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将棋年鑑藤井聡太インタビューの補足 ~藤井二冠の好きな詰将棋をガチ解説~

詰将棋でも盤上の物語は不変!

9月末発売の将棋年鑑。この中では、藤井聡太二冠に行ったインタビューを掲載しています(インタビュー収録は4月)。その際、詰将棋についても時間を取っていただきいろいろとお聞きすることができました。

そのインタビューの中で、藤井二冠に「よい詰将棋とは何か」と問うたときの答えが「手の感触がよいもの」というものでした。さらに感触のよさとは?と聞くと、「ストーリー、流れがあること」との回答。「盤上の物語は不変」、という藤井二冠の有名な言葉も思い返されるところですが、詰将棋においてもそれは変わらないようです。



今回は、そのインタビューの補足として、藤井二冠が好きな作品に挙げた「くもの糸」(斎藤吉雄作)の解説をしていきたいと思います。その手順からは、藤井二冠がどんな手順にストーリー性を感じるのか、その感性が見えてきます。



斎藤吉雄 「くもの糸」 詰将棋パラダイス1997年11月号 平成9年度看寿賞中編賞


初形図以下の指し手
▲4四竜(1図)



まず初手は龍を回っておくところ。

この手に対する受け方が問題です。たとえば△4六歩合では、▲4八歩△3六玉▲3五と△同と▲同龍まで。それならと3五に利かせて△4六銀合としてみても、やはり▲4八歩△3六玉▲3五と△同とに▲2五銀△同と▲3四龍の筋があって詰みます。
▲4八歩という手が指せるからいけないのであって、玉方はこの歩を打てない局面に誘導しようと試みます。それが次の手。

1図以下の指し手
△4五桂合(2図)



桂の中合で対抗します。これを▲同龍と取ってしまうと、4六に合駒しておいて、龍が3六に利いてしまうため▲4八歩が打ち歩詰で打てなくなります。
桂、歩以外の中合だと、取って4六合の局面で▲4八歩ではなく取った駒を打てば詰み。歩合の変化は後述します。
このように抵抗されると、▲4八歩を決め手にすることはできません、それでも4八歩は重要な拠点の駒になるので、桂を取らずに打ってしまいます。

2図以下の指し手
▲4八歩 △4六玉 ▲5五龍 △3六玉 ▲5六龍(3図)



この局面、玉方にはいろいろな応手が考えられるところ。6八角の利きがあるので、合駒を打っておく形がしっかりしているように見えます。
しかし△4六歩合は▲2五銀△同と▲同馬△同玉▲4五龍の筋があるので、この合駒は4五か3五には利いていなければなりません。とはいえ、△4六金合、△4六銀合は▲同龍と取ってしまい、△同角成に▲2七馬△同玉▲2八飛以下取った駒を打って詰み。
そこで4五には利かせつつ、攻め方に渡しても弱い駒は何か、と考えます。その答えが次の手。

3図以下の指し手
△4六角成(4図)



馬合が正解。もちろん馬を打つという手はないので、角の移動合という形で表現されています。馬なら攻め方に渡しても角。頭が丸いので、先ほどの変化が詰みません。さて、4六角成まで進んで4五の中合が歩ではなく桂だった理由がわかります。4五の駒が歩になっていると、▲4六同龍と取って△同玉に▲7三角△3六玉▲2七馬△同玉▲3七角成があります。実は4五桂中合はこの変化に備えて、3七に利かせた意味もあったのですね。そこで攻め方は工夫した攻め方が必要になります。

4図以下の指し手
▲2五銀 △同と ▲4六龍 △同玉 ▲1三角(5図)



▲2五銀が好手。ここまでの変化でよく働いていた駒ですが、捨て駒で消えます。これによって、2四とをどかしたのが大きな一手で、▲1三角が可能になります。この手の意味は、たとえば△2四歩合なら▲4七歩と突こうということ。△同玉▲2五馬△同歩に▲4八歩が打てます。以下△3六玉に▲3五角成まで。また▲2五馬に△3六歩合もありますが、これにも▲4八歩(変化図)で△4六玉▲2四角成まで。



この▲1三角は非常に急所の一手で、急に局面が詰みやすくなります。このラインが当初は2四とで隠されていて、玉方のいろいろな応手を読んだ上での最後の筋に入らないとこの角が登場しないのもにくいところです。しかし、玉方にはまだ用意の抵抗がありました。

