2020.04.24
時代を超える天才・伊藤看寿 第2回 内藤國雄少年の人生を変えた一局
江戸時代の天才詰将棋作家、伊藤看寿の魅力に迫る!
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さて、前回は将棋図巧の鑑賞のポイントをざっとお伝えしました。先進性、論理性、そして芸術性でしたね。それを踏まえて今回は具体的な作品を見ていこうと思います。
ここで取り上げるのは第1番。少年時代の内藤國雄九段が本作にいたく感銘を受けて将棋の道を志したという有名なエピソードでも知られる名作中の名作です。
『将棋図巧』第1番
鑑賞のポイント① 初形美(?)
古典詰将棋らしく、すごい駒数ですね。これだけでもう解く気も読む気も失せるという人は少なくないはずです。ただ、あえて申し上げるとこの初形はめちゃくちゃ美しいです。ぱっと見ただけでは何を言っているのかわからないと思いますが、作品全体を鑑賞していただくと、この駒1枚1枚がいかに機能的に配置されているか、どれだけ無理なくしかしぎりぎりで成立しているかおわかりいただけることと思います。そのように全部の駒が支えあって一局の詰将棋を成立させているということが、詰将棋におけるひとつの美であるということがお伝えできればと思います。
初手からの手順
▲5四銀 △7五玉 ▲8七桂 △8六玉 ▲6六龍 △同 龍
1図
鑑賞のポイント② 作品構成の美学(序奏編)
初手の▲5四銀が平凡な手ながらまず推しておきたいポイントのひとつです。ネタバレになりますがこの銀、最後にとどめを刺す駒なのです。それを初手に打つ手で登場させておくというのは、間違いなく意識的に行われていると思います。時間差でひとつの駒にもう一働きさせるというのが、駒さばきの感覚を向上させるために看寿が用いるテクニック。そしてこの銀を打つ支えになっていた龍を▲6六龍と捨ててしまうのがまた感触抜群の一手。この手を入れずに▲9五角成とすると、△7六玉の局面が打ち歩詰になってしまいます。
2図
龍捨てを入れて玉方龍を6六に呼んでおけば、このとき▲7七歩が打てるというわけです。主題を隠しておいて、驚きを高めるのが序奏の効果なわけですが、その中で看寿は導入と収束とのつながりを作り、しゃれた捨て駒を入れています。巧みなものです。
1図以下の指し手
▲9五角成 △7六玉 ▲7七歩 △同 龍 ▲同 馬 △8五玉
3図
鑑賞のポイント③ 謎の設定とそのエレガントな解決
龍捨ての効果で▲7七歩以下飛車を手に入れた局面が本作の主題となる局面です。ここで▲8四飛というきれいな捨て駒が見えるかどうかがひとつの考えどころ。
4図
下段に落としてしまえば攻め駒が強くて捕まるように見えますね。以下自然に追ってみましょう。
以下の手順
△8四同玉▲9五馬 △8三玉 ▲8二金 △同 歩 ▲8四歩
△9二玉 ▲8一銀 △9一玉 ▲8二と △同 玉 ▲7二金
△9一玉
5図
