(著者)
1977年4月13日生まれ、神奈川県厚木市出身
1991年6級で安恵照剛八段門
2000年10月1日 四段
2007年4月1日 五段
2009年~2010年 日本将棋連盟理事

将棋の序盤の分類、研究が有名。また子どもの講師を務めるなど、普及にも熱心。