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藤井聡太新棋聖誕生! 渡辺明棋聖渾身の研究手順で苦戦も、驚異の中終盤力で逆転!

史上初の17歳タイトルホルダーとなった藤井棋聖。「すごい人が出てきた」と渡辺二冠

2020年7月16日という日は、将棋界にとって大きな意味のある一日となりました。関西将棋会館で行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社)五番勝負第4局、▲渡辺明棋聖-△藤井聡太七段戦において、藤井七段が勝利。番勝負の成績を3勝1敗とし、初タイトルの棋聖を奪取しました。17歳11カ月での戴冠は史上最年少。激闘となった第4局を振り返ります。

先手番の渡辺棋聖の戦型選択は矢倉でした。矢倉と言っても様々な形がありますが、その中でもなんと、自身の敗戦局である第2局と同一局面へ誘導します。得意戦型の矢倉で完敗を喫したままではいられないという意地なのか。それとも藤井七段のマークが薄くなったと見ての戦略的採用なのか。それは定かではありませんが、間違いなく入念な準備で投入してきているでしょう。

その甲斐あって、序盤でリードを奪ったのは渡辺棋聖でした。交換した桂を2六に打って金取りをかけて好調な感じです。しかし、リードと言ってもわずかなもの。藤井七段も桂を打って、8筋から反撃。マラソンで例えるなら、渡辺棋聖の背後にぴったりと付いて行って、抜き返すチャンスをうかがいます。

渡辺棋聖は藤井七段の攻めを受け止める方針で手を進めていきます。7~8筋の攻めをいなして、その狙いは結実したかに見えました。ところが、ここからの藤井七段の広く盤上を見た手順が素晴らしかったのです。

藤井七段は△4六歩と歩を一つ突き出しました。今まで盤上左辺での攻防が繰り広げられていただけに、右辺に戦いの場を移すこの手が渡辺棋聖の意表を突きました。▲同銀と取らせて銀を4六の地点に呼び込んでから、△2五金~△2六金で2六の桂を取るのが後続手。この金を取ると、△3四桂で4六銀と2六飛の両取りがかかってしまいます。ずっと取られそうだった金が生還するこの好手順により、形勢はグッと詰まりました。

渡辺棋聖も角を活用して攻めに転じ、飛車取りに馬を作りました。藤井玉は4一にぽつんといて、飛車の打ち込みに弱い形。流石に飛車を逃がす一手だろうと思われたところで、なんと藤井七段は自陣の飛車を見捨てて、△3八銀と打ち込んでいきました。この手も渡辺棋聖の飛車取りになっています。飛車の取り合いは藤井七段の勝ちなので、渡辺棋聖は▲5九飛とひとまず飛車を逃がします。

△4七桂と打って、さらに飛車取りを継続するのかと思われた82手目。ここで藤井七段のタイトル獲得を決定づけた一手が放たれました。3分の考慮から放った△8六桂が、絶妙手。渡辺棋聖は自身のブログでこの手をこのように振り返っています。少し長いですが、とても分かりやすく解説してくださっているので、一節をすべて引用させていただきます。

▲59飛に誰でも浮かぶ△47桂は▲同金△同金▲78玉でむしろ先手が良くなるため「どういう狙いなんだろうか」と思っていましたが、△86桂は気が付きませんでした。意味としては▲78玉を防いでから△47桂ということなんですが△82飛が当たりになっているので、ただ縛るだけの△86桂は見えにくい手です。
番勝負をやると、手付き、仕草、息遣いなどで相手が形勢をどう判断しているか、なんとなく分かるようになりますが、自信ありという感じで△86桂を指されて、そこでこっちも手が止まったので、この将棋は負けたなと覚悟しました。(渡辺明ブログより)

どうやらこの直前、渡辺棋聖の飛車取りに角を成る手順が良くなく、そこで藤井七段が逆転していたようです。確かに馬で飛車を結局取ることができなかったので、その通りなのかもしれませんが、ひと目は自然な順。それをとがめてしまう藤井七段の終盤力に改めて脱帽です。

この後、渡辺棋聖はしばらく指し続けたのち、藤井七段の110手目を見て投了。2020年7月16日19時11分、史上最年少タイトルホルダーが誕生しました。これまでの記録は屋敷伸之九段の18歳6カ月。それを大きく上回る、17歳11カ月での初戴冠でした。

終局直後のインタビューで藤井棋聖は「まだ実感がないというのが正直なところです。責任のある立場になるので、いっそう精進していい将棋をお見せできるように頑張りたい」とコメント。また次なる目標を問われた藤井棋聖。筆者のような凡人なら、現在進行中の王位戦七番勝負で勝ちたい、などと答えるのでしょう。しかし、皆さんもすでにご存じだとは思いますが、藤井棋聖は目先のことには囚われません。「今回の五番勝負で得たものがいろいろあった。それを成長につなげられるようにしたい」とのことです。

このシリーズで敗れてしまった渡辺棋聖は、棋王と王将の二冠に後退となってしまいました。しかし、名人戦では挑戦中、王座戦では挑戦者決定戦に進出しているように、三冠復帰、四冠獲得も十分に射程圏内です。

これで現在の将棋界のタイトルホルダーは豊島将之竜王・名人、永瀬拓矢二冠、渡辺二冠、木村一基王位、藤井棋聖の5人。藤井棋聖がついにタイトルを獲得したことで、これから大きく勢力図が変動する予感はありますが、果たしてどうなっていくでしょうか。

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7月19日が誕生日の藤井新棋聖。17歳ながら偉業を達成した(代表撮影)


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