第2回後編 クラウドでインフラ基盤を設計・開発! 確かな技術力を身につけ、幅広い視野を。|Tech Book Zone Manatee

マナティ

エンジニアコンビに聞く! 技術のお仕事

第2回後編 クラウドでインフラ基盤を設計・開発! 確かな技術力を身につけ、幅広い視野を。

第二回目は、日立製作所で、生命保険会社の基盤運用・保守にてクラウド基盤の設計や開発を担当されている鈴木航さんと、その先輩である村松さん、末次さんにお話を伺いました。前編の記事はこちらよりご覧ください。

勉強したこと、ためになったこと

ニャゴロウ:これまで特に勉強したことや、ためになった経験があれば、教えてください。

(以下鈴木さん)
ある長期プロジェクトに立ち上げ段階から関わったことですね。

本当に、初期の立ち上げ段階だったので、最初の打ち合わせは僕と上長と先方の担当者お二人の計4人で会議室にいるところから始まりました。形のないものを、議論して作っていかなくてはならないので、大変です。

部屋の中には、ホワイトボードがあって、そこにお互いのプロジェクトマネージャーが書きながら議論するのですが、ホワイトボードが、徐々にぐるぐるした読めないような字と、判別できないような絵で埋め尽くされていくんですよ。

最初は僕も議事録を書くためにメモを取っていたんですけど、段々それも難しくなっていったくらいでした。しかし、時間が経つにつれて、このホワイトボードに描かれた混沌とした絵が、少しずつ整理され、理解できるものへと変化していったのです。

そのプロジェクトは、Microsoft Azureを導入するものだったので、今のシステムとMicrosoft社の推奨するアーキテクチャを合致させるとどうなるのかを、ひたすら議論したのですが、そうするうちに、だんだんと、その絵がくっきり輪郭が描かれるようになってきて、設計や、構築、テストが進むにつれて、混沌とした絵がプロジェクトとして形になるのを間近で見られたのは、本当に良い経験でした。
 

株式会社日立製作所 金融第二システム事業部所属 鈴木さん

ニャゴロウ:プロジェクトの最初は、たしかに混沌としていることが多く、それを成立させる過程が見られたのは、たしかに良い経験ですね。まさに「見て学ぶ」体験です。そういえば、資格取得のために勉強もされてますね。

クラウドの資格を取得しましたが、資格取得のための勉強というよりは、実務で必要とされるスキルを習得するために勉強しました。なので、体系的に学ぶというよりは、具体的な問題や課題に直面した際に、その解決策を探りながら学びを深めていくアプローチを取りました。

そうするうちに、徐々に全体像が見えてきて、最終的に「ここがつながってたんだ!」と自分の中で体系立てられるようになりました。
 
末次さんコメント:
技術や資格の取得に対しては、面白そうな技術から勉強するアプローチと必要な技術を勉強するアプローチの2種類あります。鈴木さんは実務で必要なAzureというパブリッククラウドの資格取得を目指し、それをお客さまのために還元するといった進め方でした。どちらのアプローチが正しいということはありませんが、目的が明確になっているためモチベーションも高くそれが資格取得につながったと思います。

なお、日立製作所ではこのようなベンダー資格取得に向けた研修メニューも充実しており、試験とセットで自己負担なく資格を取得することも可能です。また、資格取得者からの情報共有などの活動を通して資格取得の支援を行っています。

村松さんコメント:
当時は大規模なシステムのAzure移行の事例が少なく、何もかもが手探りでした。そのような中、鈴木さんは我々と一緒に、まずはやってみようの精神で臆することなく挑戦してくれました。その姿勢が現在の鈴木さんを作っていると思います。当時はがむしゃらだったと思いますが、こうやって数年後に振り返ると多くの学びがあったことが分かると思います。これからも挑戦を忘れず、大きく、頼もしく成長していって欲しいと思います。
 

