第3回後編 幅広いエンドユーザーが使いやすいシステムを!「やってみたい」気持ちが、確かな技術につながる。|Tech Book Zone Manatee

マナティ

エンジニアコンビに聞く! 技術のお仕事

第3回後編 幅広いエンドユーザーが使いやすいシステムを!「やってみたい」気持ちが、確かな技術につながる。

勉強したこと、ためになったこと

ニャゴロウ:これまで特に勉強したことや、ためになった経験があれば、教えてください。

岩下:新卒研修後、すぐにこのチームに入りました。2年くらい前です。そこで経験したのが、ファイルボックス画面の全面リニューアルプロジェクトでした。当時のファイルボックスはvibesの導入ができていない古い画面で、vibesが入っていない状態で開発を進めると非常に開発効率が悪く、技術的負債にもなります。

それで、まずはvibes化に取り組むことになりました。切り替えというのは一見単純そうに見えますが、ライフサイクルがそもそも違うので、単純な置き換えでは済みません。コードベースでゼロからの書き換えになってしまいます。ファイルボックス自体の仕様の整理をしながら、言語の違いも理解しなければならないので、とても大変でした。ただこれを通してフロントに対する技術力を伸ばすことができたとともに、ファイルボックスの仕様についても理解を深めることができたと思います。

実質、フルリニューアルに近い形でしたが、CTOが作ったコードもたくさんあり、開発時の意図を探るのが勉強になりました。すごくいい経験だったと思っています。

freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー2チーム所属 岩下 大樹さん


永井:あの時は、大変でしたね。懐かしいです。ファイルボックスが何年も触られていなかった頃に急にアサインされたので、辛かったですね。チームも出来立てで、当時、私はマネージャーではなく、他の方がマネージャーだったのですが、忙しい方だったので、右も左も分からない2人で、「とりあえず分かんないから作っちゃえ」と勢いで作ってみて、テストしてもらって、穴だらけなことがわかって、それがわかったらまた勢いで直して、みたいなことを繰り返してやっていましたね。

特に全くドメイン知識がない状態だったので、実装していて初見では気付けないような細かい仕様も、QAさんに指摘いただけたので、当初は「なんでこんな実装になっているんだ」となりつつも、とても学びになりました。また実装・レビューと必ずどちらかが担当するので、一通りファイルボックスの画面を触ることができ、ドメインの理解やプロダクトの課題は自然とここでキャッチアップできたので、結果としてチームの最初のタスクとしてこのリニューアルを行えたのは、とてもよかったです。
ニャゴロウ:入社早々、バリバリ働いてらっしゃる感じですが、新卒の時はどのような技能スキルをもっていましたか。

岩下:大学は情報系の学部で、その中でウェブ関係に興味を持っていました。当時、知り合いの社長の紹介で、アルバイトで病院の勤体管理の仕組みを作っていました。ただ、実際に教えてくれるエンジニアがいたわけでもないので、自分で一から調べながらやるという感じでした。

入社後の研修では、まずDBMS(データベースマネジメントシステム)を作るという課題がありまして、各チームに分かれてDBMSを作ります。その次にウェブアプリケーションを作る課題があるので、他チームが作ったDBMSを使って、ウェブアプリを作るというような課題でした。ですので、自分の作ったDBMSは、他のチームが使います。手探りでしたが、その研修を通して、freeeでのアプリケーション開発のやり方は一通り学べたという感じですね。
※DBMSとは、データベースマネジメントシステムの略で、データベースソフトとも呼ばれる。代表的なソフトとして、OracleDBやPostgreSQL、MySQL、MariaDBなどがある。
ニャゴロウ:DBMSを作るのは、なかなかヘビィですね!そんな研修は聞いたことがないです。楽しそうですが、大変だ!

岩下:どういう仕組みで動いているのか、そういうところから調べないといけませんでした。実装方法はいろいろあるので、チームによって違いました。先端技術は知っているけど、ミドルウェアとかDBとかのレイヤーを知らない人が多いので、そういう意図があって作られた課題らしいです。
ニャゴロウ:良い課題ですね。それを受けるウェブアプリはどんなものを作るんですか?

岩下:ウェブアプリは課題があります。課題を解決するためのアプリを作ります。
freeeにはShall we lunchという制度があります。これは、別のチームの人とランチに行くときに食事補助が出るという制度です。そこの承認などの対応で、担当者の業務量が多くなったという課題があって、私の代は、それを解決するというものでした。研修で課題を解決するために作ったアプリが、freee社内で公式で使われているという事例もあります。

永井:私は中途で入ったので研修はしていませんが、新卒研修がハードだという話は有名で、よく話は聞いています。それを乗り越えられた人が入ってくるので、優秀な新卒が多いと感じています。
freeeのエンジニア職新卒研修について:
入社後、ビジネス職と一緒に2週間程度研修を行ったあと、エンジニアとデザイナーは開発研修に参加する。座学・基盤開発・製品開発の3つがあり、一部のコンテンツをそれぞれ分かれて設計しつつ、最終的には合流してチームで開発するような流れで進められる。その後、研修の成果やプロセスを見たうえで配属が発表される。

