第2章 組織の目標にあった業務内容になっているか? ~サービスストラテジ~(1)|Tech Book Zone Manatee

マナティ

新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!

第2章 組織の目標にあった業務内容になっているか? ~サービスストラテジ~(1)

IT知識不要!、小説型ITILの指南書『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』から、「第2章 組織の目標にあった業務内容になっているか? ~サービスストラテジ~」の前半を紹介します。

ウチって、そもそも何をする部署なんでしたっけ?
 ~京子の疑問~

<大井の素朴な疑問>

「ところで1つ質問。購買部って、そもそも何をやる部署なんだっけ?」

 大井が唐突に質問した。 

「何をやる部署…って、大井さんルミパルに6年もいて知らなかったんですか!?」

「いや、そういうことじゃなくって。購買部にもビジョンや目標ってのがあるだろう。それは何かが知りたい」

「ビジョン、目標ですか…。それはですね…ええと、あ~」

 京子は答えに詰まった。いままで自分が所属する購買部が何をやっている部署かはなんとなく理解していたものの、ビジョンや目標など意識したことがなかったからだ。

「いいかい。どんな会社にもビジョンやミッション、そしてビジネス目標がある…」

 大井はまた絵を描きはじめた。

「そして、そのビジネス目標を達成するために、各部署が存在してさらにその部署…つまり宣伝部なら宣伝部の、購買部なら購買部のビジョン、目標、役割が決まるわけだ」

 さらに続けた。 

「その部署で行われているすべての業務すなわちサービスは、その部署のビジョンや目標を達成するためのものでなくてはならない。ひいては、会社の事業目標を達成するためのものではなくてはならないってわけだ」

 大井の説明を聞き、京子は自分の視点を高くできそうな気がして少しワクワクした。

「友原はこれから購買部全体の業務プロセスを改善するリーダーになるんだから、いままでのような一作業者の視点で仕事してちゃダメだ。購買部が会社から何を期待されていて、どこを目指していて、何を達成しなければならないのか。まずそれを知ることからはじめよう」

「わかりました! わたし、明日さっそく購買部のビジョンと目標を確認してみます!」

「よし。確認したら教えてくれ。ITILのプロセスと考え方をこれからみっちりと伝授してやるぞ。おっと、もうこんな時間だ。今日はお開きにしよう」

 大井の一言で、この日はお開きになった。

︱大井さんって、実はアツい人だったんだ。

 店を出たとき、いっそう冷たい空気が京子の頬を打った。しかし、いつの間にか京子の心はそれを感じないほど熱くなっていた。

 

ビジョンと目標の確認
 ~わたしたち、どこに向かって走りましょうか?~

■ここで学習すること

 その企業や部署のビジネス戦略・目標を確認し、整合の取れた業務(サービス)設計を行う重要性。

 

☆こんな悩みを解決しよう!

 ・業務(サービス)の内容や方向性が、会社の期待・方向性に沿っているかわからない。

 

* * *


 

<京子、朝イチのオフィスにて>

 翌日、京子はさっそく購買部のビジョンと目標を確認することにした。朝一番のりで出社し、袖机の引き出しの底で眠っていた書類をひっくり返した。

「あった、あった!」

 

20XX年度 購買部オリエンテーション資料

 

 表紙にうっすらとつもったホコリをはたいて、その1ページ目を開いた。そこにはこう書かれていた…。

 

【購買部のビジョン】

ルミパル全社の調達における取引先および価格の決定権を有し、物品およびサービスを市場競争力のある価格で調達し、社内に提供する組織になる。

 

【購買部の目標】

(1)ルミパルの各部署が取引先に直接発注することを禁止し、購買部による発注率100%を達成する。

(2)調達費削減 20XX年度比、30億円を目指す。

 

「なるほど。これが購買部のビジョンと目標か!」

 誰もいないオフィスでそうつぶやき、京子はビジョンと目標をサラサラと手帳に書き写した。今日の午後、大井に相談しに行こう。

 

* * *

 
 

 ITILはビジネス目標の達成を意識した、ビジネス志向のマネジメントフレームワークです。

 

 業務プロセス改善や効率化に取り組む場合、まず最初に会社あるいは自分の所属する部署やチームのビジョンと目標を必ず確認してください。ビジョン・目標はその組織の目指す方向性です。