ちょっと手数が長いですが、ほぼ変化の余地のない追い方。さて、ここまで進んで打ち歩詰になってしまいます。この打ち歩詰をどのように打開するか? というのが本作の問題設定です。▲8四飛はいい手なのですが、その前に下準備が必要だったのですね。そしてこの下準備が、とんでもなく飛躍した発想なのです。打ち歩詰を打開するにはいくつかの方法があります。まずは攻め駒の力を弱めて歩を打った時に玉が逃げられる空間を確保する方法。しかし本作では、▲8四飛以下の手順に工夫できるところはありません。もうひとつの方法が、歩を打つ9二の地点に玉方の駒を利かせて、△同~と取れるようにするというもの。しかし、そんな都合のいい玉方駒はないように見えますが……。ここで注目するべきは、ぽつんと離れた1六の角。
以下の手順
▲1五飛 △2五飛合
6図
浮いた角を狙う飛車打ち。合駒をしなければならないのですが、1六角を取られる変化に備えて飛車合をしなければなりません。どういうことか、少し進めてみますね。
6図以下、角を取りに行く手順
▲9五馬 △7六玉 ▲1六飛 △2六歩合 ▲7七馬 △8五玉
▲7六角 △8四玉 ▲9五馬
7図
上の図を見ていただければわかるように、2五合が飛車合だとこの手順に入ったとき▲9五馬を△同飛と取ることができます。これで逃れ。6図に戻ります。
以下の手順
▲2五同飛 △同 角
8図
なんだかわかりませんが、飛車を打って飛車を取ったので、角の位置以外何も変わっていません。ここから▲8四飛と打つと上記の理由で打ち歩詰になる事情は同じ。ということで、とりあえず次のように進めてみましょう。
以下の手順
▲9五馬 △7六玉 ▲2六飛 △3六飛合
9図
玉を六段目に動かして、▲2六飛とまた角に当てて打ちます。すると、少し難しいのですが、ここでも角を取る順に備えて飛車合をしなければなりません! 以下確かめてみましょう。
9図以下、角を取りに行く手順
▲7七馬 △8五玉 ▲2五飛 △3五歩合 ▲7六角 △同 香
▲9五馬 △7四玉 ▲9六馬 △8五香合 ▲6六桂
10図
このときは9六の桂を取りに行く手順が生じており、▲6六桂が打てるようになっているのですね。飛車合をしたときにはこれを△同飛と取ることができて逃れているという仕掛けです。9図に戻ります。
以下の手順
▲3六同飛 △同 角
11図
結局この飛車合も取るしかないのですが、これで1六にいた角が3六に動いてくることとなりました。ここで思い出していただきたいことがあるのですが、先ほど追ってみた手順では9二の地点に玉方の利きがなくて詰まないのでした。もし角が5六にいたら? 9二までのラインが見えてくるのではないでしょうか? 幸い、この飛車打ち飛車合の手順は全く同じ理屈で繰り返すことができます。進めてみましょう。
以下の手順
▲7七馬 △8五玉
▲3五飛 △4五飛 ▲同 飛 △同 角 ▲9五馬 △7六玉
▲4六飛 △5六飛 ▲同 飛 △同 角 ▲7七馬 △8五玉
12図
この図を3図と比較してみましょう。
角の位置以外完全に同じであることがお分かりいただけるでしょうか。構想に直接かかわるところ以外は一切不変にすることで、作品の核心部分が引き立っています。
さて、ここまで準備してようやく、▲8四飛以下の手順に踏み込むことができます。
以下の手順
▲8四飛 △同 玉 ▲9五馬 △8三玉 ▲8二金 △同 歩
▲7五桂
13図
鑑賞のポイント④ ▲7五桂!
