もはや誰にとっても、 iPadは特別な存在ではない|MacFan

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【馬橋小学校 iPad 実証研究】

もはや誰にとっても、 iPadは特別な存在ではない

文●栗原亮

いまや世界中の学校教育現場でiPadを取り入れた授業が行われているが、国内でもようやくiPadの導入が現実の動きとなり始めている。公立小学校1年生の生活科の「iPad実証研究公開授業」に参加した。見えてきた課題とは?

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iPadで「教え方名人」になる



千葉県松戸市にある馬橋小学校は、児童数598名・教職員数28名(2013年度)という首都圏郊外では標準的な規模の公立校だ。コンピュータ教育には積極的に取り組んできており、教職員用のシステムに加えてPC教室にはウィンドウズのノートパソコンが設置され、構内には有線LANも備わっている。今回の実証研究に際しては第4世代のiPad42台が試験的に導入されたが、既存PCのリプレースを目的とせず、一定期間だけ特定のクラスルーム全員に支給し、単元終了後には別学年のクラスへ巡回して実証研究を続行していく計画だ。

今回公開された授業となった小学1・2年生向けの「生活科」は、一定世代以上には馴染みのない教科だろう。体験的な学習活動が重視されており、実施中の単元は「ふゆとなかよし」という標題で、冬にできる伝統的な遊びを通じて家族や生徒の間での教え合いや交流を深めるというのが教育目標だ。この日の小単元は「むかしのあそびにちょうせん!」、けん玉、あやとり、おはじき、お手玉を生徒がペアとなって教え合うというものだ。授業としては3回目で、iPadの基本操作とカメラアプリの操作は特別な指導はしていないが、過去の授業においてすでに学習済みであった。

堤由美子教諭から学習課題の説明を受けた1年生32名は、各テーブルに分かれて2種類の遊びを相手に見せ始めた。その様子をペアとなった生徒がiPadで撮影し、遊び方のテクニックをビデオで再生したり口頭で説明していくというのが授業の大まかな流れである。授業の前半が終了したところで、iPadで撮影すること自体が目的ではなく、相手に遊び方のコツを教えることが大事であることを再確認すると、後半は生徒たちがこれまでより丁寧に手取り足取り上手に教えていく様子が印象的であった。

例えば、けん玉の場合は手先の動きだけではうまくいかないが、全身の姿勢や重心移動がポイントとなる。それを小学1年生の語彙力で相手に伝えることは難しいが、iPadのビデオで撮影することで膝の使い方やタイミングなどを客観的に伝えられるようになる。うまくできなかった生徒も、上手な生徒の映像を繰り返し見ることによって短時間で上達の兆しが見られた。もちろん、iPadを使わずに遊び方のコツを上手に教える生徒もいるが、公開授業全体として多くの生徒がiPadをごく自然に使いこなしているというのが正直な感想だ。

堤教諭によるとデジタルネイティブ世代の子ども達にとって「iPadはそれほど珍しくもなく、家庭やその他の場所で触れる機会が多くなっている存在」で、むしろ学校にないことのほうが不思議と捉えているほどだ。授業で自分やクラスメイトの様子をカメラで撮り、撮られることについても生徒達は恥ずかしがりつつも心から楽しんでいる様子だった。もちろん、対象が高学年になればネットワークへの接続なども行われるためセキュリティやプライバシー管理など複雑な課題があるようにも思われる。だが、その多くは技術的に対策可能な問題であり、もはやiPadの教育現場導入を妨げる要因にはならないだろう。

何より、いまや子ども達にとってiPadは大人が考えるような「最新のIT機器」ではなく、学用品を収める現代の「お道具箱」に過ぎない。授業終了後に子ども達がiPadを大切そうに抱えて移動する様子を見て、その思いを新たにした。
 







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iPadを活用した公開授業を行った馬橋小学校堤由美子教諭(右)と、実証研究をプロデュースし新しい授業の姿を提案する「D-project 2」の会長である放送大学ICT活用・遠隔教育センター教授の中川一史氏(左)。



『Mac Fan』2014年4月号掲載