 たとえば、「おいしいうどんの味を、たくさんの人々に伝えたい!」というビジョンを掲げたうどん屋さんがあったとします。しかし、メニューを見てみると丼物ばかりで、肝心のうどんのメニューがほとんどない。これではうどんの味を多くの人に伝えたくても、伝えられないですよね。サービスのラインナップが、ビジョンの実現に寄与していないのです。

 

 すべてのサービスはビジネス目標を達成するために存在し、機能している必要があります。もし、あなたのしているお仕事が会社のビジョンに反していたり、ビジネス目標の達成に寄与しないものであったら? そのブレを修正しなければなりませんよね。よって、あなたがまずすべきことはビジョンと目標の確認です。あなたの部署やチームの業務(サービス)が「ビジョンに反していないか?」「目標を達成するために存在・有効に機能しているか?」をチェックしましょう。もしブレていた場合はどうするか? それは「サービスデザイン」(第3章)でお話しします。

 

サービスポートフォリオ管理
~必要なサービス、揃っていますか?~

■ここで学習すること

 ビジネス目標に沿って、業務(サービス)の過不足を確認し、「選択」「集中」および「力加減」を適切に行うための考え方。

 

☆こんな悩みを解決しよう!

 ・業務(サービス)の「過不足」「無理」「無駄」を把握しコントロールしたい。

 ・各業務(サービス)への力加減を考えたい。

 

* * *

 
 

<無駄な仕事…ってあるんじゃないの?>

 昼休みの後、京子は購買部の2つ上のフロアにある情報システム部を尋ねた。ITが苦手な京子には近寄りがたい場所の1つだったが、これからは大井の指導を請いに足しげく通うことになりそうだ。情報システム部の居室の扉は窓がついておらず、外から中の様子が見えない。また情報システム部員専用のICカードを扉の脇のパネルにかざさないと、扉が開かないようになっている。さすが情報を取り扱う部署だけあって、セキュリティが厳重だ。

 京子が扉の前でウロウロしていると、リュックを肩から引っさげた大井があくびをしながらやってきた。

「んあぁ、友原。おはよ」

「おはようございます…って時間でもないですけど、先輩いま出社ですか?」

「ああ、うちはフレックスだからね。いまそんなにやることもないし」

 大井はまたもやあくび交じりに答えた。昼過ぎになってようやくに出社するところが、いかにもシステムエンジニアって感じがする。よく周りを見回すと、いま出社したばかりですって雰囲気の社員がほかにもちらほらいた。そういう部署なのだろう。

「大井さんが昨日わたしに出した宿題、やってきたんですよ!」

「……宿題…って何だっけ?」

 大井は目をこすりながら、とぼけた表情で聞き返した。

「もう! 購買部のビジョンと目標を確認しろって言ったじゃないですか!」

「…おお、そうかそうか! はやいな。じゃあ、そこの応接コーナーで話を聞こうか」

 2人は、情報システム部のはす向かいにある応接コーナーのソファに並んで腰を下ろした。

 

 京子は手元のメモ帳をみながら、朝確認した購買部のビジョンと目標を大井に説明した。

「…なるほどよくわかった。ところでさ、購買部の業務…すなわち「サービス」って有効なものだろうか?」

「有効って?」

「いま友原が確認してくれた、購買部のビジョンや目標を達成するための価値を出しているかってこと。平たく言えば、『無駄なサービスもあるんじゃないの?』ってこと」

「どんな仕事にも無駄なことなんてない!って同じチームの先輩が言ってたわ!」

 京子はキリっと姿勢を正して答えた。

「おっと、それは失礼しました」

「まあ、そうはいっても、『これ何のためにやっているの』って仕事って結構あると思うわ」

「そういう仕事に、人手やお金をかけるってどう思う?」

「無駄ですよね」

「そうなんだよ。部署のビジョン、目標の達成のために力を入れるべきサービス、あるいはやめるべきサービスは何か? ヒト、モノ、カネを投入すべきサービスは何か? こういったものを顧客と協議して判断や合意ができるようにすることが重要なんだ。その活動を、サービスポートフォリオ管理っていう」

