「エアレジ」を 無料で配布する本当の理由|MacFan

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【リクルートが仕掛ける ハッピー トライアングル】

「エアレジ」を 無料で配布する本当の理由

文●牧野武文

リクルートは「エアレジ(AirREGI)」というPOSレジ機能アプリを無料で配布している。iPhone/iPadをレジ代わりに使えるようになるというものだ。一般には高額になることが多い業務用アプリを無料で配布する狙いはどこにあるのだろうか。それは「マネタイズ」などという単純なことではなかった。

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リクルートライフスタイルが発行する各種情報誌。
 

だから、無料にする



リクルートは2013年4月に、店舗向け業務用無料アプリ「エアレジ(AirREGI)」をリリースした(メールアドレスによるユーザ登録は必要)。これはレジ機能をiPhone/iPadで実現するアプリで、昨年から、1000名にスターターパックを配布するというキャンペーンを2度展開した。このパックには、アプリはもちろん、なんとiPadまたはiPadミニ、さらに専用プリンタやキャッシュドロアなども含まれて、これがすべて無料でレンタルされるという内容だった。

このエアレジアプリは、いわゆる小規模店でのレジ機能のほとんどすべてを含んでいる。商品(メニュー)と価格、テーブルなどを事前に登録してカスタマイズしておけば、会計時にタップするだけで会計作業が完結する。独自のポイント付与などにも対応できる。また、対応プリンタを使えばレシートを発行することも可能だ。さらに、売上情報はリクルートが用意したクラウドスペースに集計され、あとから分析をすることなどが、スマートフォン、タブレットから簡単に行える。高価な業務用レジアプリと比べれば、機能的にはシンプルだが、シンプルである分、幅広い業種で使える汎用性につながっている。

リクルートという大企業が、本気で店舗向けアプリを開発し、しかもこの大盤振る舞いのキャンペーン(2回目となるキャンペーンは2月23日で終了)。同社はエアレジで何を目指しているのだろうか。リクルートライフスタイルでエアレジを主導する大おおごしともたか越知高氏に話を聞いた。

「今のところ、業務支援以外の目的がはありません。このエアレジで何か大きなビジネスを立ち上げようとしているわけではなく、あくまでエアレジを使う店舗の業務支援が目的です」

例えば飲食店を考えた場合、店側が考えるべきことは「味」と「接客」だ。その観点からみれば、“雑務”であるはずのその他業務の作業負担は意外に大きく、特に小規模店では価格やメニューの変更、注文などが効率化されているケースは稀で、本来の「味」と「接客」にリソースを十分活用できていないという問題がある。もう1つの問題は、いわゆる既存のレジシステムでは場所もコストも負担が大きいということだ。加えてそれらシステムを使いこなすためには当然時間も必要となる。

このような問題をエアレジなら解決できる。使いやすいアプリインターフェイス、カスタマイズも売上管理も実に簡単で、商品とサービスの質を高めるという本来の仕事に自分の時間を振り向けることができるようになる。エアレジが目指しているのは、こうした店舗への業務支援だ。これで店舗のサービスが向上すれば、消費者からリクルートのレストランガイド誌である『ホットペッパー』に掲載されているレストランなら安心というイメージをもってもらうことができる。そうなると、レストランからは「ホットペッパーに掲載すると集客効果が見込める」となり、いい循環が生まれる。それが当面の狙いだという。

では、そのプラットフォームにiOSを選ぶ理由はあるのか。「iOSは規格が統一されているので開発しやすいことと、ブランド価値を構築しやすいこと。やはりiPadなら皆さんの関心と注目が高いです。また、こういった大きなキャンペーンでもiPadならスグに台数が確保できます」

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エアレジの使い方は、ほとんど誰でも初見で理解できる。インターフェイスの完成度は高い。集計データは、クラウドに蓄積されるので、Wi-Fi圏内であれば店舗のどこでも会計作業ができるようになる。

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エアレジのキャンペーンでは、店舗であれば誰でも応募ができる。セット内容はiPadまたはiPadミニのほか、レシートプリンタやiPadケースなども付属する。応募者負担は一切なしという大盤振る舞いだ。ただし、後日、アンケートや取材を受けることがある。1000名限定で2月23日までが応募期間だった。今回は第2弾だが、第3弾のキャンペーンの時期は未定。
 

