第1回前編 社内のお仕事をAIで効率化! 最先端技術を学ぶ楽しさと、現場に喜ばれる楽しさ|Tech Book Zone Manatee

マナティ

エンジニアコンビに聞く! 技術のお仕事

第1回前編 社内のお仕事をAIで効率化! 最先端技術を学ぶ楽しさと、現場に喜ばれる楽しさ

ITが社会にとって重要なインフラとなって20年。おかげで、最近では、元々ITに興味を持っていた人ばかりでなく、はじめてITの世界に飛び込むような方にも、就職先として選んで貰えるようになりました。しかし、一方で、「ITの仕事」が多様化し、「どんな仕事をするのか」見えづらくなっています。
本連載は、様々な若手エンジニアと、その周りの人に取材することで、「ITには、いろんな仕事があるよ!」ということを知ってもらう企画です。

第一回目は、NECで、AIや量子コンピューターなどの先端技術を活用してオファリングを支援するシステムを研究開発されている大石美賀さんと、その上司の大崎さんにお話を伺いました。「上司と部下」というよりも、「師匠と弟子」のような、「育てる・育てられる」関係が、NECらしいコンビです。大石さんのインタビューからは、上司の大崎さんの持っている技術・知識を惜しみなく与えられることで、楽しいだけでなく、物事の根幹をしっかりと捉えながら成長できる現場であることがうかがえます。
インタビュイーのプロフィール
●大石 美賀(おおいし みか)さん
NEC ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部 intelligent SIグループ所属。
2022年3月お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 理学専攻 情報科学コース修了。 2022年4月NEC入社。現在の所属部署に配属。お客様のビジネスをDXする現場のために、既存の業務をモデル化し、課題解決につなげる業務を担当。研究所と連携し、研究技術を現場(社内)に展開するための活動を行っている。

●大崎 隆夫(おおさき たかお)さん
NEC ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部 intelligent SIグループ ディレクター。1999年 大阪大学 博士(理学)取得。1999年4月NEC入社。研究所でのAPフレームワーク・業務分析・要求分析の研究・現場適用後、現職へ。

職務と仕事の内容について

ニャゴロウ:現在、どのような職務で、どのような仕事をしているか教えてください

(以下大石さん)
AIや量子コンピューターなどの先端技術を活用して社内のSI事業のDXを目指す業務をおこなうグループ(intelligent SIグループ)に所属しているSEです。

具体的には、営業やコンサルタント担当者に対して、お客様への提案を支援するシステムの研究開発に携わっています。

NECには、「DXオファリング」という価値提供モデルがあり、これは、お客様の経営課題をもとにNECの 業種ノウハウ技術等 に関する知見を集結させたものです。

提案を支援するシステムは、AIや量子コンピューター技術などを組み合わせることで、顧客の業務の現状モデルから、その顧客に適したDXオファリングを提案するシステムです。DXオファリングに書かれている資料(業務の仕組みや形態)は、基本的に文字ベースなので、それをコンピューターが扱いやすいようにオブジェクトを使ってモデリング(モデル化)することを、主に担当しています。

モデリングには、UMLを使っているのですが、DXオファリングの資料や関連する業務の資料を読み込んで、どういう業務のフローや、何が使われているのかをモデル化して、上司に毎回見てもらっています。上司は、その道のプロなので、コメントをもらって適切に修正して、また見てもらってを繰り返すことで、実践的な勉強になっています。
ニャゴロウ:つまり、可視化しづらいノウハウを、モデル化して、システムに落とし込むということですね。これは、営業さんや、コンサルの方が、助かりますね。このお仕事は、チームでされているのですか?

全体で8名くらいのチームで、社内のDXに対してアクションするような部署ですが、まだ、開発途中のシステムなので、部署内でというよりは、AI関連の研究所の社員と一緒に仕事をすることも多いですね。
 

NEC ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部
intelligent SIグループ所属 大石さん

大崎さんコメント:
私たちはNECグループ内のDXを実施するにあたり、モデリングを武器として活用しています。モデリングというのは、その本質を理解して現象を形式的に表現することです。私自身、研究所にいて、顧客向けのコンサルもしていましたし、要求定義技術を総務省で講演していたこともあります。

数学出身なので、何らかの現象を数式で表現するというのがモデリングの本質だと思っています。私はそうした経験を活かして、モデリングを業務に役立ててきたのですが、モデリングを業務レベルで使いこなすのはかなり大変です。設計やプログラミングなど、システムを作る技術者と較べて、モデリングのようなシステムを多角的に分析できる技術者は最近は増えてはきましたが、まだ十分ではありません。

