細かすぎて伝わらない!『令和4年版将棋年鑑』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 第1回|将棋情報局

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細かすぎて伝わらない!『令和4年版将棋年鑑』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足 第1回

(1)変化を求めて
(2)竜王戦は?
(3)スタートライン

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。「我々は何かを得ることによって生活しているが、人生は与えることによって豊かになる」でおなじみの編集部島田です。

今年も「細かすぎて伝わらない」シリーズの季節がやってまいりました。
待ってました!と思った奇特な方も若干名いるかもしれませんが、「何それ?初めて聞いたわ」という方も多いと思いますので趣旨を説明させていただきます。

本記事は現在予約受付中の『令和4年版 将棋年鑑』の巻頭特集に掲載される藤井聡太竜王へのインタビューの補足です。文字だけでは伝わらないインタビュー中の表情やしぐさ、あるいは「間」のような情報をインタビュアーである島田目線で追加し、そこから見え隠れする藤井先生の深層心理を島田目線で類推するものです。

一般的に藤井先生のインタビューに対する受け答えは無難なものが多く、面白みに欠けると思われているかもしれません。しかし、私に言わせれば藤井先生ほど屈託なく自分の意見を表明し、しかもその回答が面白い人はいません。
この記事ではそんな負のイメージを払拭すべく、藤井先生の語っていることの素晴らしさ、というか、藤井先生自身の素晴らしさを全力で語っていきます。

ただし、「島田目線」というバイアスがかかっている点には十分注意が必要です。私は藤井先生が心の底から大好きなので(唐突な告白)、本記事の類推には多分に藤井先生を美化した部分が含まれます。時に(往々にして)気持ち悪い内容になる場合がございますので、用法・用量を守って正しく服用していただければ幸いです。

前置きが長くなりすぎました。
それでは記念すべき今期1発目、行ってみましょう!!

今回のMENUは以下の通りです。
(1)変化を求めて
(2)竜王戦は?
(3)スタートライン

第1回は3品をご用意しました。どうぞご賞味ください。

(1)変化を求めて
最初のトピックは「変化を求めて」です。
今年のインタビューでは、昨年に続きTwitterで皆さんから質問をお寄せいただき、そのうちのいくつかを藤井先生にぶつけてみました。その中の最初の質問「海外で行ってみたい場所と理由を教えてください」について、先生に答えていただいたときのものになります。

以下のやり取りをご覧ください。
 

――まず、海外旅行に行くならどこに行きたいですか?
「長時間のフライトは大変な気がするので、まずは近いところで・・・・。となると台湾とかでしょうか」

藤井先生の行きたい場所は「台湾」でした。ほぉ~、という感じですね。そしてその理由は「長時間のフライトが大変だから」というものでした。

続きをご覧ください。

――日本の周りで。
「そうですね。台湾なら3時間くらいだと思うので、それくらいなら大丈夫かと」

3時間くらいのフライトなら大丈夫・・・。こう聞くと、飛行機は苦手なのかな?と思うじゃないですか。そこで

――飛行機があまり得意でいらっしゃらない?

と聞いたのですが、これに対する藤井先生の回答が面白かった。

「いえ、そんなことはないんですがフライト中、上空を飛んでいると変化がないので。離陸と着陸は好きなんですけど、飛んでいる間は特に天気が悪かったりすると見るものもないですし。5時間、6時間となると厳しいのかなと思います」

毎年藤井先生のインタビューでは驚かさせるのですが、今回も初手から驚きました(笑)
飛行機が苦手なんじゃなくて、「変化がない」ことに耐えられないんですね。これは藤井先生の新しい一面を見た気がしました。
常に向上心にあふれている先生なので、停滞していることがいやなんでしょうか・・・?謎です。

あと、「離陸と着陸は好き」というのも藤井先生らしい独特の感性で好きです。そもそも飛行機で移動するときに「離陸」「上空」「着陸」と分けて考えたことがありませんでした。今まで漫然と飛行機に乗ってきてしまった自分が恥ずかしいです(笑)

ともあれ、島田的に新しい藤井先生の一面を見られたことがうれしいですし、この質問を考えてくださった方に深く感謝いたします。ありがとうございました!