関心のあること、取り組みたいこと

ニャゴロウ:どのようなことに関心があり、今後どういったことに取り組んでいきたいと考えているかを教えてください。

岩下:今興味があるのは、フロントエンドの領域です。フロントエンドというのは、ユーザーが直接確認する部分なので、そこを改善することでユーザー体験はすごく上がります。直接UXの向上に寄与できるので、面白い領域だなと思っています。そこに関心があるので、先ほどお話したfreee会計のフロントエンド委員会の活動にも積極的に参加しています。
ニャゴロウ:お話を聞いていると、目指すところはフロントエンドというよりは、ユーザー体験の向上が最終的なゴールという感じですか。

岩下:そうですね。入社したての頃は、まだ会計ソフトというものに対する解像度がすごく低い状態で、「確定申告をやるソフトかな」くらいの理解でした。仕事に携わるうちに、会計ソフトの中にもさまざまな機能があり、使っているユーザーがとても多いということがわかっていきました。最初にファイルボックスのフルリプレイスに関わりましたが、その時のフィードバックがすごく良くて、その経験から、ユーザー体験向上に重点を置いている気がします。

チームの目標としても、ユーザーのワンクリックを減らすような開発をしたいと考えています。例えば金額や発行元など、今は、まだユーザーが入力する部分が多いと思います。そこの精度を上げて、ファイルをアップロードさえすれば、ワンクリックで取引登録までできるくらいの体験を目指しています。

永井:「ワンクリックを減らす」というのは、チームでインセプションデッキの「我々はなぜここにいるのか」を考えた際に出てきた目標です。アドバイザー2チームで、アドバイザーがワクワク業務してもらえるように、「自動化できる部分は最大限自動化し、ユーザーのワンクリックを減らす」という目標をチーム全員で意見を出し合い議論した結果、決めました。

その議論が前提となっているため、何かを決める時も必然的に「こっちの方がワンクリック減っているよね」という議論になっていきます。そう考えると、この目標を掲げることで、チームとしてのスピード感をあげられているなと感じています。

freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー3チーム所属 永井 海斗さん

 

今後、どのようなエンジニア人生を送りたいですか?

ニャゴロウ:さて、最後の質問です。あなたは今後、どのようなエンジニア人生を送っていきたいですか。

岩下:私としては理想的なエンジニア像があります。それは、元上司だった若原さんです。元執行役員だったのでマネジメント業務が多い方でしたが、マネジメントをやりながらも、自分で手を動かして、高いユーザー価値のある開発を届けるエンジニアでした。その後ろ姿を見ていて、マネジメントをしながらも、エンジニアとして価値を届けられるような人になりたいと思うようになりました。

ただ、マネジメントにチャレンジするまでに、まだまだ技術力を伸ばしたいという思いがあるので、ここ数年は目の前のプロジェクトに集中して、技術力を伸ばしていきたいですね。1年半ほどですが、一緒にお仕事できたことは、自分の成長にとってすごくプラスだったなと思います。
ニャゴロウ:目標になる人が居るのは、いいですね。マネジメントの他に、やってみたいことはありますか?

岩下:freeeには、新卒2年目で異動する制度がありまして、今年の7月に異動すること自体は決まっているので、そこで基盤寄りの業務をやりたいと思っています。ユーザーに価値が届くところだけを今までずっとやってきたので、逆にユーザーに価値は届かないけど、開発全体の生産性を上げるような部署に行ってみて、そういったスキルも伸ばしたいと考えています。ただファイルボックスに関わるようなところではあるので、まだまだファイルボックスとは長い付き合いになりそうです。
ニャゴロウ:基盤寄りに行くというのは意外です。あれだけフロントエンドの話をしてらしたので、てっきりフロントかと。マネジメントも興味がありそうなのに、意外にも基盤。いいですね!一つのプロダクトに対してさまざまな方面から関わっていくというのは、すごく楽しいことだし、知識もつきやすいと思います。とてもいい選択ですね。

永井:freeeには「なんでもやれる、なんでもやる」という、チームで扱う課題について、特定の技術や領域に固執せずオールラウンドに取り組む開発文化があります。
岩下さんはまさにこの開発文化を体現してくれていて、チームやユーザーに還元できると思ったことはできるできないに関わらず、どんどんチャレンジしていってくれています。その中で失敗することも多々ありますが、そこは一つ一つ学びに変えていければこの先もどんどん成長していってくれると考えています。

これからも「なんでもやれる、なんでもやる」という姿勢を無くさないまま、基盤でもマネジメントでもどんどんチャレンジしていってほしです。

ありがとうございました!

ニャゴロウ感想

フロントエンドに興味がある一方で、バックエンドも学びたいとおっしゃったり、マネジメントできるようになりたいとの目標を持つ岩下さん。ご本人は、楽しそうにお話されていましたが、タフで、技術をしっかりと身につけていく力強さを感じました。

また、今回はエンジニアとは「モノを作っている」職業であるということを再認識させてくれるインタビューでした。システムは、物理的に目に見えるものではありません。しかし、利用者がいて、何かをもたらす「モノ」なのです。目先の技術に拘泥するのでは無く、「モノ」を作るための技術を磨いている様が、頼もしいですね。

著者プロフィール

小笠原種高(著者)
小笠原種高(ニャゴロウ)
テクニカルライター、イラストレーター。
システム開発のかたわら、雑誌や書籍などで、データベースやサーバ、マネジメントについて執筆。図を多く用いた易しい説明に定評がある。綿入れ半纏愛好家。最近気になる動物は黒豹とホウボウ。

主な著書に、『仕組みと使い方がわかる Docker&Kubernetesのきほんのきほん』(マイナビ出版)、『図解即戦力AWSのしくみと技術がこれ1冊でわかる教科書』(技術評論社)など。