正しい「速度計算」を習得して終盤力3ランクアップを目指す|将棋情報局

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正しい「速度計算」を習得して終盤力3ランクアップを目指す

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「終盤は速度」 ではその速度とは?

「勝てそうと思っていた将棋でも、なぜか最終盤に競り負けてしまう」

「ついに相手の玉を追い詰めたと思ったら、自分の玉が詰まされてしまった」

そんなお嘆きをお持ちの方は多いのではないでしょうか。

それは、終盤の速度計算が不正確なことが原因かも知れません。

「終盤は駒の損得より速度」という格言を、一度はお耳にしたことがあるかと思います。 詰将棋における華麗な捨て駒などを見ても、何となく、「それは、そうだよね」とイメージしやすい格言ではあります。 しかし、実戦における「速度」となると、詰将棋と違い、自分の玉と相手の玉、両方の状況を正確に見極める必要がありますので、実は意外と実践しづらい格言です。

ここでは、しっかり「勝ちにつながる」正しい速度計算のからくりを、なるべくわかりやすく説明してゆきたいと思います。簡単な局面から始めますので、初心者の方、初級者の方も、最後までお読みいただけますと幸いです。
 

「速度計算」の基本

はじめに、第1図と第2図をご覧ください。いずれも後手が4八のと金を3八に寄った局面。部分図ですが、9×9の盤面は同一、違いは、先手の持ち駒が「歩」か「金」か、それだけです。皆様なら、どのように指しますか?

【第1図は△3八とまで】

【第2図は△3八とまで】

いかがでしょうか。

第1図では、後手と同じように▲3二とと寄せると、△2八とまで、先手玉が1手先に詰まされてしまいます。

しかし、第1図では▲2二金と捨てる手が好手で、以下△同玉▲3二と△1一玉▲2二とまで、後手玉を先に詰ますことができます。

第2図も、後手と同じように▲3二ととするのでは1手遅れなのが明らかですが、▲6八歩と、6二竜の縦の利きを利用し後手の竜を遮断するのが好手で、後手が先手玉に迫るには△6九竜とするくらいですが、以下▲3二と△5九竜▲2二とまで、先手の勝ちとなります。

腕に自信のある方は、「何を当たり前のことを」とお思いでしょう。しかし、これこそが終盤における「速度」を理解するための第一ステージであり、第1図、第2図のような部分図ではない実戦の局面、それもお互いの駒が入り乱れた難解な最終盤の局面においても、「速度」を考える方針の土台となる局面なのです。

「詰み」と、「普通の詰めろ」「いい詰めろ」「必至」

いま一度、第1図、第2図をご覧ください。

【第1図は△3八とまで】

【第2図は△3八とまで】

第1図は、先手玉に「詰めろ(※後手に手番が回れば先手玉を詰ますことができる状態)」が掛かっていて後手玉に「詰み」がある局面、第2図は先手玉に「詰めろ」が掛かっていて後手玉には「詰めろ」が掛かっていない局面でした。

第1図は、攻めれば勝ち。第2図は、受ければ勝ちとなりました。

つまり、「詰み」は「詰めろ」に勝ち。正確に詰ませれば勝つことができます。 相手玉に「詰めろ」を掛けていない状態で自玉に「詰めろ」を掛けられていれば、受ける必要があります。

もう少し突き詰めて考えれば、自玉に「詰めろ」が掛かっていなければ、相手玉に「詰めろ」を掛ければ相手は受けなければいけません(=自玉が詰まされる心配をしないで攻めることができる!)・・・

・・・と、長々と書いてしまいましたが、「こうきたらこう、こうきたらこう」と続くばかりでキリがないですし、何よりイメージしづらいと思いますので、以下の表をご覧ください。
 

 

最終盤における「詰み」「詰めろ」の関係、速度計算の基本的な考え方は、おおむねこの表に凝縮されています。

きっとプロの方々は、(2手後に相手玉に詰めろが掛かるから・・・)(3手後に自玉に詰めろが来るから・・・)と、この表の何階層も下まで掘り下げて局面を考えておられるのでしょう。しかし、基本的な考え方は変わりませんので、私たちアマチュアの将棋においてはこの表の範囲まで考えられればじゅうぶん、もしこの表のひとつ下の階層まで考えることができたなら、じゅうぶんすぎると言えるでしょう。

対局中、自玉が詰まされるのがとにかく怖い、という方もいらっしゃるかと思います。そんな方には、反対から、こんな考え方もあります。
 

 

それをふまえて、第1図、第2図より少し複雑な局面ですが、第3図をご覧ください。皆様はどう指しますか?