(2)竜王戦は?
続いては将棋の話題。昨年の藤井先生を振り返る上で、豊島先生との19番勝負は避けて通れません。王位戦、叡王戦、竜王戦と3つのタイトル戦で立て続けに戦いました。結果的には藤井先生がすべての番勝負を制しましたが、叡王戦ではフルセットにもつれこむなど、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。

そんな19番勝負を藤井先生に振り返っていただいた場面です。

――豊島先生とは王位戦、叡王戦、竜王戦と19番勝負となりました。
「最初の王位戦の第1局は完敗で、前半は苦しい将棋が多かったです。そのあとの叡王戦は持ち時間が短いこともあって思い切りよくやろうという方針で臨んで、それがうまくいったところはあります。その辺りから少しずつ内容的にも良くしていけたのかなと思っています」


藤井先生がこの回答をされた後、少し間がありました。というのも、私はこの後竜王戦について話していただけると思っていたからです。タイトル戦は3つあったわけですし、話の流れからしても、王位戦は出だしから苦しかった、叡王戦で徐々に良くなっていった、そして竜王戦では~となるのが普通ではないでしょうか。しかし、待っていても先生が話される気配がありません。仕方ないので「藤井先生、竜王戦は?」と心の中で思いながら次の質問に移った記憶があります。

さて、藤井先生が定跡にない返答をされたのなら、その意味を考えなくてはならないのが細かすぎるシリーズのルールです(謎の使命感)。

インタビューの後に、なぜだろうと色々考えてみたのですが、竜王戦について言及しなかったのは「竜王戦はうまく指せたから」ではないかと思い至りました。

この記事を読んでいる方ならわかっていただけると思いますが、藤井先生は他のインタビューでも、自分が負けた将棋、自分の課題が見つかった将棋のほうが饒舌にしゃべってくれる傾向があります。

それにはもちろん謙虚さ、ということもあるのでしょうが、たぶん、課題が見つかることがうれしいんだと思います。それによってさらに自分が成長できるので。

藤井先生の中では棋戦を振り返る際に「課題発見とその克服」が何より重要な視座になるため、19番勝負の総括は?と聞かれたら「王位戦は第1局が完敗で前半戦は苦しかった、叡王戦も試行錯誤だったが、その後はだんだん良くなっていった」ということになるのでしょう。

実際、このあとのインタビューを読んでいただくとわかるんですが、藤井先生の中では王位戦→叡王戦→竜王戦と徐々に良くなっていった感触があったようです。

自らがつまづくこと、対局に負けることを嘆くのではなく、プラスの力に変えていく。それが藤井聡太という人です。素晴らしいです。大好きです。

ただ、うまく指せたという竜王戦でも満足しないのが藤井先生。その話は第2回以降に取っておきます(思わせぶりな小出し)。



(3)スタートライン
さて、最後は「スタートライン」です。すでにここまでが長い、もうお腹いっぱい、と思っている方が9割以上だと思いますが、今回私が最も語りたかったのがこの(3)であり、ここからMAXで気持ち悪くなっていきますので、ご注意ください。

これは、A級順位戦について質問した時のやり取りです。A級順位戦と言えば1年かけて行われるリーグ戦をC級2組から勝ち抜いて、ようやくたどり着ける順位戦というピラミッドの頂点です。選ばれしトップ棋士10人です。私の質問はこうでした。

――来期はいよいよA級ということになりますがいかがですか?


この質問に対する藤井先生の回答は「これぞ藤井聡太」というものでした。

「名人というタイトルはA級に上がらないと挑戦することができないという意味で、今がスタートラインだと思っています。今期A級ということで、挑戦を目指してしっかりやっていきたいです」

A級は藤井先生にとって頂点でも何でもなかったんです。「スタートライン」だったんです。

もうこれ、カッコ良すぎでしょう。

A級がスタートですよ。どこまで高みを見据えてるんだろう、この人は、と思いましたね。

と、同時に、何回もインタビューさせてもらってるのにそんなこともわからんかった自分が情けなくなりました。「いよいよA級」とかじゃなかったです。そういうレベルの人ではありませんでした。

「島田さん、何言ってるんですか、置いてきますよ」

―と、私の妄想の中の藤井先生がおっしゃってます。
置いていかれたくないのでついていきます。

スタートラインに立った藤井先生の今期順位戦は、もう始まっています。

子どもの頃に夢見た「名人」というタイトルに挑む藤井先生。その姿を全力で見守っていきたいです。


(いつかある第2回に続く)

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