【天衣無縫 佐藤康光勝局集】佐藤康光先生インタビュー|将棋情報局

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【天衣無縫 佐藤康光勝局集】佐藤康光先生インタビュー

発売間近の『天衣無縫 佐藤康光勝局集』に掲載されている将棋について、佐藤先生にインタビューをしました!

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「よろしくお願いします」
――先生が積み上げてきた1,000勝の中から選りすぐりの100局を収録した、『天衣無縫 佐藤康光勝局集』に掲載されている将棋についてお話を伺えればと思います。この中でも特に思い出深い将棋はありますか?
「タイトルを獲得した将棋はどれも思い入れがあります。ファンの方からよくお話いただくのはやっぱり△1二飛(第52局)とか、▲5七玉(第80局)の将棋ですね」

――見た目のインパクトがすごいですからね。▲5七玉は事前から準備されてたんですか?
「考えてはいました。なにかあったらひどいですが、▲4五角と打てば△3三桂が利かない(▲同銀成△同金▲6四桂で王手飛車取り)ので大丈夫だとは思っていました」

――どうしても上記2局のような序盤が奇抜な構想の将棋に注目が集まりますが、今回の勝局集は普通(?)の形の将棋のほうが多いですよね。
「そうなんですよ。普通の将棋が実は多い。皆さんのイメージを壊して申し訳ないです(笑)。並べれば分かっていただけると思いますが、実は本格派・正統派の将棋を指しています。本書には載ってないですが、最近も雁木だったり、▲4八金型の角換わりを指したりもしています」
――序盤作戦の幅を広げた理由は何だったのですか?
「羽生さんに負け続けた影響です。三間飛車を指した第51期王将戦第1局(第40局)ころから変え始めました」
――端の3段ロケットが有名なあの将棋ですね。


会心の将棋

――思い出の将棋はタイトル獲得のものとのことですが、では会心の将棋はどうでしょうか?
「自戦記を書いた将棋だと森内さんとの将棋(自戦記第8局)です。藤井さんとの相穴熊の将棋(第19局)や、第76期棋聖戦の防衛局(第53局)もそうですね。丸山さんとの第58期名人戦第5局の横歩取りの将棋(第36局)も会心でした」
――▲8八歩が新工夫と解説にありました。

「そのころは後手が有力と見られていた形で、▲8八歩を初めて指しました。第1局で同じ形を指して負け。終わった後から考えて考えてひねり出した手です。丸山さんは当時序盤は時間を使わずにバンバン指していたのですが、この手に対して長考されました。それで安心したのを覚えています。▲8八歩はその後長く指されたので、びっくりしました」
――定跡となったわけですね。
「そうですね。その後連敗で名人位は失冠してしまいましたが……。他には渡辺さんとの棋聖戦(第68局)は△5四銀が会心の構想でした。手で言えば第78局の井上戦の△2一角も会心です」

――解説には「意表の遠見の角で妖しく迫る」とあります。
「遠見の角を一段目に打つことは珍しいですよね。一方にしか利かなくなってしまうので。二段目が多そうです。妖しく迫ると解説されていますが、この手を指したときは指がしなりました(笑)。しかし年をとると会心と言える将棋は中々指せなくなります。最近は勝つにしてもねちっこく勝っているだけなので……」

振り飛車調の将棋

――ここからは振り飛車に焦点を当ててお話を伺います。本書の前半は相矢倉などの定跡型の将棋が多い中、陽動振り飛車(第23局、37局)が登場します。

「当時は有力と考えていました。羽生さんに対する連敗を止めた将棋もそうでしたね。陽動振り飛車は相手に急戦をされる心配がないので、作戦を限定させるメリットがあります。また、当時は手損を重視していたので、相手が穴熊なら銀の動きで手損をさせているのが大きいと見ていました。こちらも美濃に囲いなおすと6三の銀を△7二銀と引くので手損ですが、木村美濃なら損をしません。先手振り飛車+1手得となります。さらに言えば6六歩はプラスが小さい手です。本当は穴熊なら▲6六銀としたいですし、6七の空間が空いてしまうマイナスがあります。」
――その後は角交換振り飛車に参入しました。
「当初は穴熊に囲う将棋を良く指していました。田村さんとの一局(第58局)も穴熊でしたね。相穴熊になれば相手の8八銀が手損になります。ですが、穴熊は右桂が攻めに使えないので自分から動けないのが不満で、指さなくなっていきました。千日手狙いにするなら他の作戦を選びます」
――近年は角換わりの後手番などで千日手狙いの作戦が増えていますが、先生は千日手狙いはしないんですね。
「そうですね。余談ですが、千日手が好きな人は将棋の結論が千日手と思っている人なんですよ」
――なるほど! 将棋の結論がそうなら目指すのも自然と。ちなみに先生の結論は?
「若い頃は真面目だったので、先手勝ちだと考えていました。ですが今はかつてほどの探究心がないので、強いほうが勝つ、が結論です(笑)」
――間違いないですね(笑)。しかし、陽動振り飛車や、ダイレクト向かい飛車を含む角交換振り飛車は指されるのに、ノーマル振り飛車は指されないですよね。本書でも前述の三間飛車しか登場しません。
「本当は指してみたいのですが。藤井システムとか、升田式石田流とか。以前出した『佐藤康光の石田流破り』(日本将棋連盟)のまえがきでいずれ石田流を指したいと書いたのですが、まだ指せてません」
――なぜ指されないのでしょうか。
「いや~振り飛車党の方は辛口なので、何を言われるか分からないから……(苦笑)。最近は三間飛車藤井システムにも興味があって本は買ったのですが、買っただけになってしまっています。つんどくです」
――佐藤和俊先生の本ですね! ありがとうございます。いつか指していただければうれしいです!

実は論理的

――振り飛車の将棋といえば、2手目△3二飛で新手を出した、第24期竜王戦1組の対木村戦(第79局)の水面下の変化には驚きました。10手目の△3三角に本譜は▲4八銀でしたが、▲3三同角成には△同銀▲6五角△7四角▲同角△同歩▲7五歩△7三玉!▲7四歩△同玉!! こんなの思い浮かびません。


「感想戦で木村さんにも驚かれました(笑)。相手の玉が7八にいるから成立しそうです。でもこれはちゃんと説明できて、この将棋は玉を8二に囲いたい。△3三同角の局面から△7四同玉までで玉は0手で6二から7四に移動していますよね。これを6二玉→7二玉→8二玉と囲っても、7四玉→7三玉→8二玉と囲っても同じ2手で違いは7筋の歩が切れているだけなので損得はありません。結構論理的なんです(笑)」
――説明されて理解はできますが……。う~ん。

感覚を身につけてもらえれば

――ここまでありがとうございました。ファンの皆様にメッセージをお願いします。
「自分の人生、打ち込んできたものが詰まっている一冊です。実戦集なので初級者の方には難しいですが、理解するというよりは感覚を手に沁みこませ、感覚を掴んでもらえたらありがたいです。将棋は最終的には読みのゲームですが、感覚を磨くのも大事。じっくり並べる方は手を一手一手読みながら、さらっと並べる方は感覚を身につけてもらえればと思います」
――今日はありがとうございました!  お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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