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【web版】 第5期リコー杯女流王座戦挑戦者 伊藤沙恵女流二段インタビュー「個性ある自分の将棋を」

【5/14まで】今、『将棋世界』の定期購読を申し込むと、藤井聡太二冠の複製サイン入りポスターをもれなくプレゼント! 現在、第5期リコー杯女流王座戦五番勝負が進行中です。
ここでは、将棋世界12月号で掲載した、挑戦者の伊藤沙恵女流二段のインタビューのweb版をお届けします。
紙幅の都合で載せられなかった部分も追加しておりますので、是非ご覧ください。

五番勝負の模様はリコー杯女流王座戦中継サイトでご確認ください。

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―― 女流王座戦の挑戦権獲得おめでとうございます。挑戦権を得た、いまの心境をお願いします。
「対局が終わってすぐは実感がわきませんでしたが、家族や関係者からおめでとうと言ってもらえて、『私が挑戦するんだ』と、少しずつ実感がわいてきました。挑戦できてうれしいです」
―― 師匠の屋敷伸之九段には報告されましたか。
「師匠からは、『おめでとう。自信を持って頑張ってください』というメールをすぐにいただきました。目をかけていただいていて、とても感謝しています。ほかにも、いつもお世話になっている荻窪の道場や、子どもスクールの講師の方からもおめでとうと言われました。大学の友だちは私が将棋をやっていることは知っているのですが、なかなか会えていませんね」

将棋との出合い

―― 子どもの頃の話からお伺いします。将棋はいつ、誰から教わったのですか。
「私が幼稚園の年長くらいのとき、まず兄が父から教わり、その兄から教わりました。兄は私より5歳年上で、当時小学4年生くらいです。兄のほうが先に覚えたので全然勝てませんでした。でもそのうち兄と付き添いの母と3人で将棋会館の道場に通うようになり、兄以外の人とも指すようになりました。そこでいろいろな人と指しているうちに、だんだんと強くなっていきましたね」
―― 2004年の第29回小学生名人戦でベスト4になりました。
「あのときはたまたま勝ち上がることができたという印象です。予選で永瀬拓矢さん(現六段)と当たったのですが、永瀬さんにはそれまで、ほとんど勝てていませんでした。当たって『嫌だな』と思った記憶があります(笑)。そのときたまたま勝ててベスト4に進みましたが、小学生の中で私が抜けて強かったという感じでは全然なかったですね」
―― 準決勝では佐々木勇気五段と当たりました。
「佐々木君とは、その大会以外でもいろいろなところで当たっていて、勝ったり負けたりでした。大きな舞台で佐々木君と指せたのはよかったですね。ただし、せっかくの全国大会なので、指す機会が少ない関西の方と指したかったという思いもありましたが(笑)。結果はしっかりと負かされてしまいました」
―― その後、奨励会に入会しました。
「実は、兄も中村太地さん(現六段)が準優勝したときの小学生名人戦でベスト4になっていて、奨励会に入り初段までいきました。当時は兄の背中を追うのが自然な流れだと思っていました。ほかの道は全然思いつかず、奨励会に入ることが目標でしたね。そのためにいろいろな大会に出ていたという感じで、特に小学生名人戦はどれくらい戦えるのか自分の力を試す場だと思っていました」
―― 伊藤さんは屋敷九段門下ですが、どういったご縁があったのでしょうか。
「兄が奨励会に入る前に参加したイベントで屋敷先生に指導していただき、『強いね』といってもらえたようです。それですっかり屋敷先生のファンになり、手紙を出してお願いをし、師匠になっていただきました。私も兄と同様に、師匠になることを快く引き受けてもらえました」
―― 師匠には日頃どんなアドバイスを受けていますか。
「奨励会の下のほうの級のときは、棋譜を見ていただいて、具体的な手のアドバイスをもらっていました。途中からは将棋の指し手よりも、精神的な部分についてのアドバイスをもらうことのほうが多いですね。何か悩み事があったときなど相談させてもらっています」
―― 会ってゆっくり話すようなこともあるのですか。
「それほど多くはないのですが、あるとき、あらかじめ会う約束をして、ご飯を一緒に食べに行ったことがあります。そのときに『もうちょっとしっかりしないとね』というように、優しく諭されたのを覚えています」
―― 指導対局も受けるのでしょうか。
「盤を挟むことは少ないです。奨励会5、6級くらいの頃に、師匠と兄と私と、同門の奨励会員だった吉岡大和さんの4人で研究会をやっていたことがありますが、それは一時的でしたので、数えても10回に届かないぐらいだと思いますね」


