第1回:中国のWeb環境とサービス|Tech Book Zone Manatee

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いま押さえておきたい 中国ネットマーケティング最前線

第1回:中国のWeb環境とサービス

年々拡大を見せる中国のインターネット人口。その巨大な市場に対してどのようなマーケティングを行っていくのか。『いま押さえておきたい 中国ネットマーケティング最前線 ~WeChat(微信)を活用した最新プロモーション事例』(田中千晶・山本達郎著)は、中国のWebやSNS事情やWebにおけるプロモーション戦略から、中国で定番となっているメッセンジャーアプリ「WeChat」(微信)の機能の紹介や活用例まで、詳細に解説しています。 この連載では同書の中からいくつかのトピックをピックアップして、4回にわたって掲載していきます。

第1回目は、中国のWebおよびインターネット事情についてです。

中国では、「グレートファイアウォール」という中国政府の情報検閲システムにより、GoogleやFacebook、Twitter、YouTubeへのアクセスは基本的に遮断されており、それらサービスが利用できません。(Googleを利用する場合は、Google香港にアクセスすることになりますが、その接続は不安定です。)

 

中国国内のWeb環境…「グレートファイアウォール」

現在中国におけるウェブの普及率は45%程度とあまり高くはない状況ながら(第33次中国互換網発展状況統計報告より)、インターネット人口は6億人、モバイルインターネット人口は5億人に上るとも言われており、日本の総人口を軽く超える規模感を誇っています。また、ネット小売りの総額は、2013年には1兆8000億元に達し、アメリカを抜き、世界最大になったといわれています(2013/12/24人民網日本語版より)。日本でのウェブ利用人口は約9600万人、ネット小売総額は中国の半分以下であることからも、いかに中国のモバイル人口が巨大なものかわかるのではないでしょうか。

このように大規模な人口を抱えるようになった中国のネット事情について、「グレートファイアウォール」という政府の情報検閲システムを抜きにして語ることはできません。皆さんも一度は中国のネット検閲について耳にされたことがあるかと思いますが、この「グレートファイアウォール」は、中国国内のウェブ接続に対し、中華人民共和国憲法に違反しているなど一定の規制ラインを越えたと見なされた海外ウェブサイトやコンテンツをブロックする、という仕様のシステムになっています。国内外を結ぶ通信の間にシステムが入り込んで通信内容を検閲し、政府が内容を不適切とみなした場合、そのまま通信が遮断されるというイメージです。中国国内で規制対象であるTwitterやFacebook、LINEを使おうとすると、このようにインターネット接続ができなくなってしまうようです。他にも、「グレートファイアウォール」は、多くの市民の個人情報を管理し、個人のアクセス情報監視を行っている大規模な検閲システムと言われています。

どのようなコンテンツがブロックされているのか

検閲システム「グレートファイアウォール」により、どのようなコンテンツが規制対象とされているのでしょうか。

先ほども書いたように、基本的には「規制ラインを越えたと見なされた海外ウェブサイトやコンテンツ」という基準があります。例えば、ウェブサイトについては監視対象のサイトが978件あるのですが、そのうちTwitter、Facebook、YouTubeやWikipedia(特定のページについて規制対象となっている)を含む46件がブロックされています。ドメインではMacys.com(米国の百貨店)・IMDB.com(映画やテレビ番組に関する情報のデータベース)、Urban Dictionary.com(事典サイト)など、監視対象の16975件のうち1782件がブロックされています。また、オンラインでのコミュニケーションサービスも規制対象で、GmailやLINEといったサービスも制限されているようです。

 

中国のWebサービス

このような中国独特のオンライン環境下で、中国国民も、他国とは一味異なるユニークなWebサービスを使っている実情があります。

TwitterやFacebookなどのSNSは規制により中国国内では使用できないのですが、それらと同様の仕様で、中国で開発されたSNSやWebサービスが存在し、そのユーザー数を大きく伸ばしています。以下に、中国国内で頻繁に使われているWebサービスを簡単に紹介していきます。

 

新浪微博(Shina Weibo)

「新浪微博(Shina Weibo)」は、Twitterと同様に140字という制限がある短文投稿サイトです。Twitterと同様に、気になるユーザーをフォローしたり、投稿にコメントしたりできますし、写真 や動画も投稿することができます。リツイート(RT)、ダイレクトメッセージ(DM)、メンション・リプライ、ハッシュタグという機能を備えている点も、Twitterとよく似ています。漢字は表意文字なので、英語に比べると文字数制限があっても比較的多くの内容を書き込めるようです。

