2022.06.20
斎藤八段が3期連続挑戦に向けて好スタート 第81期A級順位戦
稲葉八段は復帰後の一戦を飾る
渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)は、6月17日にA級1回戦の▲佐藤天彦九段―△稲葉陽八段戦、▲広瀬章人八段―△糸谷哲郎八段戦、▲斎藤慎太郎八段―△菅井竜也八段戦の3局が関西将棋会館で行われました。
■それぞれのスタートライン
斎藤八段は、A級順位戦初参加の前々期に8勝1敗で挑戦権を獲得すると、前期も8勝1敗の成績を挙げて連続挑戦。A級順位戦ではこれまで16勝2敗という圧倒的な成績を残しています。糸谷八段は今期がA級昇格5期目、毎年安定した戦績を挙げており、前期は終盤まで斎藤八段との挑戦者争いを繰り広げ、今期は過去最高の順位2位で臨みます。稲葉八段は前々期にA級から陥落、しかし前期はB級1組で9勝3敗の成績を挙げ、1期でA級順位戦の場に帰ってきました。各棋士にさまざまな経緯はありますが、それぞれが新たなスタートラインに立って今期順位戦の初戦に臨みます。
■狙い澄ました一撃
3局のうち、最初に終局したのが広瀬―糸谷戦でした。戦型は横歩取り。後手の糸谷八段が角交換から△3三桂と跳ねる形を採用しました。序盤は糸谷八段の用意の作戦ということで後手がテンポよく指し進めていましたが、中盤、後手陣に馬を作った広瀬八段がリードします。糸谷八段は50手目に△7四角と馬を消しに行きました。対して先手は馬を逃げることもできるのですが、打った角を軸に攻められると怖い部分もあります。広瀬八段はすんなり▲7四同馬と応じました。△同歩で後手の言い分が通ったようですが、▲3五歩△同銀と銀の位置を変えてから▲6五角と金取りに角を投入したのが狙い澄ました一撃。△4二金と逃げますが、そこで▲3六歩と打つのが真の狙いで、これで後手の銀が助かりません。銀得の戦果は大きく、以下は糸谷八段の頑張りを振り切った広瀬八段が119手で勝利しました。
■棋風通りの重厚な一手
続いては斎藤―菅井戦。菅井八段がゴキゲン中飛車を選択します。中盤の59手目に▲6六銀打と打った手が斎藤八段らしい重厚な一手。後手からの攻めを封じながら、打った銀を活用して後手の飛車にプレッシャーを与えています。攻め合いに向かう手も有力そうでしたが、功を焦らず丁寧に相手の攻めを受け止めようという棋風が現れた一着でした。実戦も飛車銀交換を実現した斎藤八段が優位に立ち、77手で勝利。3期連続の挑戦に向けて好スタートです。
■ピッタリの反撃
佐藤―稲葉戦は相掛かりとなりました。佐藤九段は飛車・銀・桂・歩の戦力を2筋に集中して突破を図ります。稲葉八段が忙しくも見えますが、60手目の△3三桂が敵の切っ先をひらりとかわす好手。次に△2五歩と飛車取りの先手で飛車先を止めてしまう狙いがあります。先手はこの狙いをうまく回避する方法がありません。実戦は佐藤九段が▲7九玉と玉を安全地帯に近づけて手を渡しました。△2五歩を打たせ、飛車を取らせる間に攻めようという作戦ですが、取った飛車を△2九飛と打ち込んだ手が厳しく、稲葉八段が優位に立ちました。最後は自玉の入玉をほぼ確定させて稲葉八段が96手で勝利。A級復帰後の初戦を白星で飾りました。
A級1回戦はここまで永瀬拓矢王座、広瀬八段、稲葉八段、斎藤八段が白星発進。残る一戦は22日の藤井聡太竜王―佐藤康光九段戦です。名人挑戦に至る長丁場のリーグ戦ですが、開幕早々から目が離せません。
3期連続の挑戦へ好スタートを切った斎藤八段(写真は第80期名人戦第3局のもの 提供:日本将棋連盟)相崎修司(将棋情報局)
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