この手が決め手。そしてこの手に看寿の美学を感じます。この桂は序奏の中で一度跳ねた駒。そして玉の7六~8五の往復運動の中で主要な枠の駒であり続けていました。その桂をもう一度跳ねて捨てるという一手は、捨て駒としてはもちろんふつうの発想なのですが、ここまでの流れを受けて考えると指がしなる一手となります。このように一手一手が有機的に結びついていることで、着手の快感というのは段違いになってきます。そういう工夫を看寿は随所にこらしていて、この▲7五桂はひとつのわかりやすい例と言えるでしょう。これに△同銀は▲7三馬があるので△同香ですが、5六角の利きが9二まで通りましたね。これが看寿の構想した打ち歩詰打開でした。
以下の手順
△7五同香▲8四歩 △9二玉 ▲8一銀 △9一玉
▲8二と △同 玉 ▲7二金 △9一玉 ▲9二歩
14図
あらかじめ想定していた通りに進めて、▲9二歩が打てました。この歩を打つために飛車打ち飛車合で角を連れてきたのです。この手順は、まず想像を超える手順であるという驚きがあります。さらにそれが分かった後でも、テンポよく玉を上下させながら同様の手順を繰り返す点に趣があります。ロジカルな構想を感覚的に愉快な手順で表現する、というのが看寿の真骨頂であり、現代でも人を惹きつける要因なのです。
目的の▲9二歩が打てたあとは収束に入ります。
鑑賞のポイント⑤ 構成の美学(収束編)
看寿は詰将棋というものをただ詰めばいいものだとは思っていません。そしてまた、主題の印象を高めるためには着地の印象が大事であることも知っていました。そのため、主題が終わった後もその主要な登場人物である駒をさばききっての大団円を目指します。
以下の手順
△9二同角 ▲同銀成 △同 玉 ▲7四角 △9一玉 ▲8二金
△同 玉 ▲8三歩成 △7一玉 ▲6二馬
△同 玉 ▲6三銀成 △6一玉
▲7二と △5一玉 ▲5二成銀 まで69手詰
詰上り図
9二で清算した角を7四に打ちます。▲8二金も捨て駒でさばいてしまい、▲8三歩成で口をふさがれていた馬が息を吹き返しました。そして鮮やかな▲6二馬! この馬はずっと主題部分を創出するためのキーの駒だったわけです。それを収束で捨てることによって、盤上から消えることによって、かえってこの馬の印象は強く刻まれることになります。そしてまた、この捨て駒のなんと自然なことか。捨て駒を演出するためだけの駒が足されたりすることなしに、まるで将棋というゲームの本質がもとよりそうであったかのように捨て駒が入っています。そして初手に打った銀が動き出して詰上り、序奏と結末に一貫性が与えられて作品は終わります。詰上り図を見ていただければ、あれだけあった駒がほとんどさばけていることに気づくでしょう。ぜひ改めて初形を見てみてください。各部分の機能がわかってみると、これしかないという美しい配置であるというふうに印象が変わってこないでしょうか。
幼いころの内藤國雄九段が感銘を受けるのも納得の傑作でした。
盤上にはこういう可能性もあるのか、将棋というのはこういうゲームなのか、と驚かされる作品で、これが270年も前の図とはとても信じられないほどです。
こんな驚きがいっぱいの『図式全集 将棋図巧』、ご予約はこちらから!
https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=115465
将棋情報局でも引き続きもう何局かご紹介していきたいと思います。
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さて、前回は将棋図巧の鑑賞のポイントをざっとお伝えしました。先進性、論理性、そして芸術性でしたね。それを踏まえて今回は具体的な作品を見ていこうと思います。
ここで取り上げるのは第1番。少年時代の内藤國雄九段が本作にいたく感銘を受けて将棋の道を志したという有名なエピソードでも知られる名作中の名作です。
『将棋図巧』第1番
鑑賞のポイント① 初形美(?)
古典詰将棋らしく、すごい駒数ですね。これだけでもう解く気も読む気も失せるという人は少なくないはずです。ただ、あえて申し上げるとこの初形はめちゃくちゃ美しいです。ぱっと見ただけでは何を言っているのかわからないと思いますが、作品全体を鑑賞していただくと、この駒1枚1枚がいかに機能的に配置されているか、どれだけ無理なくしかしぎりぎりで成立しているかおわかりいただけることと思います。そのように全部の駒が支えあって一局の詰将棋を成立させているということが、詰将棋におけるひとつの美であるということがお伝えできればと思います。
初手からの手順
▲5四銀 △7五玉 ▲8七桂 △8六玉 ▲6六龍 △同 龍
1図
鑑賞のポイント② 作品構成の美学(序奏編)
