藤井聡太二冠が久保利明九段を破ってB級1組3勝目 両者の持ち味が存分に出た好局を制した|将棋情報局

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藤井聡太二冠が久保利明九段を破ってB級1組3勝目 両者の持ち味が存分に出た好局を制した

藤井二冠は3勝1敗、久保九段は0勝3敗のリーグ成績となった

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第80期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社、毎日新聞社)の4回戦、▲藤井聡太二冠(2勝1敗)-△久保利明九段(0勝2敗)戦が7月6日に関西将棋会館で行われました。結果は翌7日の0時21分に117手で藤井二冠が勝利を収めています。


第80期順位戦B級1組リーグ表

B級1組4回戦は本来15日に一斉に行われます。ところが藤井二冠は13、14日に王位戦七番勝負第2局を北海道で戦うため、日程をずらして本局だけ先に対局が実施されました。

順位戦のためあらかじめ先後は決まっており、藤井二冠が先手番。藤井二冠は久保九段の角道オープン四間飛車に対して角を交換し、すぐにその角を7七に設置しました。角・銀で相手の3三の桂を狙いにいく作戦です。

30手目、久保九段は△3九角と打ち込み、馬を作りました。藤井二冠はこの手を軽視したと言います。「△3九角から馬を作られるのを軽視していました。本譜、進んでみると3筋を突破するには至らないので、▲8八玉と寄ったのがどうだったかと思っていました」と振り返りました。

先手は3三桂を角・銀で狙っていると先ほど書きました。△3九角と打つと、▲3八飛△8四角成まではワンセット。手順に桂頭攻めに飛車も加わるため、先手の調子がいいように見えます。ところがここからの久保九段の指し回しが見事でした。

まずは桂を2筋に逃がし、飛車を△3一飛と一つ寄ります。次に3筋から逆襲しようという狙いです。藤井二冠は角を上がってそれを防ぎますが、そこでサッと△5一飛と回ったのが好手でした。振り飛車党らしい軽快な飛車の活用です。藤井二冠が「△3一飛と寄られた局面で、▲2六歩か本譜の▲8六角を考えていたんですけど、▲8六角に△5一飛車からさばきに来られたのは見えていなかったので、▲2六歩のほうがよかったかもしれない」と話せば、久保九段も「△5一飛が感触いいかなと思って。桂を取りに来られる変化(▲2六歩)を本線で読んでいたので。(ただ本譜も)結構、やってみたら大変でした」と語りました。

藤井二冠が桂を取る間に、久保九段は7六の歩を馬で取ってから、△5七歩と叩いて△5六飛と浮きました。「7六歩を取られてこちらの陣形も傷を抱える形なので、ちょっとどうだか分からなかったです」と藤井二冠。先手玉の守りは左美濃のため、7六の地点に桂を打たれると弱い形です。△5六飛は△2六飛~△2九飛成と敵陣に飛車を成り込もうという手。縦横に大きく飛車を活用する手順は、「さばきのアーティスト」と呼ばれる久保九段らしい手順でした。

△5六飛と浮かれた局面で、藤井二冠は▲7七銀上と着手。これが形にとらわれない好手でした。前述の7六の傷をどう解消するかが課題の場面で、普通なら左美濃の形を残したいところです。▲7七銀引なら4枚美濃の堅陣になりますが、銀を6六に残した方が上部に手厚いということでしょう。堅さよりも自陣のバランスを重視する藤井二冠らしい選択です。

飛車は成り込まれてしまったものの、藤井二冠も▲2三歩成と歩を成って反撃。竜で取らせることで、竜を自陣から追い出そうという手です。金取りのため、当然取る一手に思われましたが、なんと久保九段は金取りを放置して香を入手しました。金を取らせている間に攻め合おうという構想ですが、これがどうだったか。「▲2三歩成から攻め合って若干駒得なので手厚くなったかなと思いました」と藤井二冠が振り返るように、ここで先手が優位に立ちました。

久保九段は手にした香を用いて角を入手。そして5筋から藤井陣の守りを崩そうとします。ここで守りに役立ったのが6六銀でした。先ほど左美濃を崩してまで銀を6六に残しておいたのは、この攻めを見越していたためでしょう。△5六歩と銀取りに歩を叩かれた手に対し、▲4六銀と玉から離れる方へかわしたのも好手。飛車にひもをつけておくことで、相手からの強攻を封じています。

久保九段の攻めがひと段落したタイミングで、藤井二冠が反撃開始。▲6六桂と馬取りに打ってから、端攻めを繰り出します。「端でもうちょっとうまい対応の仕方があれば、もう少しチャンスがあったかなという気もしたんですけど、本譜は一番受けづらい形で受けようとしてしまったかなという感じです」と久保九段が語ったように、この端での折衝で藤井二冠はさらにリードを広げました。

端を攻めるだけ攻めたあと、飛車を成り込んで横からの攻めも繰り出す藤井二冠。竜の横利きを久保九段が受けたところで、▲4六銀と上がって馬の利きを遮断したのが決め手となりました。馬の利きがなくなった後手陣は風前の灯火です。

もはや受けがなくなった久保九段は、馬を切って形を作ります。久保玉には29手という長手数の詰みが生じました。ここで玉を詰ますことができなければ事件です。ですが、先手を持って指しているのは藤井二冠。当然詰みを逃すはずもなく、しっかりと久保玉を詰まし上げて勝利となりました。

久保九段の飛車の活用術は、まさに振り飛車の達人の指し回しでした。それに対する、藤井二冠の形にとらわれない受けも流石の一言。両者の持ち味が出た好局でした。

熱戦を制した藤井二冠は3勝1敗の成績となりました。「B級1組は手強い相手ばかりなので、3勝1敗というのは悪くないかなと思います。この後も一局、一局気を引き締めていけたらと思います」といつもながらの謙虚なコメント。さらに九段昇段後初勝利というのは意識したかという質問にも、「全く意識しませんでした。最近対局が多いので、コンディションを崩さないようにとは意識していました」と語りました。

一方、敗れた久保九段は開幕から3連敗。「結果は出てないですけど、やるだけのことはやっているつもりなので、また次頑張りたいと思います」と前を向きました。


本局の初手、▲2六歩を着手する藤井二冠(提供:日本将棋連盟)

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