どんな戦型にも対応可能 知っているようで知らない棒銀の世界を完全詳解|将棋情報局

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どんな戦型にも対応可能 知っているようで知らない棒銀の世界を完全詳解

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「将棋を始めて一番最初に覚えた戦法は何ですか?」

この質問に、多くの方はこう答えるのではないでしょうか。

「棒銀」

間違いなく、これが一番人気と思われます。

棒銀は単純なわかりやすい攻め筋ながら決まった時の破壊力が抜群で、特に一目散に相手の角頭めがけて銀を繰り出してゆく「原始棒銀」は、将棋の攻めの基本となる「ある地点へ駒の利きを足す」攻めなので、楽しみながら基本力がつく、最初に覚えるにはとても適した戦法なのです。

本書『1冊でわかる!さばいて勝つ棒銀の基本』の著者は居飛車党本格派、子ども教室を開設、奨励会に入会したお弟子さんも多く、指導にも定評のある飯塚祐紀七段。人気戦法「棒銀」を、戦型別にわかりやすく解説してくださっています。

章立ては以下の通りです。

飯塚七段は「まえがき」にこう記しています。

「戦型については幅広く取り上げました。(中略)豊潤な棒銀の世界をお楽しみいただければ幸いです。」

「豊潤」。棒銀は狙いが明快ですが、その実、変化は無限に広がっているようです。

明快にして破壊力抜群 原始棒銀

第1図は、第1章で取り上げられている「原始棒銀」の基本図。

▲3八銀~▲2七銀~▲2五銀と、2八の飛車を追い越して「棒」のように銀を繰り出していきます。狙いは相手の弱点である角頭、2三の地点です。

【第1図は▲2五銀まで】

歩を合わせてさらに前進を目指して…

【第2図は▲2四歩まで】

敵陣が目前になりました。

【第3図は▲2四同銀まで】

そして、突破!

【第4図は▲2三銀不成まで】

(飯塚七段の解説:「▲2三銀成が自然に見えます。△同金ならば▲同飛成で大成功。しかし、▲2三銀成に△4四角▲3二成銀△同銀(参考図・略)と対応されると飛車を成れず、決定打には至りません。▲2三銀不成が大事な手筋。」)

先手の原始棒銀が後手陣を攻略しました。第4図でもすでに成功と言っていい局面ですが、さらに△4四角▲3四銀成△2二角と進めた第5図での好手は、ご自身で考えてみてください。

【第5図は△2二角まで】

実戦で相手が1手遅れで同じように棒銀を繰り出してくれて、こんなにうまくいくことはめったにないと思いますが、その破壊力をご覧いただくために紹介しました。本書には後手の正しい対応についても解説がありますので、知りたい方は手にとってみてください。

伝説の▲5二銀も棒銀から生まれた

次は、「第2章 角換わり棒銀」より、基本的な仕掛けをご覧いただきます。

後手の1四歩、3四歩に阻まれて5段目に銀が前進ができない時は、第1図のように端から動く攻め方を推奨しています。

【第1図は▲1五歩まで】

第1図からの指し手

△1五同歩▲同銀△同香▲同香

(第2図)

【第2図は▲1五同香まで】

   

(飯塚七段の解説:▲1五同銀が急所の一手。ここを▲同香としては△1三歩(参考図・略)で振り上げた拳の下ろしどころがありません。何はともあれ2六銀を泣かせないように指すのが棒銀の心得です。)

銀香交換の駒損となりましたが、敵陣突破が見えてきました。

第2図からの指し手

△1三歩▲1二歩△2二銀▲1九香

(第3図)

【第3図は▲1九香まで】

(飯塚七段の解説:▲1二歩が「たれ歩」と呼ばれる手筋です。▲1一歩成でと金を作れば桂を取れますし、1筋への香成も見えてきます。)

棒銀側の1三地点における優位が明らかになってきました。

第3図からの指し手

△6三銀▲6八玉△5二金▲1一歩成

△同銀▲1三香成△同桂▲同香成

(第4図)