私のグループでは、モデリング技術を駆使できる技術者の育成を目指して、モデリングのインターンシップを企画し、そこで大石さんのようなモデリングの素養のある人材を探しました(笑)。私一人では発展がないので、全力で教えています。

モデリングというとUMLが出てきますが、UMLはモデルを表現する言語に過ぎません。UMLができるから設計できるというのは、日本語ができるから設計できると言っているのと同じことです。
物事を正確に深く理解するためには、多面的理解や抽象化などの道具だてを使ってモデリングして、それを表現するためにUMLがあるというだけです。大石さんには、細かいノウハウだけでなく、そうした根幹的なことを日々伝えるようにしています。

    

NEC ソフトウェア&システムエンジニアリング統括部
intelligent SIグループ ディレクター 大崎さん

やりがいや、楽しいこと、苦労すること

ニャゴロウ:仕事をするうえで、やりがいや楽しいことがあれば教えてください。

人との連携」や、「知識を生かすこと」でしょうか。

学生時代は、量子コンピューターの研究をしていたものの、自分の成果が、ダイレクトに誰かに関わることがありませんでした。しかし、NECでの現在の部署では、自分の仕事の速度や、精度の良い・悪いが、社内だけでなく、連携している海外の研究所の方にもダイレクトに影響するので、責任を感じるとともに、やりがいにも思っています。

「自分の成果」が、分かりやすく他の人の業務に影響するので、相手方から刺激を受けて、より早く、より目的を達成できる結果を出そうとやる気がでます。
また、知識を習得し、得た知識を活かす機会があることも楽しいです。

同じように、学生の頃は、経営や経済のことにあまり関心がなく、学んでこなかったのですが、現在では、ビジネスに関わる知識を学ぶ機会が増えました。特に、「企業における目標の在り方」を学んだことで、キックオフなどで伝えられるトップからの目標への理解が深まったり、個人の業務目標の立て方が変わりました。より目的をもって仕事を行えて、やりがいを感じられるようになりました。

また、ビジネスに必要な知識は、自分の意識が変わっただけでなく、DXを提案する際に、役立っています。一般に提案では、お客様のメリットを提示する必要がありますが、お客様のメリットは、業界によってさまざまです。しかし、「経営」という観点では共通部分も多くあり、「一般的にお客様がどこを、どんな風に注目しているのか」を知ることにも役立っています。
ニャゴロウ:なるほど。たしかに、仕事を始めると、学生時代よりもステークホルダー(関係者)が増えますし、関係も濃くなりますね。また、知識の習得が、「勉強した」で終わらずに、あらゆることに活用できるのも「仕事」の醍醐味かもしれませんね。大変なことや、苦労していることはありますか?

大変なことは、「ビジネスでのコミュニケーション」と「新技術の習得」です。

学生のころは1人や2人で研究をしていたので、内輪で分かっていれば、研究自体は進んだのですが、社会人になって、複数人で仕事をすることが多くなりました。そうした仕事を進めるためには、自分の今の状況や、依頼などを端的にかつ分かってもらうように伝える必要があります。

連絡の取る頻度や、定量的な伝え方など、まだまだ試行錯誤中で、伝達ミスから、突発的な仕事が増やしてしまったこともあります。

また、新技術の習得は、楽しいのですが、大変でもあります。 AIに限らず、様々な技術が、どんどん進歩していくので、追いつくのが大変です。

特に、研究所の方々と関わる仕事をすることは、自分の技術習得にもつながる一方で、AIなどの新技術をタイムリーに理解しなければなりません。研究所の皆さんがやっていることを、「目的を達成できるのか」評価する必要があります。そのためには表面的な手法の理解だけでなく、その手法で使われている技術の根幹を理解する必要があります。
該当の論文だけで理解できることは少ないので、参考文献や解説サイトを読んだり、それでも理解できないことは、チームの中の技術者に聞いたりしています。

編集部より:

記事は後編に続きます。後編はこちらからアクセスしてください。

著者プロフィール

小笠原種高(著者)
小笠原種高(ニャゴロウ)
テクニカルライター、イラストレーター。
システム開発のかたわら、雑誌や書籍などで、データベースやサーバ、マネジメントについて執筆。図を多く用いた易しい説明に定評がある。綿入れ半纏愛好家。最近気になる動物は黒豹とホウボウ。

主な著書に、『仕組みと使い方がわかる Docker&Kubernetesのきほんのきほん』(マイナビ出版)、『図解即戦力AWSのしくみと技術がこれ1冊でわかる教科書』(技術評論社)など。