なぜ東大生の3人に1人がMacBook Proを選ぶのか?|MacFan

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大事なのはマシン性能だけじゃない!

なぜ東大生の3人に1人がMacBook Proを選ぶのか?

東京大学駒場キャンパスの生協では毎年、「駒場モデルパソコン」なる商品が新年度に登場する。その中身はMacBook Proにさまざまなオプションが加わったもので、新入生の3人に1人が購入し、毎年完売するという。なぜ、東大ではMacBook Proがそこまで使われているのか?同モデルを推し進めるキーパーソンに話を聞いた。

 

東大生協店長が語る「駒場モデル」の秘密

斉藤謙作

東京大学消費生活協同組合 駒場購買部店長。2016年から東大生協推奨パソコンとしてMacを導入し、翌年には1200台を売り上げた。

 

 

WinからMacへ 予想外の大ヒット

毎年3000人余りの学生が入学する東京大学。入学した学生は、1~2年生の間を目黒区にある駒場Ⅰキャンパスで学生生活を送る。東京大学消費生活協同組合(以下、東大生協)が運営するキャンパス内の購買部では毎年、新入生に向けたさまざまな新生活、および学業の準備のためのサポートを行っている。そんな中の人気商品のひとつに、「駒場モデル」と呼ばれるパソコンがある。3月から4月にかけて新入生向けに販売されるこのパソコンの正体は、13インチのMacBookプロだ。

「東大生協では以前、学生用の推奨パソコンとしてウィンドウズのノートPCを販売してきました。東大ではパソコンは必携というわけではありませんが、レポートや課題、プレゼンシートの作成など、パソコンの使用は実質的に必須になるので、そのための推奨パソコンとして毎年用意しているものです」

そう語るのは、東大生協駒場購買部の斉藤謙作店長だ。駒場購買部で推奨パソコンとしていたウィンドウズのノートPCがMacに変更されたのは、2016年のこと。以降、Macが推奨モデルとなり、2017年からはMacBookプロに変更。そもそものきっかけは、キャンパス内に大量導入されていたiMacだった。

現在東大駒場Ⅰキャンパスでは、図書館や自習室、さらに教室内に設置された端末など、学生が利用するすべてのパソコンがMacになっている。東大のMac導入は古く、2004年にさかのぼる。その後もMacを採用し続けていた東大は、2016年2月の学内教育用計算システム(ECCS)刷新に伴い、4期目のMac大量導入を実施。駒場キャンパスにも850台ほどのiMacが新たに設置された。その環境に合わせるというのが最初の理由だったと、斉藤さんは言う。

「以前から、大学内のパソコンがMacなのだから、生協の推奨パソコンもMacにしてはどうだろうという話はありましたが、世間的にはウィンドウズがメインだったこともあり、ウィンドウズPCの販売が継続されていました。2016年のECCS刷新のタイミングで、Mac販売の議論が再び持ち上がったのです。併売も検討しましたが、東大のパソコン事情を鑑みて、完全にMacに切り替えるという結論になりました」

それまで駒場の購買部では、新入生向けに500~600台のウィンドウズノートを販売していた。

「2016年は、13インチのMacBookエアを駒場モデルパソコンとして販売することにしました。学内のマシンがすべてMacだったこともあって、販売台数は伸びるだろうという読みがあり、800台の販売予定で予約を取り始めたんです。すると、すぐに台数が足りない事態になりました。思っていたよりもニーズが高かったんですね」

なんとか台数を確保して、2016年は約1000台のMacBookエアを販売。斉藤さんたちの予想を大きく上回る数字だった。

「初年度は1000台で足りないくらいだったので、翌年のMacBookプロは台数を1200台に設定し、こちらも完売できました」

このようにして、新入生の3人に1人以上がMacを購入する大学生協が誕生することになったのだ。

 

東大駒場Ⅰキャンパスに大量導入されているMac

東大にMacが大量導入されたのは、2004年のことだ。ECCSと呼ばれる教育用計算システムが駒場キャンパスに設置され、1149台のフラットパネルのiMacが導入された。このiMacは、ネットワーク経由で起動や制御を行う「ネットブート(Netboot)」という仕組みを用いており、マシン内のストレージから起動するローカルブートに比べてセキュリティ面やメンテナンス面での利便性が高く、高速に動作することがメリットとなっていた。