【第3図は△4九馬まで】

正解手を導き出すポイントは、やはり、相手玉に詰みがあるか、自玉に詰めろが掛かっているか、になります。

まず相手玉。▲8二金と王手を掛けても、△9三玉▲8一金△8四玉と、上へスルスルと逃げられてしまうのがわかります。相手玉に詰めろは掛かっていません。

では自玉はどうでしょう。

△2七銀と打たれると、王手が続きそうでイヤな形ではあります。以下▲同金は△同歩成まで詰まされてしまいますが、△2七銀に▲1七玉とかわせば、△1六銀成▲同玉△3八馬▲2五玉と、こちらも上へスルスルと逃げることができます。先手玉にも詰めろが掛かっていません。

となれば、後手玉に詰めろを掛ける手が正解手であることがわかるでしょう。

しかし、相手玉に対する「詰めろ」の掛け方は、一種類ではないので注意が必要です。

上へ逃げられないよう▲8五桂(第4図)と打ってあらかじめ9三の逃げ道を塞ぐ手は、▲8二金までの「詰めろ」であり、大変感覚の良い手です。ただし後手に△8二銀(第5図)と受けられると相手玉を詰ますことができず、紛らわしくなる恐れがあります。

【第4図は▲8五桂まで】

【第5図は△8二銀まで】

第3図では、▲7三銀成(第6図)が正解手となります。

【第6図は▲7三銀成まで】

これなら、△8二銀には▲同角成まで、△9三銀にも▲8二金△同銀▲同角成まで、また△7三同桂も▲9三金△8一玉▲8二金まで詰みなので、後手は受けようがありません。

第4図の▲8五桂も「詰めろ」で立派な一着ですが、第6図の▲7三銀成のように相手が受けようのない「詰めろ」のことを「必至」と言い、「詰めろ」の中でも最上級のものです。この局面は「詰めろ」を掛け続ければ勝ち、とわかった場合でも、なるべく、「普通の詰めろ」より、「複数の詰み筋がある詰めろ」を、できれば「必至」がないかどうか探せるようになれば、より勝率はアップします。

自玉の詰みを読むのは重労働! 訓練あるのみ!

ここまで、相手玉、自玉の状況、言わば双方の「危険度」を見極めることの重要性を記しました。相手玉と自玉に詰みがあるか、詰めろが掛かっているかによって、指し手を絞り込んでゆくのが、正しい速度計算の方法です。

しかし、ここでひとつ厄介なことが・・・

相手玉、自玉の状況の把握はまるで同じ作業に思えますが、実は相手玉の詰み筋を読むより、自玉の詰み筋を読むほうが、数倍労力が掛かるものなのです。

下図をご覧ください。
 

 

相手玉の詰み筋は1つの手順を発見すれば(もちろん、複数の手順を発見できればそれに越したことはありませんが)、相手が受けなければその手順で勝つことができますが、自玉の詰み筋は、ありとあらゆる手段(王手)に対する応手をすべて読み切った上で、詰みを回避する必要があるからです。

このスキルを身につけるには、訓練を重ねるしかありません。以下の問題2つは自玉に「詰めろ」が掛かっています。あらゆる詰み筋を回避する一手を探してください。

【問題図1は△4六角まで】

【問題図2は△3八銀打まで】

問題図1の答え:▲3七銀(▲2八銀、▲1九銀、▲3九玉も正解)
先手玉には△2八金までの詰めろが掛かっている。いろいろな受け方があるが、唯一▲3九銀は逃げ道が塞がって△1九金で詰まされる。終盤では先手を取る手が好手になる場合が多く、▲3七銀がもっとも積極的な詰めろの解除方法だ。
問題図2の答え:▲3九桂
先手玉には△2七銀打と△3九銀打の2通りの詰めろが掛かっている。一方だけを受ける▲2六金や▲2七桂、▲3九金は失敗。両方を受ける▲3九桂が詰みを回避する唯一の手段。
 

