2017.01.06
プロローグ
IT知識不要!、小説型ITILの指南書『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』から、「はじめに」「登場人物紹介」「プロローグ」を紹介します。
はじめに
~いいところどりですぐできる、お手軽改善手法をあなたに!~
さあ、あなたならどうしますか?
もし、あなたが今日会議室に呼ばれて、「リーダーをやれ」「いまの業務のプロセスを改善しろ」、あるいは「会社に貢献できるよう、部署の価値を高めろ」なんて言われたら…!?
そんなこと突然言われたって…
■業務のプロセス改善なんてやったことがない!
■そもそも、いまやっている仕事の価値って何?
■それ以前に、自分の部署が何のために存在して、どんなことをやっているのか把握していない!
「ああ、いったい何をどうしたらよいのやら…」
本書はそんなあなたのための1冊です。
本書では、情報システム(IT)の運用現場において世界中で実績のあるマネジメント手法「ITIL」を使い、(IT部門はもちろんのこと)営業・購買・経理・人事など、どの会社にもあるオフィス業務の課題解決やプロセス改善を「もれなく」「無理なく」「効果的に」行う方法をお伝えします。
「でも、ITって聞いただけでアレルギー反応が…」という皆さん。大丈夫です!
この本を読み進める上で、ITの知識はまったく必要ありません。
あくまでIT運用の管理・改善手法を、あなたの業務に当てはめるだけ。すなわち、舞台はあなたのお仕事の現場そのものです。
そもそも著者もITILはおろか、ITの知識さえも一切ありませんでした。新しい業務の立ち上げを経験し、そこで山のような課題にぶつかり、暗中模索しているときに出会い助けてもらったのがITILだったのです。
あなたがITILを使うメリットは、次の3つです。
●ITの世界で実績のあるプロセスマネジメント手法であり、体系的で抜けやもれがない。【もれなく】
●すべてを適用する必要はなく、現場の実態にあわせた「いいところどり」ができる。スピードのある改善ができる。【無理なく】
●ビジネスニーズを主軸とした考え方。経営者を顧客ととらえ、費用対効果など経営者に納得感をもって受け入れられやすい。【効果的に】
ここで書いてあるすべてを実践する必要はありませんし、ITILもそれを求めてはいません。ITILは世の中のいいやり方を集めた参考事例集に過ぎません。
よって、ITILが提唱するやり方を100%導入しなければダメということはないのです(そもそも、この本を手にとる多くの皆さんがお勤めになる会社では、すでに何かしらのマネジメント手法が取り入れられていることでしょう)。
「使えるところだけを、いいとこどりする」
「観点や考え方だけを流用する」
「つまみ食い」「いいとこどり」できる手軽さと柔軟さが、ITILの良さです。
会社の規模、現場の実態、人員や予算などに応じて、あなたの現場に足りないものを補っていただければよいのです。
どうぞデパートの地下食料品売り場をぶらぶらする感覚で、「おっ、これはオイシそう」と思ったものだけを試食してみてください。そして、明日からできることを少しずつやっていきましょう。
本書は、次のような方にぜひ、読んでもらいたい1冊です。
●ITILをカンタンに知りたい、あなた。
●業務の改善をしろと言われた、あなた。
●リーダーをやれと言われた、あなた。
●課題やトラブルが山積み! 整理してうまく対応したい、あなた。
●新しい業務を立ち上げろと言われて困っている、あなた。
●業務委託先の管理に困っている、あなた。
●自分の仕事(部署)の価値を高めたい、あなた。
本書は、入社2年目社員の「友原 京子」がある日突然、業務改善リーダーに任命され、手探りの状態でITILを使いながら業務プロセスの改善と部署の新しい価値創造に向けて取り組むものがたりです。京子と一緒に、ITILを活用した業務プロセスマネジメントを体感していただきます。
ものがたりを読みながらITILの有用性を感じ取ってください。「あ、この部分は自分の現場にこう使えるぞ!」と思いながら読んでみてください。そして、うまく「つまみ食い」して、できるところから改善してください。
この本は、今日悩んでいるあなたを明日の強いあなたに変える。そんな橋渡しのための1冊です。
登場人物紹介
■友原 京子(23歳)
ものがたりの主人公。中堅化粧品会社、株式会社ルミパルの購買部に勤務。事務仕事しかしたことないのに、ある日突然、異動を命ぜられ購買部の「業務プロセス改善リーダー」をやることに。素直で元気だが、おっちょこちょいな入社2年目社員。
■大井 宏一郎(27歳)
株式会社ルミパルの情報システム部に勤務する、今風の6年目社員。京子と同じ大学出身で、何かと京子のことを気にかけてくれる先輩。仕事をバリバリこなすタイプではなく、ひょうひょうとしている。業務プロセス改善リーダーを命ぜられて悩んでいる京子にITILを伝授する。
■本網 やよい(42歳)
株式会社ルミパルの購買部に勤務。小学生の子をもつ母親。控えめなタイプだがとても朗らかなお母さん。京子に声をかけられたのがきっかけとなり、大井の指導を受けながら京子と二人三脚で購買部の業務プロセスの改善を進めることとなる。
■坂野 浩之(44歳)
株式会社ルミパル 購買部の課長で、京子の上司。悪い人ではないのだが、押しが弱く部長の顔色をうかがっている。
■廣瀬 忠(58歳)
株式会社ルミパル 購買担当役員兼購買部長。温和な人柄だが、次々に無理難題を坂野と京子に押しつけてくる。
■宮代 俊哉(32歳)