以降、東大ではシステムの刷新などに合わせて3期(12年)にわたってMacが採用され続け、直近では4期目となる2016年2月のECCS刷新に合わせて、新たにiMac1341台を導入している。東大生協が推奨パソコンをMacBook Airに切り替えたのは、この直後ということになる。現在、図書館や自習室、演習室などに設置された学生が利用する端末は、すべてMacとなっている。

東大がMacを採用する理由は、①豊富なアプリケーションが利用できる、②UNIXが動作する、③Windows/macOSのデュアルブート環境が構築できる、など。ただし、ECCSでのデュアルブートはApple標準のBootCampを利用したものではなく、「ブイスリー・シームレス・プロビジョニング(vThrii Seamless Provisioning)」という仮想化システム上で動作している。ブイスリーはディスクイメージをネットワーク経由で転送してクライアントのOSを起動するが、一度起動したOSのキャッシュを保持し、アップデートがあっても差分のみを転送してOSを起動できるなど、ローカルブートと同等の速度で利用できる特徴がある。

演習室など、コンピュータで実習を行う授業では、設置されたiMacを利用する。CADソフトなどを使用する場合は、Windowsで起動することになる。

 

駒場Ⅰキャンパス内の学食を覗くと、必ず何人かの学生がMacBook Proを開いているシーンを見かける。

 

 

人気の理由は4年保証と講習会

キャンパス内の端末がMacだとしても、学生が積極的に生協でMacを購入するという話は、あまり聞かない。そもそもアップル製品は販売店による値引きなどはほとんどなく、本体だけならどこで購入しても価格はあまり変わらない。オンラインのアップルストアを利用すれば、学生割引も適用可能だ。ではなぜ、東大の新入生は生協でMacを買うのだろうか? その理由は「駒場モデル」の独自のセット内容にあると、斉藤さんは語る。

「東大生協ならではの保証やサポート体制が、人気の理由だと思います。まず保証ですが、アップルが用意しているアップルケアプラス(AppleCare+ for Mac)とは別に、独自の4年保証を付けています。入学から卒業まで保証が効くというわけです。また、自然故障や初期不良だけではなく、動産保険も付いてきます。たとえば、不注意で落としたり、液体をこぼしたりして故障した場合でも、保証限度額以内であれば免責額5000円で修理できるんです。さらに、修理中の代替機の貸し出しも行っています」

卒業までの保証や代替機の用意は、学生が学業に専念できるように、という生協ならではの計らいが感じられる。新入生にとっては、かなり心強い保証になるだろう。

駒場モデル独自のセット内容はそれだけではない。新入生からもっとも評判が高いのが、パソコン講習会だ。

「東大では、先輩学生が新入生の学生生活におけるさまざまなサポートを行ってくれます。その一環として、駒場モデルの購入者にはパソコン講習会が用意されています。学内システムの使い方など基本的な講習はもちろん、課題に合わせたレポートの書き方やプレゼン資料の作り方など、Macを利用するうえで役立つ情報を先輩学生が教えてくれるとあって、参加者からは好評ですね。講習内容も、先輩学生たちが中心になって考えてくれています」

また、使用中のMacに不具合がないかをチェックする、「学内無料点検会」も開催している。

「こちらは修理会社に協力してもらって、年に1回行っています。Macを直接持ってきてもらい、目の前で不具合がないかチェックするんです。『異常がなくても、とりあえず持ってきてください』と案内してるので、不具合のない人も参加します。こちらでチェックして、もし不具合が見つかれば修理を勧めています」

中には、不具合があっても気がつかなかったり、違和感があっても面倒で普段は修理に持ってこなかったりする学生も多い。

「とりあえず持ってくれば、目の前で異常がないか確認でき、もし見つかったらすぐにアドバイスがもらえるという体制が、参加者に好評のようです」と、斉藤さんは分析する。加えて、生協購買部がサポート窓口として利用可能となっており、開店時にはいつでも相談することができるのも、大きなメリットだ。

 

まさに至れり尽くせり!「駒場モデル」の全貌

「駒場モデルパソコン」のセット内容

パワフルなメインマシン
MacBook Pro(13-inch,2017)

価格はフルセットで23万9800円! ※講習会なしセットは22万9800円

メインとなるマシンは13インチのMacBook Pro。Touch Barなしのモデルで、カラーはスペースグレイだ。CPUはクロック周波数2.3GHzのIntel Core i5。上位モデルと比べると数値的に劣っている印象を受けるが、Turbo Boost使用時には最大3.6GHzで動作し、コストパフォーマンスの高いモデルと言える。ストレージは256GB。