本業の強化と幅の拡大



「当面何か一儲けしようと企んでいるみたいな発想はまるでないですね(笑)。ですから、エアレジアプリはずっと無料でいくつもりです。もちろん、レシートプリンタやその他の周辺機器、カード決済接続や特定の業種のみに必要なオプション機能を有料化する可能性は否定できませんが、基本的にはできるだけ無料でいきたい」

単体の事業だけをみれば、大盤振る舞いのキャンペーンを打っていることもあり、赤字事業だ。当然、例えば「エアレジにクーポン機能などを組み込み、そこで利益を上げる」「売上データをビッグデータ化して、コンサルティング業務を行う」などの狙いがあるのではないかとつい考えてしまう。

「それも今はないですね(笑)。もちろん営利企業なので、将来もそのようなことはしないと私の口から申し上げることはできませんが、少なくとも現在は直接的なマネタイズは一切考えていません。あくまでも顧客である店舗の業務を質を高めたい。そこが目的です」

リクルートには『ホットペッパー』『じゃらん』『カーセンサー』『ゼクシー』などの各種情報誌がある。しかし、いずれも紙媒体、ネットで競合サービスが生まれ、競争が激化している。その中でリクルート情報誌のブランド価値を維持するために、顧客店舗の業務の質を高めることが重要なのだ。

「私たちは、飲食店や旅行関係企業の方々とは情報誌を通じてお付き合いがあります。しかし、それ以外の業種の店舗の方々とは今までは接点があまりなかった。このエアレジをきっかけに新しい接点が生まれることも期待しています」

実際、無料キャンペーンの応募者の業種をみると、圧倒的に飲食店が多いが、ホテルや美術館などもあるという。ホテルや美術館には小さなギフトショップがあることが多いが、これは販売利益を上げることよりも、顧客へのサービスといった色彩が強い。そのような小規模店で、本格的なレジを導入するよりもエアレジを導入したほうがコストを抑えられ、不慣れな店員にも使いやすく、また顧客にもスマートな印象を与えることができる。また、整骨院や歯科医院からの応募もみられるという。あくまでも基本的なレジ機能だけに限定することで、業種の広がりが出ているのだ。

 

ハッピートライアングル



ところで、エアレジのロゴの先頭には三角形のマークがある。これはリクルート内部で「ハッピートライアングル」と呼ばれている図形だ。それぞれの頂点は消費者、店舗、リクルートの意味。

「消費者と店舗をマッチングさせる。それが私たちの仕事だと考えています」

リクルートというと、店舗や企業から情報広告の注文を取り、それを消費者に無料あるいは低価格で配布するという「広告誌ビジネス」が創業時のビジネスモデルだった。しかし、それは今や中心ではなく、「消費者と店舗のマッチング」が中心のビジネスモデル。。

「例えば、じゃらんなどでは広告料、出稿料という形ではなく、消費者が利用したら成果報酬をもらうという仕組みになっています」

ハッピートライアングルという枠組みの中で正しく考えれば、エアレジはこのトライアングルを強化するための当然やるべき事業だということが理解できる。業務用アプリというと5年前は「高いのが当然」だった。しかし、クラウド、iPhone/iPadの登場によって「1ユーザあたり月額何百円」というサブスクリプション方式による低価格が一気に進んだ。そして今、本業とアプリという2つのレイヤーを重ね合わせることで、0円業務アプリが登場しだした。私たちは、リクルートのハッピートライアングルを自分の業種に置き換えて、この三角形を強く意識する必要があるのではないだろうか。
 





 

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リクルートポイントが使えたり貯めたりできる「Airウォレット」にももちろん対応。Airウォレットは2月14日より開始されている。

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株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス推進室リアルマーケティング開発グループの大越知高氏。エアレジを将来、予約システムや日報システムなどとクラウド経由で連動させていきたいという。店舗では複数の業務アプリが使われ、その中心にエアレジがあるという世界を理想として描いているという。



『Mac Fan』2014年4月号掲載