「サービスポートフォリオ…って何ですか?」

「サービスを一覧化したリストみたいなものを思い浮かべてみてくれ。過去と未来を含めたサービスの一覧があって、それを提供するために必要な人材やスキルやモノは何で、さらにそれらのサービスを今後どうしていきたいか?~『継続』『強化』『合理化』『廃止』などの分類をしたものと思ってほしい。限られたリソースをどこにどう配分するか? あるいは将来必要なサービスは何で、そのために足りないものは何か? そういったものを俯瞰するための方法なんだ」

「選択と集中ってことですね。必要なサービスには力を入れて、いらないサービスはやめましょうと」

 

 京子は以前に課長の竹部が飲み屋で語っていた昔話を思い出した。購買部は、発足当初は文房具やコピー紙などの事務用品の単なる発注係だったそうだ。それが今では、社内のあらゆる品目の発注係であることはもちろん、年間で億単位の支出を伴う広告宣伝など、重要品目の発注先や価格を決める重要な役割を担ってきている。それをさらに成長させていくためには、将来を見据えながらどんなサービスが重要で、どこに力を入れるべきか、顧客にきちんと説明できなければいけないんだわ。

 

「まずは、購買部の業務…じゃなかったサービス一覧を作ることからはじめないとな。ITILでいうところの『サービスカタログ』っていうんだけれど、まずはそれを作ってみよう」

「『サービスカタログ』??? そんな、いきなり作れっていわれても、どんなものか想像もつかないんですけど…」

「うーん。とりあえずは、エクセルか何かで購買部のサービスの一覧、そしてそれに業務の重要度や優先度などの重み付けをしたリストを作ってみてくれる? 詳しくはそれから説明するよ。んじゃ」

 そう言い残すと、大井は情報システム部の居室に戻っていった。

 

* * *

 


 サービスポートフォリオ管理とは、「現在および将来において必要な業務(サービス)が揃っているか?」を俯瞰しコントロールする活動です。

 といっても恐らくピンとこないですよね。

 

 サービスポートフォリオ管理での活動は次の3つです。

 

①サービスカタログを作成する。⇒第3章で詳しく学習します。

②サービスカタログに記載された、各サービスに対する優先度や方向性(「継続」「強化」「合理化」「廃止」など)を明確にする(不足しているサービスがあれば、サービスの「新設」も検討する)。

③②について顧客との合意を得る。

 

 現在だけではなく将来を見据えること。そしてそれぞれのサービスの優先度や力加減を考えていくこと。この2つがポイントです。

 

 再び、うどん屋さんの例で考えてみましょう。「おいしいうどんの味を、たくさんの人々に伝えたい!」というビジョンを掲げたうどん屋さん。いまは日本人のお客さんがメイン。よってうどんのほか、かつ丼やおにぎりなどのご飯物のメニュー(=サービス)も提供していました。ところが、この地域にはインドに親会社を持つ外資系IT企業が来年引っ越してくるという計画を店主は知りました。近々、間違いなくこの地域にはインド人が増える見通しです。そこで、店主は「インドカレーうどん」を新たに提供することにしました(サービスの新設)。また、かつ丼の需要は低くなるであろう、かつ、うどんの味を伝えたいビジョンからズレていることから、徐々に優先度を下げゆくゆくはメニューからはずすこととしました(サービスの廃止)。

 

◎うどん屋さんの例

 

 まずは、「そもそもあなたの部署やチームにどんな業務(サービス)があるのか?」を示す一覧を作ることがはじめの一歩です。サービスの一覧、「サービスカタログ」を作成しましょう(第3章に続きます)。

著者プロフィール

沢渡 あまね(著者)
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表。
業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。
日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て2014年秋より現業。
ITアウトソーシングマネジメント、サービスマネジメントや業務プロセス改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネジャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。趣味はドライブと里山カフェめぐり。
■著書
『新米主任 ITIL使ってチーム改善します!』(C&R研究所)
『「草食系」社員のためのお手軽キャリアマネジメント』(日刊工業新聞社)
『英語で働け!サラリーマン読本』(共著・日刊工業新聞社)
『英語で働け!キャリアアップ読本』(共著・日刊工業新聞社)
■業務改善娘・友原京子のブログ
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