2014年の「教育とApple」はどうなるか?|MacFan

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2014年の「教育とApple」はどうなるか?

文●山脇智志

教育のデジタル化はもはや約束された未来となった。その進路を決めるのは間違いなくアップルの製品群である。2014年の様相をアップルの製品と各種リサーチデータ結果から読み解く。

アップル製品の影響力


本稿を書いているのは2013年12月の初旬である。本連載の第1回目からおおよその記事を執筆させてもらい、早1年と数カ月が経過した。私の場合、プロのライターや編集者の方とは違い、日頃は教育とITを融合した事業を行う会社を経営しながら、その仕事の中で発見したことや出会った人に取材を行い、それを駄文としてここに連載してきた。

本連載を開始してから少し変わったことがある。それはあまりにも当たり前すぎるアップル製品の教育シーンにおける台頭を「意味あるもの」として再定義しながら見始めたことだ。あるものは溜まり、あるものは駿足で過ぎていくそれら情報の取捨選択を考えるようになった。そして、それがゆえにぼんやりと浮かぶアップルの教育との関わり方も見えてきた。もしかしたら私だけに見えているのかもしれないその姿、とりわけ来るべき新年の幕開けを前に、2014年における「教育とアップル」を予想してみたい。

「iPhoneが“スマホ受験元年”を牽引する」
2014年は受験教育/学習におけるスマートフォンの活用が当たり前のものとして定着するだろう。現在すでにITをベースにしたいくつかの受験支援サービスが事業を行っている。大手教育企業から、まだ現時点で事業計画を認したためているアントレプレナーまでを含めれば、そのプレイヤー数は潜在的にはものすごい数になるはずだ。

その理由には、この市場の規模感とテクノロジーの浸透の2つが挙げられる。

日本における教育市場は2470億ドル(約24兆円)だ。この市場規模のほとんどは公教育市場、その中でも国や行政が管轄するいわゆる「官」の市場が大部分を占める。もちろん、この市場を狙うという手もあるが、ビジネス的観点からいえば非常に「タフ」な市場だ。特に教育ベンチャーが狙うにはあまりにも壁が高すぎるし、時間もかかる。では公教育に次ぐ規模を持つ市場はどこかといえば、それが「受験市場」だ。

例えば大手が林立する大学受験予備校市場は全部で4000億円といわれている。また就学児から高校生および大学受験者向けの通信教育市場は1925億円で、合算すれば6000億円ほどの市場規模となる。さらにこれに中小の塾や予備校を合わせた市場は9400億円ほどだ(しかし、それさえも教育市場全体から見れば「一部」だが…)。そしてこの市場のメインユーザたる学生たちは現在進行形でスマートフォンへの移行が進む大きなユーザ層であり、かつもっとも日常的に端末を利用するユーザ層でもある。

端末移行を進めたい携帯電話会社と端末メーカー、そしてスマートフォンを使いたい学生をつなぐのがこの「受験学習」だともいえる。端末自体が日常生活における絶対的必要性を有するスマートフォンによる学習は受験対策のためにその姿をより進化させるだろうし、市場に対して新たな参入者も増やすはずだ。

もちろん、受験のスタイルが相変わらず紙と鉛筆で行われている以上、デジタルやITの経験則が100%の確率で受験時に活きることはないのは重々承知だ。しかし、その部分を補うほどに、テクノロジーの進化は素早い。そして何よりもその進化に寄り添うように生まれるユーザ文化の加速度感には驚くほかない。

2015年春に向けた戦いは学生だけではなく、市場を塗り替えるための企業による戦いでもあり、それはすでにスタートしている。そして、その中心にいるは2013年、ついにNTTドコモが加わったことで国内携帯電話会社すべてからの発売を実現したiPhoneだ。

「IT人材、グローバル人材の創出支援をMacが担う」
教育現場におけるロールモデルが東大を頂点としたヒエラルキーの中で動いてることにしばらく変化はあるまい。しかし、その代替案ともいうべき選択肢が現れただけでなく、実際に価値をもって学生や保護者、そして学校関係者をも巻き込んで伸張している。それは昨今、教育現場というよりはむしろ政治や教育行政のみならず、経済や通信の領域でも喧かまびすしい「IT人材」、そして「グローバル人材」の育成に関してである。

実はこの2つの領域において2014年はMacの価値がより一層高まるのではないかと思っている。

理由は極めてシンプルだ。現時点でiOSアプリを開発するための環境はMacだけだからだ。世界的に見ればiOSデバイスの数はアンドロイドに攻め込まれて過半数とはなっていないが、先進国とりわけ日本においては相変わらずiOSデバイスは圧倒的なシェアを持っている。そして、今後「アプリ構築ができること」(コード教育)は、グローバルで活躍するIT人材の創出に必要不可欠な要素となる。