伊藤流の将棋観

―― 伊藤さんの将棋についてお聞きします。居飛車の力戦を指しているイメージが強いですが。
「奨励会に入りたての頃はよく四間飛車を指していましたが、居飛車穴熊に組まれると全然勝てませんでした。当時、大流行していた藤井システムも勉強しましたが、全然うまくいかなかったですね。それで、3、4級の頃から兄が指していた居飛車の力戦形をまねするようになりました。それからもうずいぶんと長いこと指していますね。兄も私も、金銀を前に動かしていって、敵の攻撃陣を押し込んでいく将棋が好きです」
―― 力戦形を指すメリットのようなものはあるのでしょうか。
「自分の指している将棋は、ほかに指す人がほとんどいません。相手にとってはほとんど初見です。ですから、似たような形を多く指している自分のほうが力を出しやすいということはあると思います」
―― 後手番ではいわゆる『ウソ矢倉』と呼ばれる戦型の採用率が高いようですが、プロ間では少し不利というのが共通認識だと思います。
「私としては、避けなくてはいけないほど悪いとは思っていないですね。位を取って盛り上がる将棋が好きで、そういう展開を目指したいので、使ってしまいます。もちろん、しっかり指されて負けるときもあり、そのときは『やっぱりだめなのかな』とも思うのですが、どうしてもやめられないです(笑)。金銀を押し込んでいって、相手の陣形が『ぐちゃっ』となる将棋はほかにあまりないじゃないですか。うまくいったときの快感が強烈で、あれで勝てたときがすごく楽しいです。分かってもらえる人が少なくて、実際に周りからは『いろいろな戦型を指してみたらどうなの?』と言われることもありますが、私に合う戦法はほかにないと思いながらつい使ってしまいます」
―― 戦法に対する愛を感じますね。
「位を張って、相手がそこにぶつかってくるときはドキドキしますね。自分の陣地で戦っているので、間違えるとすぐにダメになってしまいます。でもそこをうまくかわして、大駒を取り押さえるのが大好きです」
―― 対振り飛車の位取りなども好きなのでしょうか。
「対振り飛車の玉頭位取りは、なかなか『押さえ込んで完勝』という展開にはならず、だいたいさばき合いになってしまいます。練習将棋で指すこともありますが、自分の駒だけ残る展開が多く向いていないようです。相手の攻撃形に対して勢力を張るのが好きなので、振り飛車にされても位取りにはしないですね。相振り飛車で銀冠や矢倉はさせてくれるのであれば歓迎です。中盤では浮かぶ手が相手の玉を攻める手ではなく、攻め駒を責める手をばかりで、もう思考回路がそうなってしまっています(笑)」
―― 研究会はされていますか。
「たまにやっていますが、あらかじめ日時を決めて行うというよりも、『将棋サロン荻窪』に行って、その場にいる誰かに教わるほうが多いですね。奨励会員が頻繁に顔を出しているので、スケジュールを調整する必要がありません」
―― 『将棋サロン荻窪』には、ほかにも女流棋士の方が訪れると聞きました。
「確かに以前より増えていますね。女流棋士同士で指していることもありますが、私は奨励会員と指すことのほうが多いですね。でも真梨花さん(中村女流三段)にはよくVSで教わっています」


挑戦権獲得までの道のり

―― ここからは女流王座戦について聞いていきます。まず、第4期以前で印象に残っていることはありますか。
「第1期は加藤さんに準決勝で負けてしまいました。ふたりとも1級だったので、奨励会の例会でもたびたび当たっていましたが、負けっぱなしでしたね。どうして勝てないのかと思いながら悔しがりました。前期までのトーナメントでいちばん印象に残っているのは2年前、里見さん(香奈女流二冠)と指した将棋です。相振り飛車で有利に進めていると思っていましたが、だんだんと差を詰められて逆転負けをしました。投了したときはひとことで言い表せないですけれど、そうとう悔しかったです」
―― 前期はベスト4でしたので、今期は本戦からの登場です。1回戦の相手は上田初美女流三段でした。
「相振り飛車の将棋でした。中盤で自分が指せると思っていた局面が、それほどよくなかったのが印象に残っています。後日ほかの手順を指摘され、そのように進んでいれば、むしろ上田さんが勝ちそうな形勢でした」
―― 終盤では入玉ができることが確定して決着しました。
「みんな攻めきって勝つのが楽しいというけれど、私は逃げていく過程で玉が上にいって逃げきれたときテンションが上がります。この辺りの感覚がほかの人たちとは違うのかなと思います」
―― 2回戦で当たったのは香川愛生女流王将でした。
「これも相振り飛車でした。終盤、決めどころで予定変更をしました。ところが決め損なって、せっかくのいい将棋を激戦にしてしまいました。なんとか残していて、最後はほっとしました。よくなってからそのまま押しきるという勝ち方ができていないので、印象に残っています」
―― この将棋に限らず持ち時間を残して勝つことが多いようですが、何か意識されていますか。
「棋風が受け将棋なので、受け間違えるとすぐにつぶされてしまいます。そのため、大事な局面で考える時間が残るようにしていますね。考えているところは考えますが、序盤などは時間を使わないようにして、苦手な秒読みにならないように意識的に早く指しています」
―― 準決勝では里見女流二冠と対戦しました。
「この将棋はウソ矢倉でした。銀冠に組み替えたあとに8六の歩を狙いにくる△4二角はこの戦型では頻出する筋ですが、受けませんでした。個人的にはこれで難しいと思っていて、▲7七金寄や▲7七金上は△8五歩の合わせから桂を跳ねられたときに金に当たるので、よくないです。▲6八角と打ち合うのも多いですが、あまり勝てません。
終盤で里見さんに勘違いがあり、最後は相手玉に必至を掛けて勝つことができました」
―― この勝利で里見さんの連勝記録を止めました。
「ミスに助けられた部分もありましたが、里見さんに勝てたことが何よりもうれしかったです。将棋に精いっぱいで、対局後のインタビューで連勝記録を止めたと気がつきました。21連勝という数字は全然意識していませんでした」
―― 挑戦者決定戦は甲斐智美倉敷藤花でした。
「甲斐さんとは2戦2敗です。最初に対戦したときは、難しいと思って攻めたけれど、最後は読みきられていました。2回目に当たったときは攻められて何もできずに終わった感じです。最初から少し力の差があるので、ぶつかっていくしかないと思っていました。本局は相振り飛車になると予想をしていましたが、居飛車になりましたね。自分の得意形にしたかったのですが、定跡形になってしまいました。
中盤で甲斐さんの、端の突き捨てを入れるタイミングが遅かったので、手抜いて攻めました。勝ちを意識したのは詰めろが掛からなくなったときです。それまでの局面もいいとは思っていたのですが、そこから逆転されることがあるので、気を引き締めて指し続けました」
―― 終局後に涙ぐむ場面がありました。どんな心境だったのですか。
「信じられない気持ちでいました。いままでの悔しい思いがあって、こうして挑戦すると思ったら、自然と涙が出てきました。素直にうれしかったです」