 

微信(WeChat)

ここ数年ユーザー数を着実に伸ばしているのが「微信(ウェイシン)」。中国版のLINEのような無料のメッセンジャーアプリで、「WeChat」という英語での名称でも世界的に知られています。2015年8月時点で月間アクティブユーザー数は6億人に至り、一般のユーザーアカウント以外に公式アカウントが100万件を超えるという規模に到達しました。

使い方としてはLINE同様にチャットや画像、動画の共有が中心で、グループの仲間同士内でのコミュニケーションを取るためのツールとして利用される機会が多いようです。自分の声を録音して相手に送信するボイスメッセージ機能というユニークな機能があり、ボイスメッセージ機能を使ったボイスチャットが手軽だとユーザーに人気を博しています。

 

人人網(レンレンワン)

Facebookのように 完全実名登録制なのが特徴的なWebサービス「人人網(レンレンワン)」。こちらもFacebookと同様に画像・動画・リンクを含めた投稿が可能で、「いいね!」・コメント・シェア機能を備えています。ユーザー数は2013年5月の時点ですでに2億人を大幅に上回っており、現在アクティブユーザーの数も1.36億人と高い人気を維持しています。利用者一人あたりの月間訪問回数はのべ32.5回、サイトの一日あたり平均閲覧ページ数は約4億8千万ページというデータがあり、ユーザーもかなりアクティブに使用することが多いようです。ただ、最近はあまり出てこなくなってきているようです。

 

ECサイト淘宝(タオバオ)

中国AlibabaグループのTaobao社が設立した、アジア最大のECサイト「淘宝(タオバオ)」。2010年7月末には登録ユーザー数が2億人を超え、中国EC市場の約80%を占める規模感を維持しています。仕組みとしては、日本のヤフオクや楽天に近い個人間取引(C2C)サイトで、個人での出店者も多数います。また、出店者と直接やりとりができるチャットツール「阿里旺旺(アーリーワンワン)」も特徴の一つ。出店者と商品の問い合わせや購入方法についてスピーディーに掛け合うことが可能です。このようなシステムから「淘宝」はユーザー間に広く浸透し、仕事の合間の休み時間や仕事中でもショッピングを行うといったユーザー行動も見られるようになりました。

 

QQ(キューキュー)

「QQ(キューキュー)」は、Skypeのようなインスタントメッセンジャーサービスです。ブログやSNS機能だけでなく、付加サービスとして音楽や動画の再生・管理、オンラインゲームといったものまで幅広く提供を行っています。QQで特徴的なのは、簡単にコミュニケーションを拡大していくことができる検索機能です。キーワードや地域、性別、年齢、言語などを検索ボックスに入れると、好みの新しい友だちを探し出していくことができます。「QQ(キューキュー)」の普及率は8億人を超えるとも言われており、アクティブユーザー数では5億7千万人にのぼるとのこと(2014年12月時点)。ビジネス上のやりとりを含め広く活用されており、仕事の同僚や取引先との連絡手段として「QQ」のチャットが用いられることも多々あると言われています。

いかがでしょうか。中国独自のサービスがいろいろとあることがおわかりいただけたと思います。より詳しくお読みになりたい方は、ぜひ電子書籍として発売中の『いま押さえておきたい 中国ネットマーケティング最前線』をご覧ください。 次回は中国の定番SNSツールであるWebboとWeChatを取り上げます。

著者プロフィール

田中 千晶(著者)
大学在学中にソーシャルメディアを活用した収益化マーケティング会社アントで働く。マーケティング支援の書籍や連載などの出版活動、全国各地で講演活動を数多く実施。IT文化の振興とUNIX/Linux文化の楽しさを伝える「TechLION」のレポートブログを担当。アメリカ、中国、ロシア、タイなど海外でのクライアントワークの支援を強化するために、定期的に渡航し、情報収集や交渉を行っている。現在は、株式会社BES代表取締役を務める。

主な著書に『頼られるWeb担当者になる! ネットプロモーション教本』(マイナビ出版)、『毎日の発信に役立つWebプロモーションのネタ出しノート』(翔泳社)。