なお、より軽量なマシンを利用したい学生には、ローズゴールドのMacBookも選択肢として用意している。

 

先輩が選んだプリンタ&アクセサリ
PRIVIO DCP-J972N

【発売】brother

セット内容には、先輩東大生が選んだプリンタやアクセサリも含まれている。PRIVIO DCP-J972Nは、無線LANでの印刷に対応したマルチプリンタ。学生は講義資料を印刷する機会も多いので、家にいながら素早く印刷できればとても便利だ。

アクセサリとして付いてくるのは、ポータブルHDD、3ポートUSBハブ、Mac用パソコンケースの3つ。どれもMacユーザ必携だ。

 

安心の4年保証

Apple Care+ for Macの3年間よりも長い4年間の保証は、入学から卒業までの期間をサポートするために東大生協が独自で用意したものだ。また、動産保険も付いており、落下などで誤って壊してしまった場合でも、免責金の5000円を負担すれば修理してもらえる。補償限度額が設定されていて(1年目15万円~4年目6万円)、到達するまでは何度でも補償を受けることができる。

さらに、修理の際にも課題やレポート制作で困らないよう、代替機サービスを用意。修理している間もMacを使用できるのだ。

Apple Care+では保証対象外となる自己責任による故障でも、東大生協では保険を適用できる。

 

 

充実したサポート体制

駒場モデル購入者は、年1回行われる学内無料点検会に参加可能。自分のマシンを持ち込めば、その場で不具合がないかをチェックしてくれる。また、生協購買部がサポート窓口となっているので、わからないところや不具合があった場合は、いつでも相談に乗ってくれる。

 

 

先輩による講習会

セット内容の中でもっとも力が入っているのが、先輩学生による講習会だ。講習内容は学生が主導で構成しており、生きた情報が手に入る。

講習は4~5月の週末に開催。「学内システム講習会」「レポート講習会」「プレゼンスキルアップ講習会」など、単なるMacの使い方ではなく、学生生活ですぐに役立つ情報が盛り込まれている。講師も先輩学生たちが務めているので、経験を踏まえたノウハウが得られると評判だ。

グリーンのウェアを着た先輩学生が、熱心に指導してくれる講習会。Macの使い方からレポートの書き方まで、充実した内容だ。

 

駒場モデルのメインマシン変遷

 

 

実はコスパに優れたMacBookプロ

現行の駒場モデルについて、その内容と選定した経緯を聞いてみた。最新の駒場モデルにMacBookプロを採用したポイントはどこにあるのだろうか。

「2016年は、持ち運びに便利なMacBookエアを推奨モデルに選んでいました。13インチをメインで販売して、より軽量なものが欲しい学生には11インチも用意するという形です。しかし、2016年末に11インチモデルが販売終了となってしまった。軽量モデルの新たな選択肢としてMacBookが挙がりましたが、13インチのMacBookエアとMacBookを併売すると、アーキテクチャの違いもあってどちらが上位モデルなのか微妙になってしまいます。また、MacBookはUSB─Cポートを搭載しているのに対し、MacBookエアはUSB─Aポートのみ。周辺機器のことを考慮すると、インターフェイスの違いもモデル選定のネックになりました」

加えて、2016年末にMacBookシリーズが大幅アップデート。新しく登場したMacBookプロのタッチバー非搭載モデルと、その年採用していたMacBookエアの価格差が少なかったこともあり、推奨モデル変更を決めた。

「東大生には、やはり一番いい機種を使ってほしい、という思いもありました。タッチバーは使用頻度の割にコストが上がり過ぎるので、最終的にファンクションキー付のモデルを選ぶことになったんです。軽量モデルとして、女性にも人気のローズゴールドのMacBookも用意しています」

結果的に、MacBookシリーズの現行ラインナップの中では、実用的でコストパフォーマンスの高いモデルが選定されたといえるだろう。

最新の駒場モデルのセット内容は以下のとおりだ。

■13インチMacBookプロ(2017、タッチバーなし、スペースグレイ)
■プリンタ「PRIVIO DCP-J972」(brother)
■アクセサリ類
  ・ポータブルHDD
  ・3ポートUSBハブ
  ・専用パソコンケース
■4年保証
■パソコン講習会