初手の▲5四銀が平凡な手ながらまず推しておきたいポイントのひとつです。ネタバレになりますがこの銀、最後にとどめを刺す駒なのです。それを初手に打つ手で登場させておくというのは、間違いなく意識的に行われていると思います。時間差でひとつの駒にもう一働きさせるというのが、駒さばきの感覚を向上させるために看寿が用いるテクニック。そしてこの銀を打つ支えになっていた龍を▲6六龍と捨ててしまうのがまた感触抜群の一手。この手を入れずに▲9五角成とすると、△7六玉の局面が打ち歩詰になってしまいます。
2図
龍捨てを入れて玉方龍を6六に呼んでおけば、このとき▲7七歩が打てるというわけです。主題を隠しておいて、驚きを高めるのが序奏の効果なわけですが、その中で看寿は導入と収束とのつながりを作り、しゃれた捨て駒を入れています。巧みなものです。
1図以下の指し手
▲9五角成 △7六玉 ▲7七歩 △同 龍 ▲同 馬 △8五玉
3図
鑑賞のポイント③ 謎の設定とそのエレガントな解決
龍捨ての効果で▲7七歩以下飛車を手に入れた局面が本作の主題となる局面です。ここで▲8四飛というきれいな捨て駒が見えるかどうかがひとつの考えどころ。
4図
下段に落としてしまえば攻め駒が強くて捕まるように見えますね。以下自然に追ってみましょう。
以下の手順
△8四同玉▲9五馬 △8三玉 ▲8二金 △同 歩 ▲8四歩
△9二玉 ▲8一銀 △9一玉 ▲8二と △同 玉 ▲7二金
△9一玉
5図
ちょっと手数が長いですが、ほぼ変化の余地のない追い方。さて、ここまで進んで打ち歩詰になってしまいます。この打ち歩詰をどのように打開するか? というのが本作の問題設定です。▲8四飛はいい手なのですが、その前に下準備が必要だったのですね。そしてこの下準備が、とんでもなく飛躍した発想なのです。打ち歩詰を打開するにはいくつかの方法があります。まずは攻め駒の力を弱めて歩を打った時に玉が逃げられる空間を確保する方法。しかし本作では、▲8四飛以下の手順に工夫できるところはありません。もうひとつの方法が、歩を打つ9二の地点に玉方の駒を利かせて、△同~と取れるようにするというもの。しかし、そんな都合のいい玉方駒はないように見えますが……。ここで注目するべきは、ぽつんと離れた1六の角。
以下の手順
▲1五飛 △2五飛合
6図
浮いた角を狙う飛車打ち。合駒をしなければならないのですが、1六角を取られる変化に備えて飛車合をしなければなりません。どういうことか、少し進めてみますね。
6図以下、角を取りに行く手順
▲9五馬 △7六玉 ▲1六飛 △2六歩合 ▲7七馬 △8五玉
▲7六角 △8四玉 ▲9五馬
7図
上の図を見ていただければわかるように、2五合が飛車合だとこの手順に入ったとき▲9五馬を△同飛と取ることができます。これで逃れ。6図に戻ります。
以下の手順
▲2五同飛 △同 角
8図
なんだかわかりませんが、飛車を打って飛車を取ったので、角の位置以外何も変わっていません。ここから▲8四飛と打つと上記の理由で打ち歩詰になる事情は同じ。ということで、とりあえず次のように進めてみましょう。
以下の手順
▲9五馬 △7六玉 ▲2六飛 △3六飛合
9図
玉を六段目に動かして、▲2六飛とまた角に当てて打ちます。すると、少し難しいのですが、ここでも角を取る順に備えて飛車合をしなければなりません! 以下確かめてみましょう。
9図以下、角を取りに行く手順
▲7七馬 △8五玉 ▲2五飛 △3五歩合 ▲7六角 △同 香
▲9五馬 △7四玉 ▲9六馬 △8五香合 ▲6六桂
10図
このときは9六の桂を取りに行く手順が生じており、▲6六桂が打てるようになっているのですね。飛車合をしたときにはこれを△同飛と取ることができて逃れているという仕掛けです。9図に戻ります。
以下の手順
▲3六同飛 △同 角
11図
結局この飛車合も取るしかないのですが、これで1六にいた角が3六に動いてくることとなりました。ここで思い出していただきたいことがあるのですが、先ほど追ってみた手順では9二の地点に玉方の利きがなくて詰まないのでした。もし角が5六にいたら? 9二までのラインが見えてくるのではないでしょうか? 幸い、この飛車打ち飛車合の手順は全く同じ理屈で繰り返すことができます。進めてみましょう。
以下の手順
▲7七馬 △8五玉
▲3五飛 △4五飛 ▲同 飛 △同 角 ▲9五馬 △7六玉
▲4六飛 △5六飛 ▲同 飛 △同 角 ▲7七馬 △8五玉
12図
この図を3図と比較してみましょう。
角の位置以外完全に同じであることがお分かりいただけるでしょうか。構想に直接かかわるところ以外は一切不変にすることで、作品の核心部分が引き立っています。
さて、ここまで準備してようやく、▲8四飛以下の手順に踏み込むことができます。
以下の手順
▲8四飛 △同 玉 ▲9五馬 △8三玉 ▲8二金 △同 歩
▲7五桂
13図
鑑賞のポイント④ ▲7五桂!
