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食べる人とつくる人を“ストーリー”でつなげる「ポケットマルシェ」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

神奈川県でレストランを営む菅原亜郎シェフは、最高のレモンを追い求めて自ら農園を切り開いた。 彼を支えたのは、生産者と消費者を直接つなぐECサービス「ポケットマルシェ」の存在だという。 生産者と消費者が密にコミュニケーションを交わす新しい販売の形、その真価に迫る。

 

奮闘する国内農家たち

あなたは最近、いつレモンを買っただろうか。昔は、スポーツのあとにシロップ漬けのレモンスライスを食べて疲労回復するという人も多かった。しかし、この流れを変えたのが、一時期話題となった輸入レモンの農薬問題だ。

この農薬問題は、グルメ漫画『美味しんぼ』の中でも取り上げられ、多くの人が知ることになった。同作品内では、女性社員たちがジョギングを終えてレモンをかじっているところに、主人公の山岡士郎がこんな説明をする。「アメリカから輸入したレモンは(中略)全てにOPPという防カビ剤が塗ってある」「OPPは発ガン力が強いため、日本国内では使用を禁止されていたのを、アメリカの圧力に負けて、昭和52年に許可したんだ」。

OPP(オルトフェニールフェノール)をどの程度摂取すると発がんリスクが高まるのかは、さまざまな研究があって一概に言えないものの、これを聞くと不安にはなる。

だが一方で、ここ数年のレモン消費量は伸び続けている。これは、ひとえに国内生産者の努力によるものだ。防カビ剤や農薬を使わない国産レモンを生産し、「瀬戸内レモン」のようなブランド化も図った。2015年の国内レモン出荷量は7090トン(特産果樹生産動態等調査)。同年の輸入量は4万8557トン(財務省貿易統計)。国内流通における国産レモンの割合は12・7%となる。2005年は5%程度だったというから、安全な国産レモンが着実に増えてきていることがわかる。

 

 

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神奈川県小田原でレモン農園「オーシャンレモン」を営む菅原亜郎氏。本 業はレストランのシェフで、食材として最高のレモンを追い求めた結果、 自ら生産することに行き着いた。

 

 

「ポケマル」は生産者の応援団

こういった国内生産農家を強力に支援をしているのが「ポケットマルシェ」だ。通称「ポケマル」は、農産・海産物専門のECサービスだが、出品できるのは生産農家と漁師のみ。中間業者や卸業者は出品できないので、確実に産地直送の食品を購入することができる。

もう1つの特長が、生産農家、漁師と直接メッセージを交換できること。食べ方のアイデアを教えてもらったり、保存の方法を教えてもらうなどさまざまなコミュニケーションができ、万が一クレームがあれば直接伝えることも可能だ。だが、実際はほとんどのメッセージが「美味しかったです!」という感謝の言葉。消費者が安心できるだけでなく、生産者の強い励みにもなるサービスなのだ。

今回、そのポケマルを活用しているというレモン農園「オーシャンレモン(Ocean Lemon)」を訪ねた。オーシャンレモンは、神奈川県小田原市にある耕作放棄地を、自力で切り開いたレモン農園だ。農薬、防腐剤、除草剤はもちろん、化学肥料、有機堆肥も使わないという完全無農薬・完全有機農法でレモンを生産している。

訪れてみてまず驚いたのが、木に成っているレモンの形がスーパーで見かけるレモンとはまったく違うこと。丸々と太っていて、ゆずか夏みかんのようにすら見える。「重量比で約3倍ぐらいにはなると思います」(オーシャンレモン農園主・菅原氏)。一般的なレモンは2月に収穫してしまうが、ここのレモンは木に成らせたまま6月から7月まで熟成させているという。

 

 

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オーシャンレモンでは、農薬や除草剤はもちろん、有機堆肥すら使わない という徹底ぶり。一般的な収穫時期から4カ月ほど遅らせることで熟成し たレモンは、味、香り、健康効果のすべてが別次元だ。

 

 

自ら開拓して作り上げたレモン

オーシャンレモン農園主の菅原氏は、実は専業農家ではなく、本業は神奈川県逗子市にあるレストラン「ブラ・オン・ザ・ビーチ」のオーナーシェフ。イタリア料理とスペイン料理を学び、現在はイタリアンを中心にした料理を提供している。

「料理人として絶対に外せないのが、いい塩、いいオリーブオイル、いいレモンなんです」

塩とオリーブオイルについては最高のものを手に入れるルートを開拓したが、レモンだけがどうしても見つからなかった。ならば自分で作るしかない、と菅原氏が目をつけたのがこの地だった。水はけがよく風が当たりにくい傾斜地は、レモンの生産に適していた。