5図以下の指し手
△2四桂!(6図)



先ほど、△2四歩合の変化を読みました。これは取られても一番安い駒で、かつ▲4七歩△同玉▲2五馬を取り返せる駒でもあったので、ふつうに考えれば最も合理的な合駒です。しかし、歩より高く、またわざわざ2五馬を取れない駒を合駒に使う意味はなんでしょうか。次の手順でそれが明らかになります。

6図以下の指し手
▲4七歩 △同玉 ▲2五馬 △3六桂!(7図)



この桂跳ねが好手。先ほどの変化図と比べてください。変化図では2四の合駒と3六の合駒に別々の駒を用いました。そのために1三角の利きがふさがっていて▲4八歩が打てましたが、この図では2四の合駒だった桂を跳ねて3六の合駒も行っています。その結果として、1三角の利きが開放されて▲4八歩が打ち歩詰になっています! 
これは、どうせ2か所に合駒しなければいけないのだからできるだけ1枚ですまそう、ということではありません。もっと積極的な意味で、一度閉じた攻め駒の利きを、ほかの合駒の機会に乗じて開けるようにしよう、そうすることが玉方にとって有利になる、ということなのです。一連の妙手順といえるでしょう。
この妙手順が輝くのは、このあとの収束がばっちりと決まるからでもあります。

7図以下の指し手
▲4六角成! △同玉 ▲4八飛! △同桂成 ▲4七歩 △同成桂 ▲3五馬まで25手詰。


(詰上がり図)

まずは▲4六角成。いま△3六桂によって動けるようになったばかりの角をさばき捨てるので、ぴったりという感覚がある一着となります。そうしておいて、▲4八飛の連続捨て駒が爽快。ここまでずっと枠の駒として働いていた飛車を捨てる意味は、△同桂成で2五馬の利きを通すこと。同時に、行き所のない駒の禁により、八段目に進んだ桂は成らざるを得ません。それによって4七に成桂の利きが生じ、打ち歩詰が打開されるのです。以下は3手詰。

以上をまとめると、次のようになります。
1三~7九の角のラインを止める2四の合駒と、2五~6九の馬のラインを止める3六の合駒をしなければならない。このとき、3六の合駒をする時点では、2四に先ほど打った合駒が玉方にとって邪魔駒になっている。そこで2四に打った駒をどかしつつ、同時に3六への合駒ができるよう、2四合には桂を選び、それを3六に跳ねる。それを受けて攻め方は、角飛連続捨てで打ち歩詰を打開して詰上げる。
理屈の上ではこのようになるのですが、この作品が特に優れているのは、その理屈が盤上に表現されるに至って、手順のさわやかな統一感を獲得したところです。攻め方の手は大駒を大きく動かしたり捨てたりする手で、その大駒をいなそうとする玉方の手は、外形的には桂の運動のイメージを強く印象付けるものになりました。最初の4五桂中合もそうですし、2四桂合は3六に跳ねてさらに4八へ、のみならず成桂として4七にも動きます。この作品においては、ロジカルな面とこうした感覚的な面がともに作用しあって高度な表現となっています。藤井二冠のいう「感触のよいもの」とは、詰将棋においてはきっとこういうことなのかなと思います。つまり、手順を支える論理や因果関係から必然的に要請される一手が、同時に妙手であったり気持ちのいい一手であったりするときに、ストーリーや流れの中である感触が生み出されるのではないでしょうか。

ちなみに、この「くもの糸」では合駒の桂が2回跳ねますが、「合駒の桂が跳ねる」というのは藤井二冠の作品にもたびたび現れるモチーフです。
(参考:「藤井聡太の桂は跳ねる」)


藤井聡太 詰将棋パラダイス2017年5月号

▲5六香 △5八銀合 ▲1三角 △6七玉 ▲6四龍 △6五桂合(8図)



▲5九桂 △同銀不成 ▲4七飛 △5八玉 ▲5七角成△同桂不成(9図)



▲6九角 △同桂成(10図)



▲6七龍まで15手詰。

この点はインタビューでつっこんで聞けませんでしたが、くもの糸の影響を受けているのか、あるいは桂跳ねという手がそもそも藤井二冠の快感原則に合う一手なのか。そうしたことを考えてみるのも楽しいですね。


 
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