三間飛車で穴熊撃破 スペシャリストが魅せる美技・巧技|将棋情報局

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三間飛車で穴熊撃破 スペシャリストが魅せる美技・巧技

石田流からの攻めなど、軽いさばきが魅力でアマチュアにも人気の高い「三間飛車」。玉の堅さで美濃囲いを上回る「居飛車穴熊」の猛威に押されがちではありますが、一部スペシャリストともいえる三間飛車党がさまざまな対策を編み出し、プロ間でも今日に至るまで指し続けられています。

このコーナーでは、プロ公式戦で現れた三間飛車VS居飛車穴熊における、スペシャリスト達の美技・巧技をご覧いただきます。(段位はすべて対局当時のもの)

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軽手 鋭手で穴熊攻略

最初に登場いただくのは、現代の若手三間飛車党といえばこの人、山本博志四段。▲杉本和陽四段―△山本四段戦(第62期王位戦予選/令和2年9月3日)から。

先手の持久戦志向に対し石田流から早い動きを見せ、穴熊が未完成のうちに戦いを起こして迎えた第1図。

【第1図は▲4五同飛まで】

未完成とはいえ、遠い先手の穴熊玉。4五の地点で銀交換が行われたこの局面は飛の成り込みや▲5三歩成を見せられており、振り飛車が忙しいようにも見えます。しかし、山本四段はひるみませんでした。

第1図からの指し手

△5六歩(第2図)

【第2図は△5六歩まで】

これぞ振り飛車、これぞ三間飛車と言いたくなる味のよい突き出し。穴熊玉は遠いものの金銀2枚で薄く、むしろ後手の一段目に金が並んだ美濃囲いのほうが堅さでまさってるので角交換は大歓迎ですし、第2図は、▲5三歩成よりも後手の△5七歩成のほうが厳しい局面になっています。第2図以下は▲6五銀△7七角成▲同桂に、飛車取りにかまわず△6九銀とからんで寄せに向かい、最後は第3図から銀の利きに打つ△6六角という大技(飛車取り+詰めろ、▲6六同銀は△8八銀まで)を決め手にして勝利を掴んでいます。

【第3図は▲7七銀まで】

続いて、関西が誇る実力派振り飛車党のこの方の一戦。▲阿部健治郎七段―△阪口悟六段戦(第80期順位戦C級1組/令和3年7月13日)から。

第4図は、先手が後手の4四の飛を狙い、6八にいた角を上がった局面。阪口六段は狙っていました。

【第4図は▲7七角まで】

第4図からの指し手

△5七桂不成(第5図)

【第5図は△5七桂不成まで】

飛車当たりにかまわず金の両取りに桂を跳ねたのが鋭い一着。▲5七同銀は△4九飛成があるため先手は▲4四角と飛を取るよりありませんが、そこでも緩まず△6九桂成と先手玉に近いほうの金を取り、以下▲1一角成△7八金▲2八飛△6八銀(第6図)とベッタリ張り付き、穴熊を攻略しています。

【第6図は△6八銀まで】

じっくり戦うのも一策

3局目は、西山朋佳女流の将棋から。令和2年6月23日、奨励会員だった当時に三段枠で参加した第51期新人王戦本戦の西山三段―青嶋未来六段戦。

角の頭の歩を狙って▲6七銀~▲5六銀~▲4五銀(後手なら△6五銀)と進出するのも、有効な居飛車穴熊対策のひとつ。西山三段もその順を採用し、迎えた第7図。

【第7図は△8四飛まで】

第7図からの指し手

▲3六歩 △同 歩 ▲4五銀 △2二角

▲3六銀 (第8図)

3四に出た銀を自玉方面へ引き上げ、手厚い陣形を築きました。銀を前線へ繰り出すこの戦法は速攻狙いに見えますが、穴熊側が的確に対処した場合はじっくりとした戦いに落ち着く傾向にあるようです。相手は青嶋六段。そう簡単に崩れるわけもありません。数手進んだ第9図は、完全に先手の厚さ、後手の堅さという図式で、しっかりバランスが取れています。派手な手ではありませんが、居飛車穴熊への対抗策としてこういう考え方もあるということをぜひ知っていただきたいのと、陣形の美しさをご覧いただきたく、手順を紹介しました。