関心のあること、取り組みたいこと

ニャゴロウ:どのようなことに関心があり、今後どういったことに取り組んでいきたいと考えているかを教えてください。

現在、クラウドから入って、ネットワークやサーバーの技術を深掘りしている状態なのですが、今よりももっとメカメカしいところにも興味が出てきました。例えば、データセンターのやっている取り組みで、効率的にサーバーを冷やすためにどうするのか。センサーを使って空調をコントロールしたり、データセンターを海底に沈める計画を立てたり、そういった物理的なことに興味があります。
それから、セキュリティにも興味を持っています。

セキュリティについては、攻撃者が弱点を突いてくる可能性があるため、その防御策をどう考えるかが重要です。しかし、「どこに弱点があるか」を把握するためには、システムの仕組みを理解することが欠かせません。データセンターの仕組みがどうなっているのか、システムがどのように動作しているかを理解したり、技術にどんな脆弱性があって、どうやって守るのかを考えていくのが楽しいです。

また、セキュリティの分野は、専門にしている人が少なく、ブルーオーシャンに近い領域なので、得意分野にしていきたいなと思っています。セキュリティチームも、立ち上げてみたいです。
 
ニャゴロウ:どうしても、クラウドを主戦場にしていると、物理的な知識が薄くなりがちな印象なのですが、ちゃんと目を向けておられるのが頼もしいですね。セキュリティは、幅広いレイヤーとジャンルがわからなければならないので、日本全体で人材が不足しています。こうやって関心を持って貰えるのは、嬉しいことです。
末次さんコメント:
資格取得やプロジェクトを通してクラウド技術については習得できていると思います。本人も言っている通りクラウドを支えている基礎技術や構成要素となる技術に興味があるのは良いことだと思います。我々のようなエンジニアは単なるクラウドの利用者ではないので、クラウドだけではなくその先についても受け答えできるように技術力を上げていけると良いと思います。

村松さんコメント:
現在のSI業界はクラウドを中心にデジタル技術の活用がどんどん進んでおり、大きな変化・変革の時期になっています。そのような時期では、今まで以上に答えのない、正解がないことが増えてくると予想されます。そのような時に、(過ちを認めて直せれば)間違っていてもよいので、リーダーの一人として方向性を示し、メンバーを導いてあげられるようなリーダーになっていって欲しいと思います。
一方で、リーダーが方向性を示すだけでは物事は前に進みません。マネジメント力や技術力も必要になってきます。このような力も大切に、伸ばしていってもらえたらと思います。

憧れるエンジニア像はありますか?

ニャゴロウ:お話を伺っていると、多方面に目を向けておられますね。こうなりたいというエンジニア像はありますか?

一人目は、村松さんです。

村松さんは私が新規プロジェクトでクラウド基盤チームに入ってから現在に至るまで3年以上一緒に仕事をさせてもらっています。最初は村松さんの仕事に対する熱量やスピード感に圧倒されていましたが、リーダーとしてチームを引っ張る姿やお客様と対等に交渉・ディスカッションする姿を見て、「いつかは自分もこうなりたい」と思うようになりました。

また、クラウド基盤チームはチームの性質上、クラウドを構成するハードウェアの領域とは縁遠くなってしまいがちで、私自身も知識に偏りができてしまっていました。

そんな中、村松さんからクラウドを担当する上でも物理的なものをちゃんと見た方がよいと勧められ、他チームで実施しているDCへの機器搬入作業や、セッティング作業にも立ち合わせてもらいました。

目に見えていない部分も理解できたことでクラウドで障害が発生した際の切り分けや原因分析もスムーズになり、エンジニアとしてのレベルを上げることができたと思っています。

村松さんは常に部下にとって何が今後のためになるかということを考えたうえでの指導してくれていたので、自分の部下に対しても同じように接していければと思っています。

二人目は、末次さんです。

末次さんは金融の事業部で5人(2023年10月現在)しかいない「チーフシステムアーキテクト」という称号をもつスペシャリストで、末次さんが作った基盤は、安定稼働しており、障害(トラブル)がほぼないのが社内では有名なんです。

私は入社当社は基盤チームではなかったこともあり、同じプロジェクトで仕事をすることはなかったのですが、基盤チームに入ってから末次さんが作成した設計書を見たら、「緻密に」「論理的に」「無駄がなく」設計書が書いてあって、技術力はもちろんドキュメンテーションスキルに驚かされました。また、周囲のメンバーからの信頼も厚く、マネージャーとしても優秀な方なので、憧れています。