「レモンの枝にはトゲがあります。風が吹くとこのトゲが実に当たって傷をつけてしまうのです」

当初はジャングルに近い状態だったこの土地を、菅原氏はナタと草刈機を使って、ヘビやハチと格闘しながら切り開いていったという。

また、オーシャンレモンのレモンは、完全有機で安心・安全の食品というだけではない。味も普通のレモンとはまったく別次元なのだ。

「食べた人はみなさん驚かれます。レモンの香りを作る精油は、皮の部分にしか含まれていないのですが、うちのレモンはこれが普通の量じゃないんです。だから、うちのレモンを買ってくれた方は、実だけでなく皮まで全部食べてくれます」

ところが、このオーシャンレモンにはある問題点がある。それは、現段階でビジネスとして成り立っていないことだ。完全有機農法だと安全で美味しい最高のレモンが作れるのだが、収穫量は一般的な農法に比べてわずか4%程度。25分の1だ。ということは、レモンの値段も一般レモンの25倍に設定しなければ成り立たないことになる。オーシャンレモンでは、グラム2・5円を価格の基準にしている。熟成レモンは1個およそ300グラム程度なので、計算すると約750円。このくらいの価格が消費者の出せる上限といっていいだろう。

オーシャンレモンの1年の収穫量は400キロが限界だという。すると、年の売上は約100万円。そこからさまざまな経費が必要となるので、とても農業だけでは成り立たない。「農法はサステナブルなのに、ビジネスとしてはアンサステナブルなんです」と菅原氏は笑う。

だが、菅原氏はレモンで大もうけをしようとは考えていない。夢は、同じように完全有機のレモンを作る生産者が増えて、多くの消費者が健康を享受し、その輪が広がっていくこと。そのためには、大もうけできずとも黒字化のモデルを作らなければならない。菅原氏はレストランを営む傍ら、定休日には必ず農園を訪れてレモンの品質管理に汗を流し、今年は正月以来休んでいないという。自分が完全有機農家として成功しなければ、追従する者も現れないという自負があるのだ。

 

「ポケマル」にはストーリーがある

そんな菅原氏を支えているのが、ポケマルだ。ポケマルのことは何かの雑誌で知り、社長の信念に心惹かれたという。

「ポケマルの農産物にはストーリーがあるんです。消費者はお金で農産物を買っているのですが、同時に農産物にまつわるストーリーも体験してくれています」

菅原氏がどのような思いでこのレモンを作っているか、それを理解したうえでレモンを食べる。もはやただのレモンではなくなっているのだ。

この農園で採れたレモンは、当然菅原氏のレストランでも出している。生牡蠣に添えたり、レモンウォーターにしたりと提供方法はさまざまだ。菅原氏がお店でレモンについて説明すると、みな皮まで食べてくれ、ファンになってくれるという。

「うちのレモンを食べ続けてアトピーが改善したお子さんもいます。味と香りだけでなく、自然の恵みには健康効果もあるんですね」

食べた人から続々と届く喜びの声。そんな菅原氏が今、力を入れているのがレモンの活用法や高い健康効果について教える講座だ。「このレモンを身近なものとして毎日食べてほしい」と望む菅原氏は、消費者との価格意識の壁をどうにかなくそうと努力している。そこで、発酵ジャムや発酵レモンウォーターなど、ランニングコストの低い使い道を自ら伝えることで、レモン1個に750円出しても元が取れたと思えるベネフィットを提供しているのだ。

「いつか、こういう講座をポケマルを通じて開催できたらうれしいですね」

 

af_biz_sum_icon.jpg ポケマル-旬の食べ物そのまま農家漁師から

【作者】Pocket Marche, Inc. 【価格】無料
【場所】App Store>フード/ドリンク

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農家・漁師と消費者を直接結ぶ販売サー ビス「ポケットマルシェ」。中間業者は出品 できないので、確実に産直品を買うことが できる。アプリだけでなくWEBからも利 用可能だ。

 

 

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ポケマル内での菅原氏のページ。プロフィールに生産品の情 報を詳述することで、消費者も安心して購入することができる。 気になった生産者をフォローすれば、新規出品された際に通知 してくれる。

 

 

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生産者に質問したり、感想を 伝えたりと気軽にコミュニ ケーションを取れるのがポケ マルの魅力。ときには生産者 が自らレシピや食べ方を教え てくれることも。

 

ポケットマルシェのココがすごい!

□出品者を農家・漁師に限定することで新鮮な産直品を買うことができる
食べ方の質問や、食べた感想も生産者と直接やりとりできる
生産者が発信する情報を見て、信頼できる生産者から買うことができる



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