この手が決め手。そしてこの手に看寿の美学を感じます。この桂は序奏の中で一度跳ねた駒。そして玉の7六~8五の往復運動の中で主要な枠の駒であり続けていました。その桂をもう一度跳ねて捨てるという一手は、捨て駒としてはもちろんふつうの発想なのですが、ここまでの流れを受けて考えると指がしなる一手となります。このように一手一手が有機的に結びついていることで、着手の快感というのは段違いになってきます。そういう工夫を看寿は随所にこらしていて、この▲7五桂はひとつのわかりやすい例と言えるでしょう。これに△同銀は▲7三馬があるので△同香ですが、5六角の利きが9二まで通りましたね。これが看寿の構想した打ち歩詰打開でした。
以下の手順
△7五同香▲8四歩 △9二玉 ▲8一銀 △9一玉
▲8二と △同 玉 ▲7二金 △9一玉 ▲9二歩
14図
あらかじめ想定していた通りに進めて、▲9二歩が打てました。この歩を打つために飛車打ち飛車合で角を連れてきたのです。この手順は、まず想像を超える手順であるという驚きがあります。さらにそれが分かった後でも、テンポよく玉を上下させながら同様の手順を繰り返す点に趣があります。ロジカルな構想を感覚的に愉快な手順で表現する、というのが看寿の真骨頂であり、現代でも人を惹きつける要因なのです。
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看寿は詰将棋というものをただ詰めばいいものだとは思っていません。そしてまた、主題の印象を高めるためには着地の印象が大事であることも知っていました。そのため、主題が終わった後もその主要な登場人物である駒をさばききっての大団円を目指します。
以下の手順
△9二同角 ▲同銀成 △同 玉 ▲7四角 △9一玉 ▲8二金
△同 玉 ▲8三歩成 △7一玉 ▲6二馬
△同 玉 ▲6三銀成 △6一玉
▲7二と △5一玉 ▲5二成銀 まで69手詰
詰上り図
9二で清算した角を7四に打ちます。▲8二金も捨て駒でさばいてしまい、▲8三歩成で口をふさがれていた馬が息を吹き返しました。そして鮮やかな▲6二馬! この馬はずっと主題部分を創出するためのキーの駒だったわけです。それを収束で捨てることによって、盤上から消えることによって、かえってこの馬の印象は強く刻まれることになります。そしてまた、この捨て駒のなんと自然なことか。捨て駒を演出するためだけの駒が足されたりすることなしに、まるで将棋というゲームの本質がもとよりそうであったかのように捨て駒が入っています。そして初手に打った銀が動き出して詰上り、序奏と結末に一貫性が与えられて作品は終わります。詰上り図を見ていただければ、あれだけあった駒がほとんどさばけていることに気づくでしょう。ぜひ改めて初形を見てみてください。各部分の機能がわかってみると、これしかないという美しい配置であるというふうに印象が変わってこないでしょうか。
幼いころの内藤國雄九段が感銘を受けるのも納得の傑作でした。
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