セット価格は、23万9800円(税込)。同様のマシンを学生価格で購入し、3年保証のアップルケアプラスを付けた場合、合計額は19万6776円。プリンタや講習会、保証の違いやサポートを含めると、価格的にも魅力的なパッケージといえるだろう。セット内容は、バックアップなどのトラブル対策も考慮しているそうだ。

「ポータブルHDDをセットにして、講習会ではタイムマシン(Time Machine)の設定方法についても説明しています。タイムマシンでバックアップしておけば、修理が必要になって代替機を使うときも自分のパソコンと同じように作業ができるからです」

ちなみに東大生は、大学の包括ライセンスでマイクロソフト・オフィス(Microsoft Office)を無料でインストールできる。インストール方法と使い方はパソコン講習会で教えてくれるというから、まさに至れり尽くせりだ。

 

MacBook Proを推奨するポイント

(1)ハイスペックかつ価格/重量が良バランス

MacBook ProのTouch Bar非搭載モデルは、その高いスペックに比して価格が抑えられている(表は現行モデル)。また、軽量なMacBook Proはモバイル使用にも問題ないと判断。

 

(2)USB-Cポートが2つ使える

周辺機器のことを考えると、インターフェイスも重要になる。MacBook ProはUSB-Cポートを2つ搭載。レポートや課題作成時など、何かと外部機器を接続することの多い学生にはうれしいポイントだ。

 

(3)東大生には最良の機種を

2016年の推奨モデルだったMacBook Airはアーキテクチャが古く、卒業までの4年間使うとなるとやや心許ない。東大生には上位機種を使ってほしいという生協の意向もあり、より長く使えるMacBook Proが採用された。

 

 

駒場モデル販売で学内の風景に変化も

ウィンドウズPCから推奨モデルをMacに変更し、今年で3年目。1200台ものMacBookプロ、しかも多くの初心者を含む状況でのフルサポート体制は、かなりたいへんなのではないかという懸念もある。しかし、ウィンドウズPCを500台販売していたころと、サポート件数などは変わらないと斉藤さんは言う。

「特に初年度は、販売台数が1000台に増え、しかも初めてMacに変更したこともあって、サポート体制がどうなるかという不安はあったのですが、杞憂でした。講習会後、サポート件数は1日に何回かあるかという状況です」

また、Macに変更して、マシンの安定性も格段に上がった印象があるという。

「ウィンドウズPCのときは、講習会で説明しているとそこで初期不良が見つかって交換、なんてことが起きていたのですが、Macにしてからは皆無です。年間を通しても、初期不良は1件あるかないか。もちろん、使っていて破損したという相談はときどきありますが、それは補償が効きますし、何より学生たちが普段からMacBookプロを持ち運んで、使ってくれている証拠なので、その意味ではやりがいも感じますね」

実は斉藤さんも、駒場モデルをMacに切り替える前はウィンドウズユーザだったそうだ。

「Macを仕事のマシンとして使い始めたのは、2016年からなんですけど、正直困ったことはあまりないですね。それこそ、右クリックボタンが見当たらないとかで、最初は戸惑ったりしましたが、使い始めたら本当に便利。Macの魅力は自ら体感しています」

斉藤さんがMacを使い始めて特に便利だと思ったのは、何気ない部分の使い勝手のよさだという。

「派手な機能ではないですが、スリープからの復帰の速さはフラストレーションがないですよね。あとバッテリの持ちがよく、残量を気にせず単独で持ち歩けるのは便利です。また、トラックパッドも使いやすいです。反応がちょうどよくて、まさにiPhoneを触っているような感覚ですね」

この先、東大生協では、どのような展開を考えているのだろうか。

「やはり、講習会の内容をより充実させていきたいですね。ここが自分たちの強みだと思っているので。学生たちのMacの使い方をより細かくリサーチして、学生のニーズに合った商品やサービスを積極的に導入したいと思っています。どれだけ生協の価値を上げられるかというのは、講習会を含むサポートの価値を上げることだと考えています。先輩学生が新入生に熱心にMacを勧めている姿を見ると、生協でのMac導入がうまくいっていることを実感できますね」

 

 

MacBook ProやiPadが販売されている東大駒場キャンパスの生協購買部。ちなみに、東大生協が推奨している電子辞書は、MacBookを超える約1500台を毎年売り上げるという。

 

 

駒場モデルをMacに切り替える前は、Windowsユーザだったという斉藤店長。「いざ使い始めると、Macのほうが便利なことが多かった」と購入時を振り返る。