現在の公教育の現場ではMacよりもウィンドウズマシンが多く使われているのは周知のとおりだが、実際に若い世代を中心にアプリ開発の気運は高まっており、そうなると学校でのPCの置き換え需要が発生した際にこれまでは遡上に上がらなかったかもしれないMacの導入がより現実的なものになってくるはずだ。もちろん学校での導入が無理であっても価格的にはすでにこなれたMacBookエアなどが中高生のプライベートでの利用で選ばれることも増えていくはずだ。

「タブレット教育と学習市場で苦境を迎えるかもしれないiPad」
教育におけるデジタルとITの利活用といえばタブレット端末が「本丸」である。そしてこのシーンにおいては市場成長性とアップルのそれは同じものではない可能性が見えてきた。

2013年秋に発表された新iPadシリーズの発表は歓声と落胆の両方に迎えられたものとなった。待望のiPadミニのレティナ化や従来のiPadの筐体を薄く、そして中のCPUが増強されたiPadエアの登場など話題は尽きないが、この発表が我々のようなアップルウォッチャーの期待を超えることがなかったのも事実だ。ある意味、この発表によってiPadの限界が見えたといっていいだろう。それはつまり現時点でタブレット端末の代名詞ともいえるこの「革命的」な端末のそのまさに「革命」が終わりを告げようしていることを示しているように見える。だが、このことはタブレット自体の普及が減速することを意味するものではなく、むしろ逆である。メルクマールとしてのiPadに影響を受けるカタチでタブレット市場はより一層加速すると思われる。

2013年はPCの出荷台数がタブレットのそれに抜かれた年「タブレット元年」だった。その中でiPadが圧倒的な強さを誇ったのは、信頼度の高いiOSやアプリの豊富さ、ソフトウェアとハードウェアの質の高さゆえだった。特に法人市場や教育市場における導入の多くがiPadだったことはそれを裏付けるのに十分であろうし、実際にiPadのプラットフォームこそが勃興した教育系ITベンチャー企業などのアプリやサービスにおけるベンチマークとされた。

しかし、2014年はそれが変わってくるはずだ。タブレット端末の機能面での発達の天井が見えた今、アップルのライバル企業の端末は目指すべき部分を明確にでき、同時に教育用途に特化したり、既存のマーケティングパワーや政治力を使った市場参入が起きる可能性が高い。

特にここ最近のマイクロソフトの動きが気になる。同社のタブレット端末である「サーフェス(Surface)」は佐賀県での県内高校での一括導入のほか、立命館小中学校などの個別の学校での採用も発表された。教育市場においては教育効果の実証もさることながら、同調圧力が特に機能する市場であることから導入事例によっては立て続けに右に倣えとなる場合もある。また基本的に先生たちが使っているウィンドウズやソフトウェアとの連動性、IT教育と生徒たちへのオフィス(Office)系ソフトを使えることの同一化、そしてマイクロソフトが持つある種の「政治力」が作用し始めると、特にこの日本においてはiPadといえど大きな流れを簡単には止められそうもない。

唯一それに抗えるかどうかの鍵になるのは、iPad上で最高の体験と最適な使い方を提供できるネイティブアプリの開発者をこれまで以上に揃えることができるかだと思う。ネットへのアクセスが物理的に制限があることの多い学内利用ではアプリ内での処理ができることが非常に大きな意味を持つからだ。

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中高生をはじめ、iPhoneやiPadを使った勉強は当たり前のものになりつつある。スマートフォンによって次の「受験市場」の覇者も変わるのだろうか。
 

教育自体が変わる飛躍の年に


iPhone、Mac、iPadという3つのプロダクトを軸に2014年の教育シーンを俯瞰してみた。それが正しいものになるかどうかは2014年を歩きながらわかってくるだろう。
本稿執筆時に、折しもリクルートが発表した2014年の10個のトレンドキーワードに「スマ勉」が入った。スマートフォンを使った勉強を意味するこの言葉が2014年に当たり前になることは間違いなく、教育がデジタル端末によって大きく変わる年となりそうだ。それにより教育自体にイノベーションが起きることを願ってやまない。

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矢野経済研究所の発表によると、予備校・学習塾市場は9400億円といわれる。2004年度より多少の増減はあるものの9000億円台はキープしている。
 







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2013年度の通信教育市場は1925億円規模。2011年(1885億円)はその89%をベネッセ1社が占めた。

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IDCの調査によると、 今年タブレットはついにPCの出荷台数を上回った。2017年にはタブレットが16.5%にさらに増加し、デスクトップPCとポータブルPCは5%と8%へと減少する見込みだ。




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教室内にずらりと並ぶiMac。授業においてPCの代わりにMacを入れる学校は徐々に増えている。写真はPCの入れ替えタイミングでiMacを導入した宮城県石巻工業高校。

『Mac Fan』2014年2月号掲載