AIと共に三間飛車の定跡を再確認|将棋情報局

将棋情報局

AIと共に三間飛車の定跡を再確認

人間の常識を覆すAI流新定跡

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中

『さくさく三択で学ぶ AI三間飛車の新定跡』は、アマチュアのしめりけё氏による、三間飛車のあらゆる変化をAIによって分析した新しいタイプの定跡書だ。

著者は世界コンピュータ将棋選手権で上位の成績を誇る「白ビール」が通称のKristallweizen(以下白ビール)を「師匠」と慕い、白ビールが編み出した指し手をtwitterで紹介し、電子版の著書もある。初の紙版書籍(※電子版もあり)上梓となる本書は、白ビールに三間飛車に限定してなんと100億以上の局面を読ませ、そこから、急戦から持久戦に至るまでの約200局面、で、白ビールが有力としている指し手を紹介している。局面はすべて三択の問題形式となっている。

この局面のようなおなじみの定跡型もあれば、終盤にまで踏み込んだ難解な局面もある。山本博志四段の推薦文によれば、「正直高段者にも難しいと思います(笑)」とあり、確かに定跡書としてはかなりの難度だ。「三間飛車よし」、もしくは「互角」、「難解な形成」で落ち着く入門書的定跡書とは一線を画する。ただし、三択形式というありがたい「ヒント」があるので、あらゆるレベルの愛棋家におすすめできる。

初心者~初級者は三択すべてから3手(相手の手→自分の手)、難しければ2手(相手の手だけを読んで、指しやすいかどうかを考える)まで読みを進めていただきたい。三択の中にはあきらかにおかしいと思える手が含まれ、実質二択では? と思える局面もあるので、山本四段の言葉に臆せずどんどん読み進めていこう。もちろん上級者や高段者はそれ以上の5手、7手を読む、もしくは三択を見ずに局面を考えるという方法もおすすめだ。

ここでは、著者が最も「AIらしさ」を感じた局面を1つ紹介する。

 ■白ビール師匠は怖がらない

図は三間飛車対急戦の定跡型の変化のひとつ。

問題図1

この局面は何十年も前から定跡として定着していて、筆者自身、問題図の前問(参考図)の▲8七飛という手を知ったときの衝撃も相当のものだった。

参考図

問題図での白ビールの選択は、その衝撃をはるかに超えた。ここでは桂馬、将来の成桂の脅威から大駒を遠ざける▲5九角がひと目の対応で、実際、プロアマ問わず長らくそう指されてきたのである。それが「常識」なのである。しかし、白ビールの選択はその数十年来の「常識」をいともたやすく凌駕する。 (※▲5九角も、以下難解な形勢です)

解答図1

▲8八角。ひとことで感想を言えば、「感覚が悪い手」である。もうひとこと付け加えれば、「人間味を感じさせない手」である。AIなのだから無理もない。白ビールは、小駒の成桂で大駒の飛角をまとめて攻められてしまいそうな形を怖がっていない。次問で白ビールの意図がわかる。

問題図2

解答図2

当然の△8七桂成には桂を取ってあっさり角を取らせる▲6五金。そして△8八成桂に自然に▲5九飛とかわした局面は、飛車が敵陣の急所に利き、6五金も攻めの土台となりそうで、「銀2桂歩4」の豊富な持ち駒もあって攻めに困りそうにない。8八の成桂が後手の飛角のスムーズな活用を妨げているのも見逃せない。数手進めれば、確かに先手が指せそうだ。しかし、やはり▲8八角は人間には指しづらい手であることは間違いない。本書にはそんな手が多数ちりばめられている。

 ■三間飛車の定跡を広範囲にカバー

最後に、目次を紹介する。

目次

急戦は本稿で紹介したトラディショナルな定跡型から、AI発祥の定跡である対エルモ囲いまで、持久戦も左美濃や穴熊、銀冠など、三間飛車のあらゆる形をカバーしている。特筆すべきは石田流だけで100ページ以上を割いている点で、あらゆる居飛車側の対策について変化が記されている。△8四歩が突いてあるか突いてないか、2つの局面でどういう違いがあるのかなどは興味深く読んだ。解答、変化は記載しないので、ご自身でお考えいただきたい。

図は▲6二金まで(1)

図は▲6二金まで(2)

■定跡の再確認と新たな発見に

インパクトの強い局面を紹介したが、本書は冒頭に記載したような基本定跡の問題もあり、読めば定跡の再確認にもなる。もちろん、AIならではの指し手も紹介しているので、新たな発見があることも間違いない。三間飛車党はもちろん、振り飛車党、居飛車党問わず、多くの方に手に取っていただきたい定跡書だ。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。