どちらかだけできる人ではなく、末次さんのような両方できる人になりたいです。
 

末次さんコメント:
ありがとうございます。ここまで褒められるとむずむずしますが、憧れを裏切らないように私も技術力、マネジメントスキルの向上を図っていきたいと思います。

村松さんコメント:
我々以外にも多くの方から様々な助言やアドバイス、そしてチャンスをいただいたと思います。我々から鈴木さんへのお願いは、これらの機会を活かして大いに成長をしてください。また、次の世代(後輩達)に同じようなことをしてあげてくださいね。

今後、どのようなエンジニア人生を送りたいですか?

ニャゴロウ:さて、最後の質問です。あなたは今後、どのようなエンジニア人生を送っていきたいですか。

直近でやりたいこととしては、どちらの方向に行こうか迷っています。
メカメカしい分野や、セキュリティなどの他の技術領域の知識を広げていきたい反面、現在のポジションから視野を広めてマネジメント系のスキルを高めることにも興味があります。もっと俯瞰してチームを見たり、後輩の育成もしてみたいです。今、そのどちらに進むかを非常に悩んでいるところです。なので、ちょっと人生って言われると難しいんですけど、ハッピーな人生を送っていきたいなと思っています。
 
末次さんコメント:
日立製作所としてはどちらに進むとしても支援やキャリアプランが整備されています。現時点ではどちらかに決めず両立しながらやりたいこと、求められることを見ていくのも良いと思います。 マネジメントを主体にしていくとしても技術力は必要だと思いますので、まずは技術力向上を継続してどちらもできるようになっていただければと思います。やりたいことすべてに対して高レベルでやりきれるようになってほしいと思います。
 


株式会社日立製作所 金融第二システム事業部 金融システム第四本部 保険・共済ITイノベーション推進センタ所属。
チーフシステムアーキテクト(部長) 末次さん


村松さんコメント:
ハッピーな人生、最高ですね!
もうその通りだと思います。人生、やったもん勝ちだと思いますので、やってみたいことがあるなら、そのワクワクを抑えず、いろいろなことに挑戦してみて欲しいと思います。常に学ぶ姿勢と周囲への感謝を忘れず、鈴木さんらしいエンジニアをめざしてください。


株式会社日立製作所 金融第二システム事業部 金融システム第四本部 第一部 第1G所属。
主任技師 村松さん

ありがとうございました!

ニャゴロウ感想

全体を通して、「しっかりしてるナァ!」というのが強い感想です。
クラウドというものは、とかく物理的なものを意識しなくなってしまいがちですが、鈴木さんは、物理的なことやセキュリティにも目が行っていて、大変良いエンジニアだなと思いました。また、技術だけでなく、マネジメントにも関心があり、視野の広さが窺えます。
ご本人もお話されていましたが、良き上司や、良き先輩の影響が大きいのでしょう。

エンジニアは、技術を使って仕事をします。そして、技術は常に進化してしまうので、追いかけるのが大変です。しかし、このように良き先達が「技術の楽しさ」をきちんと伝えていれば、幅広く興味を持ち、高いモチベーションで学んでいけることがよくわかる例だと思います。
きっとこれからも、彼は様々なことに興味をもち、技術を楽しみながら世界を広げていくに違いありません。そして、彼の背中を見る後輩は、同じように技術を楽しめるエンジニアになることでしょう。

著者プロフィール

小笠原種高(著者)
小笠原種高(ニャゴロウ)
テクニカルライター、イラストレーター。
システム開発のかたわら、雑誌や書籍などで、データベースやサーバ、マネジメントについて執筆。図を多く用いた易しい説明に定評がある。綿入れ半纏愛好家。最近気になる動物は黒豹とホウボウ。

主な著書に、『仕組みと使い方がわかる Docker&Kubernetesのきほんのきほん』(マイナビ出版)、『図解即戦力AWSのしくみと技術がこれ1冊でわかる教科書』(技術評論社)など。