五番勝負に向けて

―― 五番勝負を戦う加藤女流王座とは長い付き合いだと思います。伊藤さんから見た加藤さんはどのような人柄ですか。
「加藤さんは誰にでも明るく接しています。私みたいなしゃべれないタイプにも優しく接してくれるので、すごくいい子です。ときどきカフェに行って、話をすることがありますよ。加藤さんも忙しいし、私も大学に行っていると平日は会えなくなるので、休みの期間中に約束して行きます。奨励会時代もときどき行っていましたが、辞めてからのほうが多いかもしれませんね」
―― 奨励会在籍時はやはり比べられることは多かったのでしょうか。また、ライバル視はしていますか。
「女性奨励会員同士ということで比べられることが多かったですが、加藤さんだけが相手ではないので、みんなライバルだと思っていました。あるときから全然勝てなくなってしまったので、例会は私が負け越しているはずです。いまでも特定の誰かに勝ちたいというわけではなく、みんなに勝ちたいと思っています。ですので、ライバル視している人はいません」
―― 五番勝負の見どころを教えてください。
「いままでの対局では力戦居飛車のいつもの出だしから、加藤さんがどう対応するかという勝負が多かったです。ただ、加藤さんは相手の得意形を避けることなく、しっかりと作戦を練ってきたうえで、つぶしてきます。五番勝負では違う戦型も指したいのですが、愛着があるので……。普段指していない戦型も、もしかしたら指すかもしれません。五番勝負では私以外指さないような、個性的な手を見ていただきたいです」
―― プライベートのこともお聞きしたいのですが、大学ではどんな分野の勉強をされているのですか。
「経営学部で会計のことなどを学んでいます。キャンパスライフに憧れていたので、将棋の一芸入試枠がある亜細亜大学を選びました」
―― 最近はまっていることや、やってみたいことはありますか。
「最近というより、ずっとはまっているのが『いきものがかり』です。音楽に関しても姉や兄の影響を受けて耳に入ってくるというのが多かったのですが、自分からCDを選んで聞くというのはこれが初めてですね。ライブがあれば行くし、CDは買うし、最近はないけれど握手会があれば参加します。耳に残ると将棋に集中できなくなるので、対局日が近くなると我慢しますが、人生の糧になっています。もちろんカラオケでも歌うことが多いですよ。中学3年生頃から聞いているので、もう8年くらいのファンですか。
やってみたいことは……空を飛んでみたいです(笑)。扇風機の風を受けながらトランポリンを跳ぶ動画を見たことがあるんです。それで宙に浮かぶ気分を味わってみたいですね。あとはディズニーランドに行って、ディズニーホテルに泊まって、そして翌日ディズニーシーに行く。そうやってディズニーリゾートを堪能してみたいですね」
―― さて、最後の質問ですがズバリ異性のタイプを教えてください。
「ええ!? 最後の質問がそれですか(笑)。ありきたりな回答ですが、あまりぐいぐいこられても困っちゃうので、距離感が分かる人、空気を読める人がいいですね」

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