株式会社ルミパル 購買部の10年目社員。ごくごく普通の、よくいるサラリーマンといった感じのあたりさわりのないまじめな人。
■尾崎 将人(40歳)
株式会社ルミパルの子会社「ルミパルシステムサービス」の社員で、購買ヘルプデスクのリーダー。小太りの、温厚でのんびりした3児のパパである。
■水城 晃(44歳)
株式会社ルミパル 宣伝部の課長。京子の大学の先輩でもある。サーフィンが大好きでいつも日焼けしている。さわやかなイケメン課長。
■蔵岡 源一(62歳)
~プロローグ~
「キミ、来月から改善リーダーやってくれ」
~京子の困惑~
<入社2年目社員、京子に課せられたミッション>
「え、わ、わたしがリーダーですか? プ、プロセスの改善ですって!?」
青天の霹靂とはまさにこのことだった。
そして京子は途方にくれた。いままで事務仕事しかしたことがなかった、それもよりによって入社2年目のひよっこのわたしが業務プロセス改善のリーダーだなんて…。
***
「はい、購買部の友原です。あ、宣伝部の宮田さんですね。お疲れ様です。例のキャンペーン用のぬいぐるみの件ですか。ちょうど取引先から見積もりが届いたところです。大丈夫です。予算に収まっていますよ。今日中に注文書が出ると思います」
友原 京子。彼女は国内の中堅化粧品メーカー「ルミパル」に勤める入社2年目の元気な社員だ。購買部に所属し、東京は品川区郊外の本社で販促品の調達をしている。
「購買部」とは、その会社が生産・販売する商品の材料、広告宣伝に使う物品、あるいは会社そのものを運営するために必要な物品やサービスを「どこから(どの取引先から)いくらで買うか」を決めて取引先に発注する部署…いわば会社のお買い物部隊である。
京子はその購買部の「販促品チーム」に所属し、化粧品の販売促進のためにお客さんに配るポーチやバッグなどの小物、カレンダーやぬいぐるみなどの雑貨の購買を担当している。宣伝部やマーケティング部門から「カレンダー2万部を、月末までにお願い!」などの要求を受け、取引先から見積もりを取り、予算に収まるよう価格交渉して発注をする。これが京子の仕事である。
新入社員研修の直後、「購買部に配属」と言われたときは「何それ? 高校や大学の売店でノートやパンを売る売り娘さんにでもなるのかしら?」と明るい勘違いをしていたものだが、今では立派な購買部員として活躍している。
もともと人と接するのが苦でなかった性格が幸いして、取引先や社内のいろいろな部署の人たちとの会話を楽しみながら仕事をしていたし、ルーチン化された事務作業なので定時に帰れることも多くプライベートも充実していた。
その日も定時で仕事を終え、渋谷にお茶しに出かけようかと帰り支度をしていたところだった。ところが…。
「友原さん、ちょっといい?」
友原の背後から手招きをする男の姿があった。課長の竹部だ。
「ちょっと、僕と一緒に部長室に来てくれるかな?」
「は、はい」
たいてい帰る間際の部長室への呼び出しにはいいことがない。ああ、ついてないなと思いつつ、竹部に率いられてそろそろと購買部の居室を出た。
「失礼します」
竹部に続いて恐る恐る部長室に足を踏み入れると、ソファに腰掛けた購買部長の廣瀬と企画チームの課長の坂野が優しい笑顔でこちらを見ていた。
…いや、2人とも口元は笑っているが目は笑っていない。「これはやっぱり何かあるな…」そう直感した。
竹部と京子が対面のソファに腰を下ろすと、廣瀬はおもむろに口を開いてこう言った。
「実は、友原さんには今いる販促品チームから坂野くんの企画チームに異動してもらいたい。購買部全体の業務プロセスの改善をリードしてほしいと思ってね」
「わ、わたしが…リーダーですか!?」
戸惑う京子。廣瀬は軽くうなずき、続けた。
「実は、ルミパル社内での購買部の評判がいまひとつ良くない。購買部の社員は皆、調達コストを下げようとあれこれ頑張ってくれているんだけれど、どうも社内には非協力的で購買部の施策に協力しない人が多くて困っている」
「は、はぁ…」
「さらに来年度、追加5億のコスト削減をしろと経営会議で幹部から言われた」
やや語気を強めて、廣瀬は言った。
「追加5億のコスト削減を達成するためには、購買部は社内での存在感を高めて各部署の協力を得ることが不可欠だ。そのためには購買部の何が問題なのか? 課題を特定して解決しつつ、業務プロセスそのものを見直す必要がある。そんな、業務プロセス改善のリーダーを友原さんにお任せしたい。やってくれますね?」
京子は反射的に答えた。
「そんな、わたしまだ入社2年目ですよ…。業務プロセス改善のリーダーだなんて、とても…」
とっさに坂野が割り込んだ。
「友原さんのような若手だからこそ、今までのやり方を変えられる。みんなそう思っているんだ」
京子を諭すよう言った。そして、
「若手リーダーとして、購買業務のプロセス改善の旗振りを期待しているよ」
廣瀬が優しくも有無を言わさぬ口調で切り上げた。
「は…はぁ。はい…」
京子は戸惑いを隠せなかった。飲み会や友達の結婚式の余興の取り仕切りは得意だが、業務プロセス改善なんて見たことも触ったこともない。いままでは優しいおじさま、おばさま、お兄さま、お姉さまに囲まれてのんびりとルーチンワークをしていたのに、一転して「業務プロセス改善」ですって? ムリムリムリ!
「では、友原さんの送別会は金曜日に駅前の『黒うさぎ』で…」
竹部が呑気に何かを言っていたが、ショックのあまり京子の耳には何も入らなかった。
…かくして、京子は業務プロセス改善の一歩を重苦しい心持ちで踏み出すことになった。
「ああ、これからどうしよう!」
◎購買部の位置づけ
◎購買部の役割と業務プロセス
◎購買部の組織