【第4図は▲1三同香成まで】

(飯塚七段の解説:▲1一歩成は歩を捨ててもったいないようですが、形を乱す効果があり、損になりません。△同銀▲同香成で攻略の足掛かりができました。2六銀が成香に選手交代した格好になりました。)

ついに後手陣を攻略しました。

本書ではさらに、ここから後手が△1二歩と頑張ってきた時の指し方が紹介されています。おとなしく成香を引くか、それとも? 興味のある方は読みを進めてみて下さい。

ところで、皆様は「伝説の▲5二銀」をご存知でしょうか。1989年のNHK杯、▲羽生善治五段△加藤一二三九段(いずれも当時)で指された絶妙手! 本書では、第2章の実戦解説編として、この名局を、仕掛けの局面から▲5二銀までを取り上げています。この1局、戦型は角換わり棒銀、ここで紹介した攻め筋が採用されたものだったのです。

▲5二銀は知っているけれど、「どうしてそうなった?」かはよく知らないなあ…という方には、流れるような手順をぜひご確認いただきたいです。

アマチュアで人気の嬉野流、雁木にも棒銀一直線

本書には、アマ強豪が編み出した「嬉野流」や、流行の「雁木」に対する棒銀の指し方も紹介されています。

下図のような、独特の布陣「嬉野流」に苦しめられている方は、多いのではないでしょうか。

【図は嬉野流】

詳しい手順はここには書きませんが、飯塚七段は、嬉野流には飛車先の歩を交換せず、いち早く銀を繰り出してゆく速攻を推奨しています。

また、上部が厚い雁木に対しても、臆することなく棒銀で対抗しています。さまざまな攻め筋が紹介されていますが、ここではその一部を、実際の紙面で紹介しましょう。

▲2四歩の合わせから3三地点で精算し、歩の利きに打つ▲4五桂まで、きれいに攻めが決まりました。まさに剛腕、という印象の攻め筋。とにかく攻めて攻めて攻めまくりたい、というかたにはぴったりの指し方ですね。この他にも、相手の応手ごとに正しい攻め方が解説されています。

■対四間飛車棒銀の基本と新機軸

「第6章 対四間飛車 定跡編」と「第7章 対四間飛車 新研究編」の2章に分けて、四間飛車に対する棒銀の指し方もカバーしています。

図は棒銀対四間飛車、仕掛けの局面。

【基本図】

ここで、すんなり棒銀を5段目に進出させる△3五同歩は良くない、と教わるものですが、▲同銀から指し手を進めてゆくと、いつの間にか四間飛車にさばかれていた、というのもよくある話です。本書では、棒銀側の失敗例をふまえた上で、ではどう指すのが正しいのかが詳しく示されています。

さらに、定跡型の中盤から終盤まで、さらに言えば多くの分岐で最終盤といえる局面まで、飯塚七段独自の研究をふんだんにふまえ、詳しく解説がなされています。この内容が、四間飛車対急戦の定跡書ではなく、棒銀の定跡書のひとつの章にまとめられていることが、本書を読んで一番驚いた点です。

「第7章 対四間飛車 新研究編」では、下図のような布陣から、銀を4六へ使ってゆく「ななめ棒銀」を紹介しています。

飯塚七段いわく「本章では令和の世にふさわしい、新しい速攻を紹介します。厳密な意味での棒銀ではないのですが、右銀を繰り出すシンプルな狙いは、棒銀の近似と言っていいでしょう。」とのこと。

第1図からの▲4五桂や、第2図からの▲4五銀など軽快な攻め筋が魅力で、実戦ですぐに試してみたくなる戦型です。

【第1図は△3五同歩まで】

【第2図は△7四歩まで】

棒銀の魅力を「広く」「深く」「わかりやすく」

『1冊でわかる!さばいて勝つ棒銀の基本』は、本稿では取り上げなかった一手損角換わりに対する棒銀も含め、広範囲な戦法に対する棒銀の指し方が収録されています。中終盤の難解な局面も出てきますが、途中図、参考図が多めなので、初級者~中級者の方でも読み進めることができるかと思います。

攻めて勝ちたい、棒銀を極めたいという方には特におすすめできる定跡書です。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)

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