究極奥義「詰めろ逃れの詰めろ」

自玉に詰めろが掛かっていて、相手玉が詰まない局面は受ける一手・・・

いいえ、そうとも限らない局面、というより、受けつつ攻めに転じる夢のような手が、実戦ではまれに出現します。

まさに起死回生、究極奥義ともいえる「詰めろ逃れの詰めろ」。

繰り返しになりますが、そうはお目に掛かれません。しかし、もしそういう局面が現れたら、ぜひとも逃さず、会心の一手を指していただきたい!

下図をご覧ください。

【ピンチ(?)図は△3六桂まで】

今までのことを踏まえると、相手玉は角1枚では詰まず、自玉は△2八金(または△2八桂成)までの詰めろが掛かっていて、受けるよりないように見えますが・・・

【究極奥義の図は▲6四角まで】

▲6四角が究極奥義「詰めろ逃れの詰めろ」! 自玉の詰み筋を消しながら、相手玉に▲4二飛成までの詰めろを掛けて、攻守逆転に成功しました。以下△2八金なら▲同角△同桂成▲同玉△6四角▲1八玉で大丈夫。あとは▲5四桂から攻めに転じることができます。

終盤に思いがけない指し手が潜んでいる点も、将棋の大きな魅力のひとつ。速度計算の精度をアップして、これから何度でもそんな指し手に出会っていただければと願っています。

 終盤力3ランクアップの良書

ここまで、終盤の「速度計算」について、早足に記してまいりましたが、本記事に使用した局面図および表は、すべて2022年8月29日発売の『将棋・終盤完全ガイド 速度計算編』から拝借しました。

著者はこれまでに、戦型別の「将棋・序盤完全ガイド」シリーズなど、初・中級者向けの書籍を多数執筆している上野裕和六段。これまでの親切な解説、そして親切な「書籍の作り」(下図)を踏襲したまま、難解なテーマながらアマチュアが理解できるように落とし込んでいて、その丁寧な構成には毎回のことながら驚かされます。

「完全ガイド」の特徴のひとつである矢印。解説がどの図面のことを指しているかを示し、これにより、「解説と図面が行ったり来たり、時には前のページや次のページに解説部分の図面があったりで、肝心の内容が頭に入らない」という棋書独特の不親切あるあるを一掃しました。

 

章立ては以下の通り。本稿では触れることができませんでしたが、「第2部 相手玉を詰ます」「第3章 相手玉に詰めろをかける」を含め全5部に、終盤の速度計算に必要な要素はすべて網羅されています。







そして各章ごと、これまでに紹介した表などを用い、また複雑に見える終盤のスキルをパターン化することで、誰にでもわかりやすい内容となっているのが大きな特徴です。例えば、「第2部 相手玉を詰ます」内、「第1章 詰みの基本」内では以下の表を示し、あまり長手数で詰ますことが無理そうであれば、自分の詰ますことのできる局面にもってゆく方法を考えるべきと説きます。

また、同じく「第2部 相手玉を詰ます」内、「第2章 詰みの手筋」では、下図のようにパターン化。

「第3部 相手玉に詰めろをかける」内、「第6章 必至」では・・・

とにかく複雑そうに思える終盤の手筋の数々ですが、上野六段のパターン化術(?)にかかればこの通り。そう言われてみれば確かに詰みの手筋、必至ともに、この分類のみで必要十分なのです。そしてそのすべての項目ごとに細かな解説がありますから(下図は「第3部 相手玉に詰めろをかける」内、「第3章 詰めろのパターン」の1ページ)、最終盤の速度計算に必要な知識、テクニックを、すみやかにご自身の力にできることでしょう。

巻末には「第5部 力試し問題」が待っています。本稿では紹介しませんが、いずれも難問。しかし本書で身につけたテクニックで解ける問題ですので、ぜひチャレンジしてください。

初心、初級の方が読めば、終盤力1ランクアップどころではおさまらないでしょう。中級、上級の方にも、速度計算の精度アップのために、ぜひお手にとっていただくことをおすすめいたします。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)

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