【第9図は▲3五歩まで】

将棋はこの後、難解なねじり合いが続きましたが、最後は西山三段が強敵に競り勝っています。

石田流、全軍躍動の図

お次は、ネットTVでの何だか「ゆるめ」な解説が最近話題のこの方。▲井出隼平四段―△中座真七段戦(第91期ヒューリック杯棋聖戦1次予選/令和元年5月29日)。

後手の居飛車穴熊に先手も金銀4枚の銀冠で対抗し、自ら積極的に動いて迎えた第10図。振り飛車党なら知っておきたい手筋があります。

【第10図は△5三銀まで】

第10図からの指し手

▲7二歩 △同 飛 ▲7五飛 (第11図)

【第11図は▲7五飛まで】

▲7二歩が頻出のゆさぶり。▲7一歩成を許すわけにはいかないので後手は△同飛と払いますが、軽く▲7五飛とひとつ浮いた局面は、振り飛車側のさばきに見通しがついた格好です。

数手進んだ第12図。左右の桂が五段目に進出し、全軍躍動の図となりました。将棋はこの後も先手が緩まず攻めて押し切っています。

【第12図は▲2五桂まで】

ファンをひきつける手順

最後はこの方。三間飛車を語る上で、この方を素通りするわけにはまいりません。居飛車穴熊に三間飛車から速攻を仕掛ける「コーヤン流」を編み出し、アマチュア三間飛車党にとってはカリスマ的存在ともいえる中田功八段の一戦から、らしさマックスの手順をご覧いただきます。▲中田功八段―△杉本昌隆八段戦(第7期叡王戦段位別予選八段戦/令和3年9月10日)から。

【第13図は△8六歩まで】

第13図は、有力なコーヤン流対策とされる△5五歩の突き捨てに対し、先手が8筋を放棄して果敢に▲同角と取り、ならばと後手が△8六歩と突いた局面。アマチュアならとりあえず▲同歩としてしまいそうな局面ですが、カリスマにはそんな平凡な手は似合いません。

第13図以下の指し手

▲6四歩 △同 歩 ▲2五桂 △8七歩成

▲1三桂成 (第14図)

【第14図は▲1三桂成まで】

8筋の歩の成り込みを許し、その間に桂馬をダイブ! 穴熊の玉頭を直撃しました。この爽快さがコーヤン流の魅力です。対局はこのあと、杉本八段の的確な対応によって先手が形勢を損ねてしまいましたが、アマチュア同士の対局であれば、王手の掛からないガチガチの穴熊が終盤まで残っているよりは、桂ダイブから角筋+端攻めで襲い掛かるのは実戦的に有力かと思いますし、何よりこの奔放な手順をぜひ見ていただきたいと思い、紹介しました。

「実戦的に」と記しましたが、この対局、最終盤に中田八段が一瞬のスキを突き、第15図の▲2二銀と打つ鋭手が出て先手の逆転勝ちとなりました。第15図は、次の▲3三桂成(△同香や△同角は▲2五金で詰み)が受けづらい局面です。

【第15図は▲2二銀まで】

三間飛車による穴熊攻略60局+「本当に」ためになるエッセー24編を収録

6月下旬に発売となった『三間飛車勝局集』は、プロ公式戦における「三間飛車」VS「居飛車穴熊」で、三間飛車が勝利を収めた対局のみを60局収録した実戦集となっています。

このコーナーで手順の一部を紹介した5局は、すべてこの『三間飛車勝局集』に収録の対局から。本書にはもちろん、初手から終局まで、すべての指し手が掲載されています。ポイントとなる指し手には解説が付き、棋譜を並べている途中で意味のわかりづらい手が出現しても、納得しながら読み進めていくことができます。

キャプション:※▲井出△中座戦の、手順を紹介した付近の解説

60局の戦型別内訳は以下の通り。

第1章 先手石田流 19局

第2章 後手石田流 24局

第3章 ▲4五銀・△6五銀 4局

第4章 コーヤン流 6局

第5章 その他 7局

石田流に重きを置きつつ、他の戦型もカバーしています。

特筆すべき点は、「エッセー」が非常に充実しているという点。棋書のエッセー、コラムというと、棋士の日常やちょっとしたエピソードなど、悪く言えば「ヒマネタ」的なものが多いのですが(それも楽しいのですが)、本書に収録されている24編のエッセーは、本当に、本当に半端ではありません。どれもためになるものばかりです。「今日は棋譜を並べる気力がないなー」という日でも、これを読むだけでもかなり良い勉強になるでしょう。ためになるエッセーのラインナップは以下の通りです。

居飛車穴熊に手を焼いている三間飛車党の方をはじめ、広く振り飛車党の方に、また逆に、プロが考えた三間飛車対策を知りたい居飛車党の方にもおすすめできる一冊です。ぜひ1局1局ご堪能いただき、棋力アップを目指してください。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)

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